夜話 (後)
遺族席から見る葬儀は新鮮な光景である。
私は一列目の末席で、ちょうど焼香台を正面に位置するアリーナ席だった。
通夜の開始前、弔問客の途切れた合間に甥が「パンチパーマの人を見たか」と問いかけてきた。
見たに決まっている。アリーナ席だぞ。
私が思い浮かべたのは
これが一目惚れかと思うほど一瞬にして目を惹かれた。だが、それ以上にご焼香の作法が斬新だったことが印象に強く残っている。後に呼ぶ機会があるか現時点で不明ではあるが、彼のことは
ご焼香の仕方は自由なのだとカレー坊主さんも仰っているので問題があるわけではないというか、むしろイカすと思ったので他にも誰かの目に留まっていれば良いなとは考えていた。
それまでは抹香を
一つまみ・額に向けてトス・リリース・合掌
一つまみ・額に向けてトス・リリース×3・合掌
上記以外のやり方を見たことが無かった。なんなら前者を見るのも初めてだったので、そういうこともあるのかと受け入れ始めたばかりの時であった。前者派の方が私のやり方を見たらしつこいと思う可能性だってある。そうだとしてもアズパーだけは違った。あの芸術的ともいえるパフォーマンスを私しか見ていないとしたら勿体ない。
すると兄(喪主)が「自分も見た」と言った。
「あれは斬新だった」と。
一つまみした抹香をノーリリースで額に向けて3トス。
合掌。
1つまみにつき1トスしないんだ?新しい。
(試しにやってみていただければ違和感が伝わると思います)
しかし甥が言いたいのは、私が心まで持って行かれたそのパンチパーマではないとのこと。おばあさんだったらしく、だとすれば一人心当たりがあった。
大仏パーマだったかと問うと、そうだったらしい。
葬式の時にのみ見かける遠い親類のK子おばさんかと思われた。兄曰く40年以上前からいつ見てもパンチパーマ。確かに何度かの葬儀で見かけた私の記憶の中でも彼女は常にパンチパーマだった。喪服でパンチパーマ。そういう生物のように認識していたから、もしかしたら喪服でない彼女に気が付かないだけで葬式以外でもすれ違ったことくらいはあるのかしれない。
この時になって、甥に言われるまでK子おばさんについて“パンチパーマである”と特段思ったことが無いことに初めて気が付いた。わざわざ言い起こす必要がないくらい定着している。いつ見ても一定のクオリティを保っている巻きは甥に伝わったことからもわかるように大仏
「パンチパーマなんて全然珍しくない」
この兄の言葉には私も同意する。
「俺が中学生の頃にはピグモンて呼ばれてる女の先生がいた」
先生なのに?
風紀的にどうなの?
彼の時代は荒れていたから、あるいはマル暴的な効果でも期待できたのだろうか。
「日本にパンチパーマの世界大会で優勝した店があるじゃん」とも兄は言った。
そんな世界大会あるの?ていうか、海外でもパンチパーマってあるの?巻くの?兄は何故パンチパーマについてそんなに造詣が深いのかという点にも興味が湧きつつある中、藤沢をドライブしていた時にパンチパーマ専門店という看板を何度か見たことがあるのを思い出した。あの店が世界チャンピオンなのだろうか。専門店だもの。
また、誰の知り合いかは不明だが
結局のところ甥によるとパンチパーマ自体が物珍しかったそうだ。
雌のパンチパーマが現れた!とK子おばさんだけでも度肝を抜かれたところに次から次から出現するから驚いたという話がしたかったらしい。
そんなに何人もいただろうか。私は二人しか見つけられなかった。
兄と甥が言うには他にもはぐれパンチを何人も見たらしい。
そんな話をしていた矢先、用があって受付に向かう途中K子おばさんとアズパーが立ち話をしているのを見た。
嘘、コラボってる。
マザー曰く「アズパー(とは言ってない)はK子さんの弟よ」とのこと。
遺族席に戻るや、すぐに兄と甥に報告した。
ではDNA?
遺伝ということなのか?
天然パンチパーマなのか?
遺伝子の螺旋にパンチパーマが組み込まれている?
定期的に巻いてるわけではなかったのか―――――?
考察をしている内に甥がツボに入ってしまった。いけない、今からお通夜なのに。
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