夜話 (前)

 通夜の開始は18時だったが、それよりも早く弔問客が来るから遺族は会場にいるようにと言われていた。



 というのも、


 遺族の会社関係者は出席まではせず、お焼香だけ済ませて開始前に帰る人が多いのだそうだ。

 確かにそうなのかもしれない。自分ならそうする。


 17時が近づくと弔問客が訪れ始めた。何組かをお見送りして、私は本格的に抜け出せなくなる前に水分補給をしておこうと席を外した。



 給湯室から戻ると入り口付近で姉がソワソワしながら近寄って来た。


「遺影をガン見している人がいる」

「ガラが悪いからその筋の人かもしれない」と囁いて来る。叫んだり囁いたり起伏が激しい。


「借金でもあるのではないか」と恐ろしいことを言うので私も不安になり会場を覗いてみた。祭壇の前に仁王立ちで遺影を凝視する人物が確かにいる。




 Oh, He is our boss.



 うちの課長だった。係長も来てくれている。


 役所のおじさんは黒スーツを着るとその筋の人アウトローにしか見えなくなりがちである。式典があったりして集団で移動すると「お勤めご苦労様です」みたいなことに絶対なる。どう見ても出入でいり。

 

 12月中旬現在、未だ半袖で過ごし続けている暑がり2TOPに礼服を着用させるとは。なんと罪深いことか、落とし前とか言われたらどうしよう。係長に至っては扇子で仰いでいる。


 ともあれ休暇と御足労の御礼を謹んで申し上げお見送りした。通常であれば勤務時間内であるからか、お二方とも機嫌は良さそうだった。課長には遺影ガン見の理由を今でも聞けないでいる。








 

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