第2話 二度目の高校生活の始まり

 私立清海陀高校。一学年三百人弱の規模の高校でさまざまな部活や大学進学に就職、海外留学と数多の手厚いサポートをする事でも有名な地元の高校。中学時代の友人達は工業高校や公立校へと進学し人間関係がリセットされた状態で俺はこの高校に進学した。理由は確か父親が大学進学の為にこの学校に進学する事を強く勧め母親も父親の味方に周り半ば強引に進学した形になった。当時の俺は両親がそこまで言うならと友人関係よりもそちらを優先した。それが全ての間違いだった。中学のように簡単に友達ができると思った俺は最初の挨拶で盛大な事故をおこしそれ以来トラウマになって誰とも話すことなく三年間を過ごす事になった。これが俺の黒歴史。


 校舎の前にクラス分けの掲示板が立てられている。自分のクラスを一応確認する。一年B組の所に名前が記載されていた。やはりクラスも変わっていない。俺は何度も通った校舎に足を踏み込んだ。


 教室の雰囲気は様々で浮かれているグループ、落ち着いているグループ、個人で何かしているなど入学初日で既に空気感は出来上がっていた。俺は自分の席に着くと俺は伝家の宝刀゛寝た振り゛を早速使った。完璧だ。これでクラスの雰囲気に溶け込むことができる。

 そう思っていたのだが⋯。


「寝てるとこごめん! 私木崎井織っていうの。よろしく!」


 この伝家の宝刀を破られたことに驚きつつ声の主を見ると目が見開く。お互いに。


「あ! 君は朝の覗きじゃん!」

「覗きって人聞きが悪いことを言うな。あと声でかい」

「ごめんごめん! 朝のあれは、その、恥ずかしかったけどたまたまだから許してあげる!」


 朝俺が死のうとしていた所を助けた水色のストライプパンツもとい木崎井織が同じクラスだった事実に驚く。会話をした記憶はないが顔を見て思い出す。クラスの中心的人物で学校行事を人一倍楽しんでいた印象だった。なりゆきで許してもらえたが変な所で縁ができてしまった。


「井織どしたん? そんな大声で。覗き?」

「ううん! 何でもないよ!隣だから仲良くできたらなぁと思って話てただけ!」

「⋯ふーん」


 派手目な金髪ギャルの友人と話す木崎は必死に誤魔化しているようだがその友人からめっちゃ睨まれてます。早くも詰んだか?


 教室に担任が入ってくる。それと同時にそれぞれで談笑していたグループは散り散りになり各々が席へと着く。担任が出席を取り始める。脳裏に黒歴史がフラッシュバックする。中学時代馬鹿やってたなごりで最初よ点呼で「イエッサー!」と調子に乗り教室全体が沈黙に包まれた。あんな事は絶対に繰り返してはいかない。自分の番が近づく。心臓の音が煩い。大丈夫。普通に返事をするだけ。


「多田野幸人」

「ふぁい!?」


 クラス全体に笑い声が響く。担任はそれを諌め次に移るがまだ笑いはやまない。顔面の血の気が引く思いを何故二回体験しなければいけないんだ。


「どんまい」


 哀れんだ木崎が小声で励ましの声をかけてくれた。俺はこの時ばかりは素直にその言葉を噛み締めた。


 点呼が終わり入学式の準備の為体育館へと向った。俺の前を歩く女子に見覚えがあった。二度目なんだから見覚えも何もないのだが、ボッチ時代の俺の記憶にも残る程の女子という事だ。染宮花音。長い髪を明るいキャラメル色に染め毛先にパーマを当ててるこの女子生徒はクラスカースト最上位の存在。ピラミッドの頂点。絶対目を付けられてはいけない要注意人物だ。


 整列しながら体育館へと向かっていく中、俺のシューズの踵が踏まれた。俺は前に倒れそうになる。それを防ぐ為に身体が無意識に反応した。しかしその反応虚しく俺は冷たい床に叩きつけられる。純白のパンツと共に。


 痛みと共に手にあるパンツに気づく。それと同時に前で倒れてる女子。そう染宮花音に。


 染宮は振り返り顔を青ざめる。もちろん俺の顔からも血の気は引いてる。すぐに立ち上がった染宮は俺の手にあるパンツを涙目で奪いさり走っていった。俺にしか聞こえない声を残して。


「⋯っ殺す!」


 俺の二度目の高校生活は終わりを告げた。

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