第4話 元ミズローズ家は今①
オルドレイク、カトレア、エリオット。ミズローズ家の三人は海に投げ出されたあと、監獄島の船に引き上げられてそのまま移送された。
監獄島――その名の通り、罪人たちが収容される孤島。
島の東西南北に見張り台があり、監視兵が常に目を光らせている。
その周囲にあるのは広大な畑。ここで育てられた野菜はグレアス王国の国民へ届けられる。
農作業は罪人たちの義務だ。
オルドレイクたちも例外ではない。朝から農具を手に、早朝から汗を流す日々が始まった。
オルドレイクとエリオットは新しい畑つくるため、他の囚人たちとともに荒れ地に放り込まれる。はびこる草木を切り、石をとり、クワで耕す。
傷一つなかった手は、一時間も立たずマメが潰れて薄汚くなった。
オルドレイクは肩を震わせ、クワを投げ出してわめき散らす。
「私は侯爵だぞ! こんな泥まみれになる野蛮なことは農民か奴隷の仕事だろう!! なぜ私より爵位が低い者たちに使われなければならない!!」
監視役の男爵家出身の兵士が、それを聞いて嘲笑う。
「爵位? 今のあんたに爵位なんかないだろ。今じゃ男爵家の三男以下だ。有罪判決で領地と爵位を剥奪されただろう。侯爵様ってのはもう少し利口だと思っていたのに、そこらの野ネズミ以下の記憶力しかなかったのかい?」
オルドレイクが後生大事にしていた爵位はもうない。罪人となったいま、刑期を終えたとしても過去の罪状はついて回る。
エリオットは怒鳴られる父の横で、悲鳴を上げていた。
「ひいっ! また虫が!」
妹のリタと正反対で、十五歳になる
クモ一匹に怯えてギャーギャーと騒ぐから、まわりの囚人たちは笑いが止まらなかった。
「おい坊や。独房なんて窓が格子だから虫が入ってき放題だぞ。そんなんで生きていけるのか?」
「う、うるさい!!」
涙目になりながらクモに触ってしまった手をこすり、雑草を引き抜く。
「あーぁ、リタは使用人に混じって庭いじりしていたから、こんな作業は得意なんだろうな。……リタがここにいたら、全部押し付けられたのに。あいつどこに逃げたんだ!」
エリオットの表情が歪む。
移送船に乗っていたメンバーで、行方不明なのはリタだけだ。
誰かに匿われて平穏な暮らしをしているのではないかと考えたら、苛立ちが募った。
カトレアは女たちに混じって葉野菜の収穫を任されていた。青虫を見れば悲鳴を上げ、キャベツが重いと文句をいう。
まわりの囚人たちから冷たい目を向けられていることに気づいていない。
ようやく食事の時間になったが、提供されたのは黒パンと野菜クズのスープだけ。
「なに、この残飯は」
「お前の食事だ」
監視兵は冷たく返す。
屋敷で食べていた食事は毎食フルコースで、デザートとワインもついていた。
目の前に置かれた薄いスープは、カトレアから見たら家畜のエサ以下だった。
「こんなもの食べられませんわ! せめて肉の入ったポトフを出しなさい」
「なら何も食うな」
唯一の食事を回収され、空腹のまま午後の農作業をした。
夕食もまた同じ野菜のスープと黒パン。
そんなものを食べるのはカトレアのプライドが許さなかった。
空腹のまま、独房で粗末な布団に横になる。
(ああもう! 先月までは侍女が風呂の用意をしてくれていたのに。美容クリームを塗って、髪には香油をすりこんでそれで、それで……。オルドレイクがもっとうまく隠していたら、今でもあの生活が続いていたのに。農作業だって、リタがいたらリタにやらせることができたはず。あの子どこに行ったのよ!)
オルドレイク、エリオット、生みの母カトレアも、自分の置かれた状況に不満を言うばかり。誰もリタの心配をしていない。
オルドレイクたちが衣食住を用意されていることに不平不満を言っているのと同じ頃、リタは無人島にいた。
リタのほうが自分たちよりずっと過酷な状況に置かれていることを、彼らは知る由もなかった。
島流し悪役令嬢は無人島を開拓する 〜前世108歳で大往生した農家のばあちゃん、長年の経験を活かしてセカンドライフを謳歌します〜 ちはやれいめい @reimei_chihaya
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