第29話 カヤックのお稽古 夏(5)

「リーンアウトを実際に使うことは中級レベルではないのじゃが、別に使っちゃいかんわけではない。それにリーンアウトにするくらいの気持ちがないとキープフラットはできん。なので今日はリーンアウトで漕ぐ練習をする」

「はい?」


「体はまっすぐじゃ。傾けるのは艇だけ。こうやって腰の力で艇を傾ける」

 そう言うと師匠は静水面に円を描くようにフォワードストロークを漕いだ。体はまっすぐだけど艇は外側に傾いている。今師匠は左回りに円を描いて漕いでいるのに艇は右側に傾いていると言うわけだ。スターンで水を切るように進んでいるから船底が水の抵抗を受けることはない。

「艇を右に傾けて体重を後ろに乗せてフォワードを漕ぐと艇は自ずと左へ曲がって行くようにできておる。逆もしかりじゃ」

 もう頭では理解できない。とにかくやってみる。腰を使って艇を右に傾けながらフォワードを漕いでみる。あれ? まっすぐ進んじゃうぞ?

「もう少し体重を後ろにかけてみなさい」

 そうか、体重を後ろにかけるんだった。あー、なんとなく左に曲がって行く。逆もやってみた。

「フォワードを漕いでいるだけなのにリーンと体重移動だけで艇は曲がって行く。必ずしもパドリングで方向を変える必要はない。その感覚を憶えておきなさい」

「はい!」


 リーンアウトで円を描くようにフォワードを漕ぐ練習を左右とも10周ずつやった。

 

 それから昨日カケルちゃんに教えてもらったフォワードスイープとサイドラダーの連携。これもキープフラットと言うよりもリーンアウトを意識してやると、スターンがよりきれいに水を切ってくれることが分かった。


「フォワードスイープとサイドラダーの連携を左右30秒間づつ続ける練習じゃ。では始め!」

 左にフォワードスイープして右にサイドラダー。これを30秒間繰り返す。その後すぐに右にフォワードスイープして左にサイドラダー。これをまた30秒間繰り返す。そして30秒間休み。これを3セット。

「ぜえ、ぜえ……」 息が上がる。めっちゃしんどい。私、体力ないからなあ。


*午後のお稽古


「へそ曲がりのカケルはクマの面倒を見とるらしいから午後も2人で続きをやるぞ」

「はい……」


「フォワードスイープとバックスイープの連携じゃ。左右30秒間づつ続ける。始め!」

「ええ? そんなの初めてです!」

「うん? カケルは教えとらんかったのか?」

「フォワードスイープとサイドラダーの連携で精一杯でした」

「なるほど。カケルはすぐ出来たんじゃが。まあ、あいつは普通じゃないからの」


「やることは簡単じゃ。サイドラダーの替わりにバックスイープを入れる。それだけじゃ。エディをキャッチして素早く回る方法はこの2つじゃから覚えておいて損はない。実際に流れの中で使えるようになるにはそれなりに練習が必要じゃがな」


 師匠がやって見せてくれた。フォワードスイープでバウからスターンまで漕いでおいて体を素早く反転し、逆側のスターンにパドルを入れてバウ方向に漕ぐ。

「サイドラダーじゃと横からバウに漕ぐが、バックスイープじゃとスターンからバウまで漕ぐからより大きく回転できるって訳じゃ」


「ただ、フォワードスイープでスターンまで漕いでおいて、逆側のスターンまで体を反転させるからバランスを崩しやすいのが欠点じゃな。じゃからサイドラダーを使うかバックスイープを使うかは個々人の技量と、流れを見て判断することになる」


「ではフォワードスイープとバックスイープの連携。左右30秒間づつ続ける。始め!」

「はいい!」


「マユは腕力が弱いからフォワードスイープを漕いだ時の回転量が少ないのは仕方ない。じゃがきちんとスターンまで漕ぎ切れ。そして次のストロークに繋げるのじゃ」

「はい!」


「今日やったお稽古を繰り返しやって体に叩き込むのじゃ。そうすれば自然と流れの中でもできるようになる。要はお稽古を続けることじゃ」

「はい!」


 その後静水で練習したこれらの技を『瀬』で実際にやって見た。つい沈を避けようとして内側にリーンをかけてしまって、まだ全然できないのだけれど、これからやらなければいけないこと、中級カヤッカーになるにはどうしたらいいか、目指すべきものは分かった気がする。体力、特に腕力も付けなくちゃなあ。



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