第8話 カヤックのお稽古(1)
翌日の朝8時。私は水着にラッシュガード、ライフジャケットにヘルメット、足元はサンダルという出で立ちで立っていた。
「おはようございます」
「うむ、おはよう」
私たちは昨日と違って、カヌー館の対岸の河原にいる。
実は、昨夜から私はおじいさんの家に泊まり込んでいるのだ。そう言うと誤解を招きかねないのであるが、おじいさんの家は民宿を営んでおられるのである。カヌー館とは対岸の集落にある。昨日の講習の後、おじいさんはシャワーを終え着替えて出て来た私をカヌー館の外へ連れだし、私に言った。
「カヌー館のカヌースクールは最低開催人数が3人での。今日は強引にやったが明日もってなるとさすがにまずいんじゃ。そこでじゃ、あんたわしの家に泊まらんか?」
「は? なんでそうなるんですか?」
「わしは個人的にカヌースクールもやっておる。宿泊者は特別に無料でスクールが付いておるのじゃ。そもそもカヌー館で支払うスクール代を宿泊代としてわしに支払ってくれればええだけじゃ。お互いにいいことづくしじゃろ?」
「何がいいことずくしですか! 私はうら若い女ですよ! どこの誰かも知らない男の人の家に泊まるなんてできる訳ないじゃないですか!」
おじいさんは私の言葉を聞いて首を傾げている。なんで、なんでこんなあたりまえな理屈が分かんないの? このじじいは!
「おじいちゃん、説明が中抜きすぎ」
そこへ帰りがけのカケル君が通りかかった。通りかかってくれた! 助けて、カケル君! あ、カケルちゃんか……
「うちは民宿やってるんですよ。ちなみに私もいっしょに住んでますし、両親もいますから、安心してください」
わー、よく分かる説明だあ…… ってこんくらいちゃんと説明できんのか、じじい!
「カヌー館のお客さんを横取りするようで悪い気もするんだけど。でもスクーリングの申し込みが極端に減ってしまった現在では、カヌー館でのスクーリングは難しいのが現状なんです。だから、おじいちゃんの提案もスクーリングを希望する人には仕方ないことかなって思います」
「そう言うことじゃ」
えらそうにするな、じじい! カケルちゃんて本当にあんたの孫なの? って疑うちゃうよ!
「お風呂もありますし、朝晩込みで、カヌー館に支払うスクール代金で宿泊していただけます。以前流行したとき揃えたから使ってもらえる艇も、装備もありますし」
それに、とカケルちゃんはおじいさんをちらっと見て続ける。
「おじいちゃんのコーチングの腕は保証しますよ。私もおじいちゃんに教えてもらったんです」
「へえ、人って見かけによらないもんだね」
「はい」
私とカケルちゃんは2人でぷっと吹き出した。よかった。カケルちゃん、さっきのこと怒ってないみたい。ちなみにおじいさんはそんな私たちの会話をわざと聞こえないふりしてる。このおじいさん、なんか憎めないな。
「でも、クマはどうしよう」
「土間でよかったら家の中に入れても構わんぞ」
そう言うわけで、私はおじいさん家の民宿にお世話になることとなったのだった。
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