第12話

ディーン様達が去った後、僕は悔しくて・・・何かをしてないといられなくてがむしゃらに動いた


ディーン様のお陰で有り余ったマナを全てダンジョンへと注ぎ込む。3階だったダンジョンも5階までに拡張し、4階と5階には経験を積ませた魔物達を配置していく


《5階か・・・下級のそこそこ・・・そうね・・・真ん中辺りの強さを持つ魔物を置いてみる?今度は簡単に踏破されないように・・・》


「真ん中・・・か・・・下級とはいえ結構強いよね?リスク高いなぁ」


《それくらいのリスクで尻込みしてどうすんのよ・・・5年後あの化け物を迎え撃つんでしょ?》


あう・・・そうだった


5年なんてあっという間に過ぎてしまう。ディーン様が5年後に来て大した事ないダンジョンと感じたらガッカリするだろうな・・・あれだけ大見栄を切ったのにこの程度か、と


「でももし冒険者が勝てない強さだったら?多分今いる冒険者ってそんなに経験値が高い人居ないし・・・」


《そこはバランスよ。いい?ダンジョンはマナを溜める為の場所・・・マナを溜めるにはどうしたらいい?》


「えっと・・・入って来た冒険者にマナを使わせる?」


《そう・・・それが最も効率が良いマナの溜め方。今回は最後の最後で使わせる事に成功したけど本来なら魔物を倒すのにマナを使ってもらわないといけないの。じゃあどうやったら使ってもらえると思う?》


「・・・強い魔物を出す?」


《残念!不正解よ。答えは単純・・・入って来た人間に相応の魔物を準備する、よ》


相応の・・・そうか!魔物が強過ぎたら逃げたりマナを使う前に殺されてしまう。けど十分に戦える魔物ならマナを使って倒すはず・・・うん?でも・・・


「入って来る冒険者の実力に合わせるって無理じゃない?実力を見て魔物を配置するって事?」


《何言ってるのよ。人間の自身が相応になるようこちらから仕向けるの!ダンジョンの低階層に下級の最も下位である魔物を配置したのもその為よ。まさかアナタ・・・マナが少ないから下位の魔物にしたと思ってる?》


「ま、まさかそんな事はないよ・・・えっと・・・」


ダンジョンの1階を下級の下位である魔物にしたのは・・・そうか・・・そういう事か


「誰でもダンジョンに入れるように・・・先に進めるかどうかはその冒険者次第・・・実力不足なら自分の実力に合った階層で経験を積めばいい・・・魔物同士を戦わせて経験を積ませてるみたいに・・・」


《そういう事よ。こちらからは無理強いはしない・・・あくまでも自己判断で進むの。私達はその辺を理解して人間が判断を誤らないように徐々に魔物を強くする・・・大事なのはバランスよ》


冒険者は自分に相応の階層で戦う・・・実力が上がれば更に奥へ・・・でももし急に魔物が強くなったら?その場は逃げれたとしても挑戦する気が失せるかも知れない。僕だったらいきなり難易度が急激に上がるダンジョンは怖くて二度と入ろうとはしないだろう。なぜならその階層を何とか切り抜けたとしても次の階層が更に難易度が高いかも知れないからだ


でも徐々に難易度が上がるダンジョンだったとしたら?


自分に合った階層が分かりやすく、実力が上がれば奥に進む気になる


「じゃあ・・・5階に中位の魔物を出すとしたら・・・中位により近い下位の魔物を4階に配置すれば・・・」


《そう・・・5階に下りた人間は中位の魔物と十分戦える。まあその辺は自己責任だけどね》


僕達が環境を整え冒険者がそれに挑む・・・バランスか・・・なるほど・・・


《5階全部を中位にしなくてもいいわ。中ボスみたいな形で5階の最奥に配置するの・・・挑むも良し挑まず帰るも良し・・・5階の最奥に辿り着けるくらいの実力ならギリギリ倒せる中ボス・・・もしあまりにもその中ボスに設定した中位の魔物が強くなり過ぎたら交代させればいいわ。その時は強くなった魔物を次の階層に送ればいいしね》


経験を積んだ魔物を入れ替える・・・冒険者は魔物が入れ替わっても気付かないだろうし気にしないだろう・・・どんどん経験を積んで手が付けられなくなってしまうと難攻不落のダンジョンになってしまうし良いアイデアかも


《それと・・・そろそろ用意した方が良いんじゃない?》


「何を?」


《ご褒美》


「ご褒美・・・もしかして宝?」


《そう・・・人間がダンジョンに入る理由の一つ・・・ダンジョンでしか手に入らないもの・・・武器や防具、金銀財宝が詰まった宝箱をいくつか設置する。もちろん買って設置するのではなく・・・》


「作る!」


思わず興奮して叫んでしまった


そっか・・・ダンジョンにある宝箱・・・その中に入っているお宝はダンジョンコアが創っていたのか


そう考えるとダンジョンコアって本当にダンジョン内では神様みたいなものだな。ダンジョン内の住民である魔物を創り宝まで・・・


それからダンコに宝箱やその中に入れる宝の創り方を聞いて、更に設置におけるノウハウも教えてもらった


ディーン様達が国にどう報告するから分からないけどダンジョンコア・・・つまり僕達が見つからず壊せないダンジョンと分かったのならこのダンジョンを活かそうとするはず・・・って事は続々と冒険者達がダンジョンに訪れる可能性があるって事だ


その冒険者達を迎える為にも・・・僕は寝る間も惜しんで物作りに没頭した


魔物の創造と違って物を作り出すのは大変だった


見たことの無い魔物はダンコが初めに創造してくれるから見て創れる・・・けどダンコは武器や防具の知識はない為に作れない。なのでダンコに頼る事なく作るのだが、しっかりと想像せずに作ると・・・


《・・・何よこれ・ ・・》


「剣?」


《アナタが作ったんでしょ!なんで疑問形なのよ!》


刀身を真っ直ぐにしたつもりが湾曲していたり、刃がなかったり、柄がなかったり・・・ボヤっとした状態で創造すると見事なガラクタが誕生してしまう


《もうアレね・・・紙に描きなさい》


「何を?」


《作ろうとしている物を、よ!そうすれば少しはまともな物が出来るでしょ?》


「絵・・・下手なんだよね・・・」


《知らないわよ!いいからさっさっと描きなさい!》


こうして物作りの時は絵を描いてから創造するという余計な工程が必要になった・・・これはあんまり数作れないな・・・




次の日の朝、眠気まなこを擦りながら門番の仕事に就くと村長への報告を終えたと思われるディーン様一行が村に来たと同じように出て行く事になった


ダンジョンで見ていたからだろうか・・・前みたいに興奮はしなかった。それよりも『ディーン様と話したい!』って気持ちが前面に出てしまい・・・


「お務めご苦労様でした!あの・・・あの入口はどうでしたか?」


と、ぶっしつけな質問をしてしまう


出発しようとしていたのに出鼻をくじかれた形となり、馬上のケインが振り返り僕を睨みつける


あっ・・・なんかヤバいかも・・・


サーっと血の気が引き後退りしていると馬車の小窓からディーン様が顔を覗かせ微笑んだ


「君達が何を想像していたか知らないけどアレはダンジョンの入口だったよ。しかも面白いダンジョンの、ね」


「団長!」


「村長には報告したのだ・・・言わずともすぐに知れ渡る事になる」


「ですが・・・」


「ケインは少し柔軟な対応を・・・・・・ん?」


ケインを窘めていたディーン様が突然僕の顔を見た瞬間に真顔になる


「あ、あの・・・なにか?」


「君は・・・いや気のせいだ・・・ロウニール君だったね?門兵・・・頑張ってくれたまえ。これからこの村で色々な事が起こる・・・良い事も悪い事も、ね。悪い事を少なくする一番の方法は悪い事をする人を村に入れない事だけど・・・それは多分難しいだろう。だから見極めるんだ・・・もし何かしそうなら上官に相談する・・・それを徹底するだけで悪い事は少し抑えられる」


「は、はい!」


「ふっ・・・素晴らしい上官に恵まれているみたいだから心配はしていないがフーリシア王国の兵士として恥ずかしくない行動を心掛けてくれ。・・・ではまた」


素晴らしい上官ってところでディーン様はヘクトさんをチラリと見た


あの馬車の中を確認しようとする毅然とした態度がディーン様にそう言わしめる要因だろう。僕も見習わないと・・・



ディーン様一行が村を離れ、数時間後正式に村長から発表があった



広場に現れたものはダンジョンの入口であった、と



その発表を聞いて村全体がまるで祭りのように大はしゃぎ


それもそのはずフーリシア王国では数ある町や村の中で、二つ目の村の中にあるダンジョンの誕生・・・この寂れた村はダンジョン都市アケーナと同様に発展していくはずだから


《そんなに村の中にダンジョンがある事が喜ばしいならダンジョンの傍に村や町を作ればいいのに》


「僕もそう思ったけどそれは認められないらしいよ?偶然村の中に出来たのならともかく村の外に出来た場合はダンジョンの所有権は国にある・・・だから後から村を作ったら国からダンジョンを奪う行為になってしまうらしい」


それにダンジョンはいつダンジョンブレイクが起きるか分からないし危険と隣り合わせ・・・それを補って余りある程の利益を生み出すけど国に逆らってまで町や村を作る人はいないだろうな


《ふーん・・・面倒なのね》


「まっ、今回は偶然村の中にダンジョンが出来たから国も強引な事はしてこないはず・・・ディーン様の口ぶりだとその辺も村長に伝えてるはずだから大はしゃぎなのさ」


《なるほどね。でもこの村って冒険者・・・居ないわよね?》


「うん。それに色々と足りないものだらけだ。どうすんだろう?」


魔物とは無縁のこの村に冒険者は居ない。訪ねて来るのも商人くらいだから宿屋もないし、武器屋もない。極めつけは冒険者ギルドもない


ダンジョンは好き勝手入れるものではなく冒険者ギルドを通して入る事が義務付けされている。なのでダンジョンに入りたい場合は冒険者ギルドで申請する必要があるんだ。しかもダンジョンによって金額は変わるらしいけどお金も取られるとか・・・何でも行方不明になった冒険者を探す為の費用に当てる為とか国に収めるお金だとか言われてるけど実際は何の為にお金を取っているかは不明・・・まあ魔核とか取ってくればそんな費用はすぐに払えるだろうけどね



オープンしたとは言えいくつかの問題を抱えるダンジョン経営


でもそれは杞憂に終わる



「・・・ヘクトさん・・・何ですか?あの集団は・・・」


「・・・始まるのじゃよ・・・」


「始まる?」


「村が町に変わり大都市へと生まれ変わる・・・その始まりじゃ」


しばらく何もない日が続いていたある日の午後


遠くに見えるのは行商人でもなく王国騎士団でもない集団


聞くとその集団は国から派遣された職人達や人夫、それに商人達らしい


「・・・ふう・・・ロウ坊・・・覚悟しておくといい。これから忙しくなるぞ?」


少し寂しげな表情でため息をつくとヘクトさんは応援を呼びに行くと言って村の中へと消えて行った


僕は徐々に近付いて来る集団を眺め呟く


「ダンコ・・・始まるみたいだぞ?」


《何をしに来たか知らないけど待ちくたびれたから早くして欲しいわ》


「そうだね・・・僕も何が始まるか分からないけど・・・期待していいと思う・・・だって・・・」


あの集団を見ているだけで胸が高鳴る



これから見た事も経験した事もない出来事が起きる・・・そう予感させるには充分な光景だったから・・・

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