第11話
「ダンジョンコアが・・・ない?」
「ええ、いくら探しても・・・こんな事ってあるんですかね?」
「私より君達の方が詳しいだろう?」
「ことダンジョンコアに関してはディーン様の右に出る者はいないかと」
今回の調査にあたり雇った冒険者・・・スカウトのヒューイ・ジグソウとタンカーのジット・ボドガス
ヒューイは罠対策、ジットは姫様に万が一の事がないよう雇った。かなり厳選したつもり・・・その歴戦の冒険者より私の方が詳しい?
「このダンジョンのように浅いものならともかく・・・深いダンジョンを踏破してダンジョンコアを拝んでる数はこの国一番じゃねえですか?」
「踏破したくてした訳じゃないのだが・・・ダンジョンコアを見たと言ってもほんの数度・・・詳しいって程じゃない」
「その数度すら冒険者としては凄い功績なのですよ・・・普通の人なら一生に一度見れるかどうか・・・。もしディーン様が冒険者であったのなら『踏破王』という二つ名が付いてもおかしくありません。それで数度見たダンジョンコアはダンジョンのどこにありましたか?」
「そうなのか・・・ダンジョンコアはほとんどが無造作に台座に置かれていたな・・・」
コアを壊せばそのダンジョンは死にダンジョンとなってしまう。魔物も出て来なくなり廃れるだけ・・・なので壊してはいけないとキツく言われていた為にあまり気にしてなかったが・・・
「ヒューイ、本当にここが最深部なのか?」
「俺の
「ぬかせ。お前の目
「
ヒューイとジットは何度かパーティーを組んだ事ある間柄らしい。今回のダンジョンでは2人の腕を見る事が出来なくて残念だ・・・もう少し難易度が高ければ活躍の場も・・・いやそれは贅沢な悩みか。何かあっては困ると頼んで来てもらった者が思う事ではないな。それに・・・
「ん?なんだ?妾の顔に何か付いているか?」
「いえ・・・何も付いていませんよ。姫様」
「姫ではなく王女と呼べと何度言ったら分かるのだ!」
「でしたね。申し訳ありません」
幼かった姫様も継承権を持つ年になられた。性格は自由奔放な姫様のままだが・・・
スウ・ナディア・フーリシア・・・継承権第四位の第二王女・・・そして・・・
「弟子の成長が見れると思ったが残念だね。くだらないダンジョンなど早く抜けて修行でもするかね」
「げっ・・・師匠・・・それは・・・」
「なんだいこれくらいで疲れたとか言わないだろうね。温室育ちが長くて体力が少ないのかい?魔術師だって体力は必要だよ」
ラディル・ククルス・ホテルス・・・フーリシア王国随一の魔術師にして宮廷魔術師・・・姫様はそのラディル殿の弟子となられた
高齢の為に引退を決めたラディル殿が姫様の才能を見出し弟子にしたのだが姫様が後継者って訳でもない
「貴女はダンジョンを出た後、村の者を見て回ると言っていませんでしたか?後継者
クレリックのシゲン殿が言うように候補は何人かいるらしい。姫様はその内の1人に過ぎない・・・と言うか継承権を持つ姫様を後継者候補にしても良いのだろうか・・・第四位とは言えダメなような気がするが・・・
「シゲン・・・アンタは早々に後継者を見つけたから余裕かも知れないけどね・・・あたしゃこれから数年で後継者を育てないといけないんだよ。失敗は出来ない・・・だから後継者はいくらでも欲しいし今いる候補者に対しても手は抜かないのさ」
シゲン・ナルディ・オートガスが見つけた後継者・・・『聖女』と呼ばれている彼女の実力は素晴らしい。大司祭にまで上り詰めたシゲン殿を若干17やそこらで抜く勢いだとか・・・シゲン殿は聖女と呼ばれている彼女が20歳になったら引退すると公言していると聞いているしラディル殿の言うように余裕があるのだろう
「他の候補者なんて要らない・・・妾がなってみせる・・・後継者に」
「その心意気は有難いけどね・・・競い合う事も必要さ。周りにライバルがいないと慢心が生まれるし伸び悩む・・・そうだろ?『至高の騎士』」
「・・・どうですかね。確かに相手がいなければ実力は測れないとは思います」
だから少し期待していた・・・最近は騎士団の団長となり好き勝手出来なくなってしまったから久しぶりのダンジョンだった・・・敵わぬ相手とは言わないまでも少しは楽しませてくれればと期待したが・・・
ここまで簡単に踏破してしまうとは思いも寄らなかった。こんな事なら姫様に少しくらい活躍してもらえば良かった
「・・・さて、話はこの辺にして村に戻りましょう。ヒューイが見つけられないのなら探しても無駄でしょう・・・コアが無い事は不思議ですが今は戻って・・・」
「ディーンの旦那!ちょっと待ってくれ!・・・アレを・・・」
突然ヒューイが叫ぶと行き止まりであった壁を指さした
何も変哲のない壁・・・と思いきや文字が刻まれている事に気付く。見落としていたか?あんな文字は刻まれてなかったはずなのに・・・
壁にはこう刻まれていた
──────踏破おめでとう、と
気にする程でもない言葉だが、問題は私達が今の今まで気付いていなかった事・・・まさか・・・
「ヒューイ、周囲を探れ。ジットは姫様をお守りしろ」
警戒するに越したことはない。私だけならまだしも今は姫様がいる・・・もし万が一姫様の身に何かあれば・・・
「旦那!周囲に気配はない!けど・・・」
「・・・どうやら破壊しようとしていた事を聞かれていたらしいね・・・怒らせてしまったみたいだ・・・」
少し目を離した隙に壁には新たな文字が刻まれていた
──────弱い者イジメをして楽しかったか?至高の騎士よ
まるで人間のようなセリフ・・・そのセリフからは怒りが滲み出る
そして驚くべき事に私を認識している・・・ダンジョンコアとはダンジョンを創る物と聞いた事がある・・・つまり壁に文字を刻んでいるのは・・・ダンジョンコア
しかしダンジョンコアとは人間の会話を聞いたり出来るものなのか?それともこのダンジョンのコアが特殊なだけなのか?
──────そう警戒するな。『踏破おめでとう』と伝えただろう?これ以上何かするのは無粋というもの
「確認したい・・・ダンジョンコアか?」
──────そうだ。『公費を突入するに値しないダンジョンのコア』だ
しっかり聞かれているな
柄を握る手に汗が滲む
得体の知れないものとの会話がこれ程緊張するものだとはな
「なぜ隠れている?やはり壊されるのはいやか?」
──────ダンジョンが成長するのは知っているだろう?まだまだ成長途中・・・生まれたばかりで壊されたらたまったものではないからな
「なるほど・・・わざわざ壁に文字を刻んだのはその事を私達に伝える為か・・・そう言うのを何と言うか知っているか?負け惜しみ、だ」
──────挑発しているのか?
「いや、事実を言ったまで。姿を隠しそのような事を言われても負け惜しみにしか聞こえなくてね」
──────私がお前達に怯え隠れているのならそうなるだろうな。だが実際は『見つけられない』が正解だ
「ほう?私達が見つけられれば素直に壊されてくれると?」
──────見つけられればな。だが無理だろう・・・お前達の実力では、な
・・・コイツ・・・
ヒューイに視線を送るが首を振る
ヒューイでも見つけられないとすると私達が見つける事は出来ないだろう。本当に居るのか?それとも虚言か?
──────疑っているようだな・・・いいだろう
そう言葉を刻んだ後、ダンジョンコアと思われるものは文字を刻んでいる壁とは別の壁に印を付けた
二重丸・・・まるで的のような印だ
──────この先に私はいる
「ヒューイ」
改めてヒューイに振り返るがまた首を振った
やはり虚言か・・・印の先にコアは・・・ない
だがこの高揚はなんだ?
目の前にあるのはただの壁・・・そう知ったとしても高鳴る胸の鼓動は・・・
「・・・少し下がってて下さい」
「ディーン?」
「まさかお主・・・」
姫様は首を傾げるがラディル殿は私がやろうとしている事に勘づいたようだ
ヒューイの能力を疑う訳ではないが・・・私はこの胸の高鳴りに賭けてみる
「対面が楽しみだ」
剣を抜き構えを取る
そう言えば久しぶりだな・・・この技を使うのは
体内のマナを胸から肩、そして腕へと集め更に剣に送り込む
そんじょそこらの剣で耐え切れない程のマナ・・・国王陛下よりこの剣を下賜されなければ一生使う事が出来なかった技
「行くぞ!『聖光破山剣』!!」
ダンジョンコアが刻んだ印に向けて剣を振る
凝縮されたマナが光となり壁にぶつかると轟音を立て崩れ去る
「けほっけほっ・・・ディーン?・・・」
「・・・どうやら力不足のようです」
壁は崩れた・・・がその先には何も無かった
「担がれたんじゃねえんですか?ディーンの旦那」
「・・・かもしれんな」
それ以降ダンジョンコアは文字を刻まなくなった
もしかしたら壁に埋もれてて破壊してしまった可能性もあるが・・・
「・・・行きましょう」
「えらくスッキリした顔をしておるのう。力を使い満足したか?」
「ええ・・・久々に使えたので満足しました」
ラディル殿の問い掛けに頷く
スッキリした顔・・・か
ダンジョンの外へ向けて歩き出した皆の背中を眺めた後で振り返る。『聖光破山剣』で削れた壁・・・その先を見つめていると姫様から呼ばれ皆の後を追った
「何かいい事でもあったのか?顔が笑っているぞ?」
「いえ・・・何でもありません・・・」
姫様に聞かれたがアレは私へのメッセージと受け取って話さなかった
私が1人残り見つめていた時に刻まれた言葉
──────五年後に待っている
その言葉を胸にしまい私は皆と共にダンジョンの外を目指した
「ぷはぁ・・・死ぬかと思った・・・」
《危ないわねえ・・・ヒヨコが鷹に挑むようなものよ?》
「それでもマナは頂けた・・・でしょ?」
《まあね。お釣りが来るほどに、ね》
『聖光破山剣』・・・威力もさる事ながらマナの量も桁違いだった
司令室は3階にある
けど3階の最奥の部屋とかなり離れていた
硬いダンジョンの壁・・・しかも10mは離れていたのにディーン様は・・・
《これで階層も増やせるし魔物も創れるわ・・・ねえ聞いてる?》
「・・・うん?ああ・・・そうだね」
一点を見つめる僕にダンコは怒ったような口調で問い質す
僕は空返事をしてまた見つめた
小さいけど・・・司令室とダンジョンが繋がった穴を──────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます