第13話

「ほらそこどけ!」


「は、はい!」


あの集団はヘクトさんの言う通り職人や人夫に商人からなる集団だった


目的はただ一つ・・・エモーンズ村の開拓だ


最初の集団は先遣隊に過ぎなかった


その集団があれよあれよという間に村の外に仮設の建物を建てると次から次へとなだれ込んでくる職人達


それに伴いどこで嗅ぎつけたのか商人達もわんさかと現れ村は大混乱に陥る寸前だった


それもそのはずハンマーを持った男達が形ばかりの村を囲む柵を壊し始め、村からかなり離れた場所に見上げるほどの壁を作り始めたからだ


なんでもその壁の内側が今後エモーンズの領地となるらしい・・・今の村から壁までの距離を見ると村はざっと10倍以上の領地となる


現時点で壁の内側に小さな集落があり、大部分の土地が余っているスカスカな状態。しかもちょっとした森などもその領地内に入ってるときたからどうなるのかと村の人達はてんやわんや


でもそんな村の人達を静めたのは村長・・・ではなく国から派遣された役人のヴェルト・テロイド・アンクル様だった




全村民に向けての説明会・・・強制参加の為に当然僕も出席した


村の中ではなく外に集められ、動揺を隠せない人達。その中にはペギーちゃんの姿もあり思わずニヤケてしまい周りの人達に気味悪がられたのは単なる余談だ


「既存の家はいずれ取り壊します。新しい家はこちらで用意するのでご心配なく・・・どの場所に移り住むかは先着順とさせて頂きます」


ザワつく村の人達


突然こんな事を言われれば混乱するに決まってる・・・けどヴェルト様は構わず続けた


「ダンジョンの入口付近は住まない方が良いでしょう。ダンジョンブレイクが起きれば真っ先に狙われる事になりますから」


「ダンジョンブレイク・・・そんなのが起きたらどこに居たって同じじゃねえんですか?」


「国から警備隊を派遣します。万が一ダンジョンブレイクが起きても対処出来るように。それと皆さんの安全を考えてダンジョン近くに壁を作り魔物が出て来ても住居地区とは別の方向に行くように誘導しますのでどうか安心して下さい」


そう言ってヴェルト様はみんなの前で地図を広げ棒である部分を指した


「?・・・これは・・・」


エモーンズの構想です。ダンジョンから離れたこの区画が居住区、それと交わるように商業区、ただ娯楽などはダンジョンに近い場所に建てる予定です・・・その方がスリルがあってより楽しめるかと」


冗談か本気か分からない表情でヴェルト様は言うと続けて地図を指し具体的に何をどこに建てるか説明し始めた


最初は現実味のない話でポカーンとして聞いていたみんなはヴェルト様の話があまりにも具体的なので信じ始めたのか熱気を帯びてきた


「羊飼いのポールです!羊達はどうなりますか?」


「私料理に自信があるんです!店を開く事は可能ですか?」


「森が領地の中って・・・そこで狩りをしていた俺達は今後どうすれば・・・」


みんな口々に気になっている事を叫ぶものだからヴェルト様も困惑顔・・・でも丁寧に1人ずつに返答していく


「羊など家畜は壁の外に新たな牧場を作ります。広さなども事前に言っていただければ考慮しますよ。それとお店を開きたい方は大歓迎です。今回は無償で店を建てますので気軽に申請して下さい。ただし同じような店が何軒も建つのは避けたいので被った時は話し合いをしましょう。で、森の話でしたね?今現存する森は今後の建築資材として全てを使用してしまうので森は完全になくなります。ですが壁の外・・・南東の方角に森があるのはご存知ですね?あの場所に森の動物を全て移送します・・・今後は南東の森で狩りを継続して下さい」


準備していたかのようにスラスラと答えるヴェルト様。いや、かのようにではなく実際に準備していたのだろう。そうではないとこんなにもすぐに答える事は出来ないだろうし・・・


その後も噴出する疑問の声にヴェルト様が対応するといった時間が続き、あっという間に日が暮れて説明会はいったんお開きとなった


今後も定期的に開かれるらしいが、最後にヴェルト様が言った言葉をダンジョンの司令室の椅子に座り頭の中で繰り返す



この絵の通りになるのには時間がかかります。おおよそ5年・・・5年後には皆さんがこのダンジョン都市エモーンズに住むことになるのです



奇しくも5年後・・・それまでに僕は・・・


「なあ、ダンコ!何かやる事ない?」


《ないわ》


「・・・」


《何よ急にやる気出しちゃって・・・まだあれから誰も来てないんだからマナが溜まってる訳ないでしょ?》


「でも・・・」


《焦らないの。5年なんてあっという間に思えるかも知れないけど充分な時間よ?それにヴェルトって言ったっけ?あの人間は使えるわ・・・あの人間なら集客力もありそうだし心配はなさそうね》


集客力って・・・


でも確かに黙っていても客・・・つまり冒険者は来ない。来ないとマナは溜まらない・・・溜まらないとダンジョンも・・・ううっ・・・やっぱり何かしてないと落ち着かないな・・・


「スラミ!少し鍛錬するから付き合ってくれ!」


椅子から勢い良く立ち上がりそばに居たスラミに声を掛ける


「・・・はい・・・」


とりあえず体を動かそう!今日は説明会で門番以上に体を動かしてないから体力は・・・・・・うん?


「ダンコ・・・今返事した?」


《・・・私じゃないわ》


「え?でも・・・」


今、この司令室には僕とダンコ・・・それにスラミだけ


でも確かに聞こえた・・・『はい』と言う返事が・・・


「・・・えっと・・・スラミさん?」


「はい」


喋った!


口なんてないと思ったけど喋る瞬間に一部分がポコッと開き発声した


「もしかして今までも喋れてた?」


「いえ」


おお・・・『はい』以外も喋れるのか!


《まだそこまでは無理よ。アナタを真似して発声してるだけ・・・でも進化すればもっと話せるようになるはずよ》


「進化?」


《そう、進化。スラミはアナタの眷族になったって言ったわよね?アナタとスラミは繋がってる・・・アナタが強くなればスラミも強くなるって感じにね。そして魔族は魔物と違って進化する・・・下級の魔物のスライムだったスラミは中級になったって訳》


「中級・・・って僕・・・強くなった?」


《ダンジョンの進化と共に強くなるって言ったでしょ?5階層と中級の魔物を作った時点でアナタも魔物で言うと中級レベルよ》


中級レベルと言われてもピンと来ないけど・・・そうか・・・強くなったのか・・・


まだ実感は全然ないけど僕が強くなればスラミも強くなると聞いて少し興奮した。楽しいって言うか嬉しいって言うか・・・


《ロウ・・・ダメだからね。これ以上眷族を増やすのは》


「えっ!?べ、別に・・・ちなみになんでダメなの?」


《ダンジョンで得たマナを分け与えているの。せっかく得たマナを、よ?眷族が増えれば当然分け与えるマナも増える・・・ここまで言えば分かるでしょ?なんでダメか》


僕がマナを使うのもケチるダンコだ・・・当然眷族に分け与えるなんて以ての外って事だろうな


正直・・・増やしたいと思ったけどダメそうだ・・・




そんなこんなで現在村は開拓の真っ最中


けど僕は兵舎から村の入口までの距離が延びて出勤時間が少し長くなったのと大工の人に邪魔扱いされるのと・・・来訪者がかなり増えた以外は何の変哲もない毎日を過ごしていた


それもどうやら終わりを告げる時が来たらしい


大工の人に邪魔者扱いされて横によけると背後に人の気配がして振り返る


「へえ・・・ここがアケーナに続いて国二つ目のダンジョン都市・・・か」


「都市って言ってもまだまだ中身はスカスカね。しかも工事中ばっかりでホコリっぽくて仕方ないわ」


「冒険者ギルドはあるのかねぇ?なければ無駄足になるぞ?」


「解禁したって話だからあるのでしょう。情報ではダンジョンとしては拍子抜けするほど簡単なものだと聞きましたが・・・どうでしょうね」


4人の男女が入口の前に立ち、好き勝手な事を口にする


今まで来た人達と違い見るからに冒険者の彼らの目的は村の開拓ではなく・・・ダンジョンだ


ディーン様達はあくまで調査



これから始まるんだ・・・僕とダンコ・・・そして冒険者達との戦いが幕を上げる

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2024年12月23日 19:00
2024年12月24日 19:00
2024年12月25日 19:00

ダンジョン都市へようこそ しう @touya0622

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