第7話
最初のスライム以降テストは順調に進んでいた
テストで必ずしも魔物を倒す必要はない・・・出現場所に偏りがないか調べたりするだけだから仮面を付けて魔物に出会したら外してその場を通り過ぎれば良いだけだった
この方法ならせっかく創った魔物も無駄にはならないしダンコも文句は言わない・・・けど初めからマスターで行動するとテストにならないので出会した直後は敵意剥き出しの魔物と対峙しないといけないから気は抜けなかった
「ねえ・・・同じ魔物だったら強さも同じ?」
ふと気になった事をダンコに聞いてみた
これまで遭遇したスライムの見た目はどれも一緒・・・となると強さも同じなのだろうか?もし違うなら配置も変えないといけなくなる
《今は同じよ》
「今は?」
《魔物も成長するわ。人間と戦い、生き残り続ければ強くなる・・・まあ大体はやられちゃうから成長する魔物は少ないけどね》
「運が良ければ最強のスライムが誕生するって訳か・・・」
《運・・・そうね。弱い人間が大挙すれば有り得なくもない・・・けど限りなくゼロに近いから相当の強運が必要だけどね》
「だよね・・・ねえ、魔物が成長するのって人間と戦った時だけ?」
《いえ・・・要は経験を積むだけだから相手は人間に限った事ではないけど・・・アナタまさか・・・》
「うん・・・ダンジョンって奥に行けば行くほど・・・下に行けば行くほど魔物も強くなる。その分コストも上がるけど、もし低コストの魔物だけど成長させて使えば・・・。その成長に使うのは魔物・・・それなら運じゃなくて確実に成長させられるしコストも抑えられる」
《・・・その発想はなかったわ。人間ならではかもね・・・面白いわ》
魔物同士を戦わせて経験を積ませ成長させる。そうすれば低コストの魔物を最下層に配置する事も可能になる・・・はず
《成長限界はあるはずだけど実現すればかなりのコストカットになるわ。でもそれならこのダンジョンとは切り離した空間が必要ね・・・さすがに人間の前で魔物同士戦わせる訳にはいかないし》
そりゃそうだ。下手したら戦わせてる魔物2体とも倒されちゃうかも知れないし・・・
「となると司令室みたいな場所か・・・広ければ広いほどいいな。広ければ多くの魔物を同時に成長させられるし」
《そうね・・・広いとコストも上がるけど将来的にはそのコストを軽く上回りそうだし・・・すぐに取り掛かるべきね》
乗り気になったダンコに急かされ、残りのテストは仮面を外して一通り歩くだけで終わってしまった
魔物に出会うと一瞬ビクッとしてしまうが魔物達は僕に襲いかかって来ることはなかった
そして司令室に戻ると早速ダンジョンとは隔離した広間を創り、その広間へと移動する
《もう少し広くても良かったけど・・・まっ、最初はこんなもんね》
100m四方くらいあるのだけど・・・ダンコはどれだけの広さを想像してたんだ?これくらいで十分だろ・・・
何も無いから実際の広さよりも広く感じる。ここで魔物達が・・・ん?
「なあ・・・今更だけど魔物同士って戦うのか?」
《本当今更ね。創った時の命令通りなら戦わないわ・・・魔物は侵入者じゃないもの》
「・・・そうだよね。ならどうやって・・・」
《魔物を創る時の命令は行動指針よ。けど都度個別に命令する事も可能なの。例えば侵入者を排除せよと命令していた魔物に中止命令を出す事も可能って訳。今回は魔物同士を戦わせるよう命令を出せばいいわ》
ほうほう・・・ただマスターに攻撃しないだけじゃなくて命令も受け付けてくれるのか・・・それなら安心だ
「じゃあ早速・・・スライム!」
もう慣れたもんですぐにこの広間に一体のスライムを創り出す。そしてもう一体は・・・
「来いスラミ!」
《え?そのスライム育てるの?》
「当然・・・僕が一番最初に創った魔物・・・まあ魔族になっちゃったけど・・・育てない理由はない!」
記念すべき第一号
スラミはダンジョンに出すつもりはないけど育てて損はないだろう
司令室にいたスラミを呼び寄せ今創ったスライムと向き合わせる
《・・・まあいいけど気を付けないと・・・》
「よし!互いに戦え!・・・え?」
目の前の2体に命令を出した瞬間・・・スラミから伸びた触手がスライムを攻撃した
その攻撃の威力たるや否や・・・えっと・・・スラミってスライムだよね?全然普通のスライムと威力が違うのですが・・・
《・・・ハア・・・普通のスライムが魔族のスライムに勝てる訳がないでしょ?》
「そうなの?」
《魔族・・・つまりアナタの眷族だもの。当然ダンジョンの影響を受けて力が増すわ・・・アナタと同じようにね》
そう言えばダンジョンが育てば僕も強くなるって言ってたな・・・僕が強くなればスラミも強くなるのか・・・てか僕って強くなってるの!?
《まだ実感が湧いてないって様子ね。まぁまだダンジョンは出来たてだし大したダンジョンでもないから無理もないけど・・・これからダンジョンを大きくしていけば嫌でも気付くはずよ・・・ダンジョンの影響に》
そうなのか・・・ダンジョンを大きくしていけば僕でも・・・
《さ、今は遠い未来の事じゃなくて近い将来を考えましょ。そうね・・・命令は『戦え』じゃなくて『相手を殺さず痛めつけろ』にした方がいいわね。あまり複雑な命令は下級だと厳しいからそれぐらいがちょうどいいわ。スラミは今のところ別格だから育てたスライムか他の魔物と戦わせた方がいいわね》
「そっか・・・じゃあ最初はスライム同士で・・・その後徐々に種類と数を増やしていくか」
《それがいいと思うわ。魔物は傷付いてもしばらくすれば傷は癒える・・・死ななければ何度でも戦えるからその辺の見極めも必要ね》
「へえ・・・でもなんか・・・」
《どうしたの?》
簡単に考えていた
戦えば成長する・・・けど戦ったらそりゃ痛いし怪我もする・・・ダンコは魔物を道具と割り切ってるけど僕はそこまで割り切れないでいた
「スラミ・・・僕とやろう!」
《ちょっとロウ!?》
「ダンジョンは常に平等・・・だろ?それに強くなったって経験を積まないと力の使い方が分からないし・・・僕もみんなと一緒に強くなる」
《
「・・・いや、人間だし」
《だからよ。その考え方ではもたないわ・・・まあ言っても分からないだろうから経験する事ね・・・それと・・・》
「それと?」
《スラミ・・・やる気満々よ?》
「え?・・・ぶっ!」
振り返った瞬間に殴られた
スラミ・・・もう少し手加減してくれ・・・鼻がもげるかと思った・・・
でも・・・これでいい・・・魔物は僕が傷付くのを見て何も思わないだろうし魔物の傷の癒えるのが早くなる訳でもないし全く無意味・・・けど強くなってもらうのもその為に傷付くのも僕が望んだ事であり魔物が望んだ事ではないから・・・せめて一緒に強くなろう・・・ただの自己満足だけど・・・魔物は何も感じないだろうけど・・・
「よーしかかって来い!今度は僕がぶっ飛ばしてやる!」
《・・・気が済んだ?》
「・・・ふっ・・・スラミ・・・恐るべし・・・」
これでもかってくらいにボコボコにされた
かかって来いって言った手前あれだけど・・・やり過ぎじゃない?
《アナタ明日から兵士になるんでしょ?今日は休んだら?》
「そ、そうだね・・・もう限界だし・・・って明日!?」
《呆れた・・・初日からすっぽかす気だったの?明日でちょうど1週間よ》
すっかり忘れてた・・・という事は明日から昼は仕事で夜はダンジョンか・・・体持つかな・・・
《という訳でダンジョンのオープン日は明日ね》
「・・・どこら辺が『という訳』なんだ?」
《昼間は兵士の仕事でしょ?何をするか知らないけどオープンすればしばらくは楽になるから明日オープンにした方がいいわよ》
「なんでダンジョンをオープンすると兵士の仕事が楽になるんだよ・・・普通逆だろ?」
《そうでもないわ。オープンしてしまえば急な手直しとか必要になると思うけど基本的には魔物の補充だけよ。で、それくらいなら私でも出来る》
「あ、そうか・・・でもここに来る必要はあるよね?さすがに兵舎の部屋からは補充出来ないだろうし・・・」
《部屋が決まったらここと繋げてしまえばいいわ。そうすれば移動も苦じゃないでしょ?》
「司令室と!?でも他の人が急に部屋を入って来ちゃうかも・・・」
《条件を設定すればいいわ。『ロウだけ見えて通れる通路』と設定すれば他の人には見えないし通れない》
「・・・それって今までも出来たんじゃ・・・」
《出来たけど無駄なマナを消費したくないから黙ってたの。アナタの家からなら歩いてもそんなに距離はないしね。ちなみに空間を繋げる能力は『ゲート』。常に繋げる事も出来れば簡易的に繋げる事も出来る便利な能力よ。もちろんマナは消費するけどね》
ゲートか・・・それを使いこなせればかなり楽になりそうだな
昼間は兵士として働いて、夜はゲートを使って司令室に来て寝てる間にダンコが魔物を補充する。それなら布団とかも用意した方が良さそうだ
まだ物は創った事がない為にダンコにお願いして創ってもらった
家の僕の部屋より豪華の部屋の完成に少し複雑な気持ちになったけど・・・まあ明日には家から出るからよしとしよう
明日は僕にとって新たな門出・・・人生の大いなる一歩になる
そう確信してダンジョンを出ると家路へと急いだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます