第6話
《いい?魔物を創る時に重要なのはイメージ・・・どんな魔物かどんな行動をするか明確にイメージして創らないとダメなの。何も考えず姿形だけイメージして創るとただそこに存在するだけの魔物が生まれる・・・そこのスライムみたいにね》
なんか言葉にトゲがあるような気がする
見事魔物から魔族に進化?したスラミ。意思の疎通は図れないけど魔物の時より懐いている・・・ような気がする。ぷよぷよの速度が上がり動きが激しくなったからだ
「姿形は分かるけど行動って?」
《基本的には三つ・・・侵入者の排除、何かを護る、ただ徘徊するの三つよ。侵入者の排除は言わずと知れた魔物の基本行動よ。入って来た人間に攻撃を仕掛けるのでマナを溜める為の一番重要な役割。何かを護るは扉だったり宝箱などの前に配置する事によってその先のものを容易に取られないようにする為の魔物・・・人間にこの魔物を倒せば何かがあると気付かせる事にも一役買ってるわ。最後にただ徘徊するだけ・・・率先して人間を襲う訳ではない魔物ね。当然攻撃を仕掛けられれば戦うけど基本は見て見ぬふりをする》
「最後の魔物・・・いる?」
《そうね・・・普通に襲う魔物と同レベルだったら要らないかもね。でも魔物のランクは今言った三つの順番に上げていくの・・・排除が下級なら護るが中級、徘徊が上級みたいにね》
なるほど・・・宝箱があってそれを護る魔物が強ければ諦めるって選択も出来る訳か。魔物はあくまでも護る行動を取る為に取ろうとしなければ襲って来ない
けど徘徊は?
《弱い魔物ばかり見てたら飽きるでしょ?強い魔物がいる・・・手が届かない魔物がそこにいる・・・自分の弱さを認識し
「でも間違えて攻撃しちゃったら?ほら・・・相手の強さを見極められない奴って一定数いるから・・・」
《そんな間抜けは遅かれ早かれいずれ死ぬわ。ダンジョンは常に平等・・・死ぬも生きるも自分次第・・・私達以外は、ね》
ダンコの言わんとしている事は分かる
ダンジョンは強い者に微笑みかけ弱い者に牙を剥く
それは外の世界でも同じであり平等だから起きる事・・・生き残りたければ強くなれ・・・そうでなければ死ね・・・そう冷たく突き放す
分かってるつもりだったけど・・・僕は本当の意味でその言葉を理解していなかった
『ダンジョンは常に平等』
その言葉の意味を・・・理解してなかったんだ・・・
スライムのイメージは持っている為に1階用のスライムを侵入者の排除・・・攻撃班を創り出す
1階の規模を考えて30体創った後にバラバラに配置する
《1種類じゃ飽きられちゃうわ。もう2種類くらい必要ね・・・どれにする?》
飽きるとかあるのか?命懸けで来る冒険者ばかりだからそんな事思う余裕はないと思うけど・・・
「下級からでしょ?おすすめは?」
《ゴブリンやコボルトなんて良いかもね。スライムより動きが多彩だし武器も持たせられるわ。動きの速さならバウンドキャットかブラッドドッグなんかもおすすめね》
ゴブリンやコボルトは武器を持たせたら1階じゃ強過ぎる気が・・・ブラッドドッグは吸血する以外はただの犬だしバウンドキャットは壁を使って跳ね回るけど攻撃力は大した事ないはず・・・なら・・・
「ブラッドドッグとバウンドキャットにしよう。なるべく1階の奥の方に出るように配置して」
《少しずつ分かってきたようね。じゃあ今回は私が創るから今度からはロウが創るのよ。続けて2階だけど──────》
《これで大方ダンジョンは完成ね。後は約束の物ね》
「約束?」
《忘れたの?》
ダンコがそう言うと目の前が輝き始める
魔物?・・・いや違う・・・これは・・・
剣とその剣を納める鞘・・・それに服が何着かと・・・これは・・・仮面にフード付きのマント??
《身に着けてみて。サイズが合わなければ作り直すわ》
言われた通り1着の服を選んで着てみるとサイズはピッタリだった。剣を鞘に納めて腰に差し、謎の仮面を付けてマントを羽織ると・・・なかなか怪しげな人物に早変わりだ
「えっと・・・」
《剣と服は就職祝いよ。仮面とマントは・・・これから必要になるから持っておいて》
「これから必要って・・・いつ?」
《今からよ》
「今から?」
《ダンジョンが出来て魔物も揃ったら次にする事は?》
「・・・オープン?」
《違うでしょ!テストよテスト!実際に歩いて見ないと分からない所が沢山あるの・・・魔物が偏ってないかとか道に不具合はないかとかレベルは適正かどうかとか、ね。オープンしてから修正も出来なくはないけどなるべくそういうのは避けたいわね・・・無駄なマナを使う事にもなるし魅力が半減するわ》
「・・・テストが必要なのは分かったけど仮面とマントが必要な理由は?」
《仮面には認識阻害の効果を持たせてるの。付ければ魔物はアナタがロウ・・・マスターと認識しない。つまり一般人としてダンジョンが経験出来るのよ。マントは今回は要らないけど今後は必要になってくるわ。運営中にどうしても修正が必要になった時、他の人にバレたくないでしょ?アナタがダンジョンマスターってこと》
「ああ・・・なるほど。仮面は魔物から、マントは人間からバレないようにする為って事か・・・ん?って事は仮面を付けると僕も魔物に襲われるって事?」
《当然・・・そうじゃないとテストにならないでしょ?》
「魔物に・・・僕が・・・テストなしでオープンって訳にはいかない?ちょっとなんて言うか・・・」
《ただでさえ平凡なダンジョンなのにオープン早々下手なところは見せられないわ。大丈夫・・・危なくなったら仮面を外せば魔物はマスターと認識して攻撃を止める・・・はずだから》
「はずって・・・もし止めなかったら?」
《・・・さあ行くわよ!オープンに向けて最終調整よ・・・張り切って行きましょう!》
「待てって!おい・・・まだ心の準備が・・・」
止める間もなく僕の体は司令室から見覚えのある場所・・・ダンジョンの1階に転移した
《地図を見て。今まで司令室にあった光点が入口にしようとしている場所に移動したでしょ?この光点が人間の位置を表すの・・・それと魔物は赤点滅。それと右に見える数字が魔物の数ね》
地図の右に魔物の名前が書いてあり、スライム30/30、ブラッドドッグ10/10、バウンドキャット10/10と書かれていた
《数字の右側が最大数で左が現在の数・・・倒されれば減っていくって感じよ》
魔物の居場所も数もひと目で分かるのはありがたいな・・・って近くに魔物がいる!・・・でもどの魔物かはこの地図上だと分からないのか・・・
僕の位置を示す光点に近付いて来る赤点滅・・・多分僕の気配を察知して動いているのだろう。入口に転移した時から真っ直ぐにこちらに向かっていた
《剣を抜いて!今のアナタは単なるダンジョンの侵入者・・・容赦なく襲いかかって来るわよ!》
ダンコの言葉で一気に緊張感が増す
慌てて剣を抜くともうそろそろ見えてくるだろう魔物に対して身構えた
「この付近に出て来るのは・・・だよな」
見えてきたのはぼくが最初に創った記念すべき魔物・・・スライム。ゼリー状の体を這わせてゆっくりと僕に近付いて来た
学校の授業で剣は習ったけど実戦は初めて・・・魔物の中で最も弱いとされるスライムが相手とはいえ緊張で手が震え足が自分の足じゃないみたいに感覚がない
《マナは使わないでね・・・勿体ないから》
「どうせ僕に戻ってくるんでしょ?なら使っても・・・」
《還元率は100%じゃないの。それにスライム如きなら剣だけで十分。華麗に殺っちゃって》
この・・・人の気も知らないで
溜めたマナを使ってみたいって気持ちもあるけど仕方ないからダンコの言う通り剣だけで戦って見ることにしよう
まずは相手の出方を伺って・・・スライムの攻撃方法ってどんなのだろう?
ふと疑問に思った瞬間にその答えは返ってきた
体の一部が突然伸び始め僕の方に向かって来る
「うわっ!」
思わず飛び退きその攻撃を躱すと伸びて来た部分は引っ込んでいく。伸びる距離には限度があるのか・・・際限なく伸びて来ていたら多分食らってたな・・・危ない危ない
《今の攻撃くらいくぐり抜けなさいよ。そんなんじゃいつまで経っても倒せないわよ?》
「わ、分かってるよ!」
そう言われても足が思うように動いてくれないんだ・・・簡単に出来る事じゃない
まずはギリギリじゃなくて大きく躱して腕?触手?を引っ込めているタイミングを見計らって攻撃してみよう
頭の中では完璧な作戦・・・でもいざやろうとすると足が竦む
結局二度目三度目の攻撃も後ろに飛んでしまいスライムに近付けなかった
《・・・ちょっと・・・》
「次!次でやるから!」
振り返ると壁があった
まだ入口は閉鎖してるからこの先に道はない
つまり・・・追い詰められた状況だ
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
息を整えようとしてもなかなか息が吸えない。出ていくだけの空気・・・ついには肺は空っぽになる
《来るわよ!》
ダンコの叫びに反応し後ろではなく斜め前に飛ぶように出た
タイミングはバッチリ・・・触手を躱して剣を振り上げ後は振り下ろすだけ
ただ──────
《ロウ!》
剣を振り上げた状態で固まる僕に容赦なくスライムの攻撃が僕の腹を打ち抜く
体はくの字に曲がり空っぽになったと思った肺が僅かに残っていた空気を押し出した
殴られた勢いで体は壁まで飛ばされ腰を強打
くの字に曲がっていた体が強制的に真っ直ぐに戻されると足に力が戻らずズルズルと壁にもたれかかって座り込む
・・・痛い・・・
《ロウ!!》
再びダンコが叫ぶ
見るとスライムは追い討ちをかけようと触手を伸ばしていた
躱す事が出来ずに顔面に食らう・・・その勢いで後頭部が壁に打ち付けられ激痛が走った
頭がクラクラする・・・でも立たないと・・・また・・・
体が思うように動かない
それでも必死に立とうと剣を地面に突き立て起き上がろうと足に力を入れる・・・が、立てなかった
また触手が・・・と思ったけど目の前のスライムは攻撃を仕掛けて来ない・・・理由は単純、さっきの攻撃で仮面が取れたからだった・・・
《・・・ハア・・・何やってんのよ・・・》
「うっ・・・仕方ないだろ?実戦は初めてなんだ・・・思うように体が動かなくて・・・」
《そうじゃないわ。一瞬躊躇したでしょ?あの時剣を振り下ろせれば倒せたはずなのに・・・》
「・・・」
そう・・・初めて前に出て躱した後、僕は剣を振り下ろせばスライムを倒せていた。けど僕はあの時・・・
《気持ちは分かるわ・・・この魔物はアナタが創った魔物・・・情が湧くのは仕方ないかもしれない・・・けど魔物はマナを稼ぐ道具・・・これから何体と倒したり倒されるのを見たりしなきゃいけないの・・・もしそれが出来ないと言うのなら・・・この10年は無駄に終わる・・・》
この10年が?
独り言を繰り返し変な目で見られ、マナがあるのに使えなくて役立たずと罵られ、家族からも見放されたこの10年が・・・無駄?
《ちょっと!ロウ!》
スライムに歩み寄ると剣を振り上げる
ダンコの制止する超えを無視して・・・僕は無情にも剣を振り下ろした
剣の斬れ味が良いからなのかスライムが柔らかいからなのか・・・手応えはあまりなくスライムの体を通過して地面に当たった時の衝撃の方が大きかったくらいだ
スライムは絶命したようで地面に溶け込むようにして消えてしまった。残ったのはスライムの体内に見えていた玉がひとつ・・・これが魔核か・・・
ダンジョンにダンジョンコアがあるように魔物にもコアがある。それが魔核・・・マナを溜めたり能力を使うのに必要な物だ・・・ん?人間にも魔核ってあるのか?それとも人核?
《この・・・バカロウ!!》
「んなっ!?急に叫ぶなよ!」
《叫びたくもなるわ!どうして殺しちゃったのよ!》
「ええ!?ダンコが殺せって・・・まさか倒せって殺せって事じゃなかったって事?」
《・・・殺すのは構わない・・・けど殺し方に問題があるの!話したでしょ?ダンジョンでは常に平等って・・・でも果たして今のアナタとスライムは平等?》
「??・・・あっ・・・仮面・・・」
《そうよ・・・仮面が外れた状態だとアナタはこのダンジョンのマスター・・・スライムはマスターであるアナタを認識して止まってた・・・それなのにアナタは・・・》
そうだ・・・スライムは侵入者を排除しろと命令を受けて生まれた魔物・・・さっきまでは僕を侵入者と認識していたから攻撃を仕掛けて来ていた。でも仮面をしていない僕は侵入者ではなくダンジョンマスター・・・スライムにとっての創造主だ
《いい?魔物達にとってダンジョンマスターは親みたいなものよ。親が理不尽に子の命を奪っていいと思う?アナタは今・・・それを行ったのよ?》
「・・・仮面が外れた事を忘れてた・・・わざとじゃないんだ・・・」
《それでも、よ。愛情を注げとは言わない・・・マナを溜める為の道具として使うのは事実・・・でもマスターとしては彼らを殺さないで。・・・やるなら対等な立場で・・・それがダンジョンの不変のルールよ》
「分かった・・・気を付けるよ」
理解が追い付かないところも多々あるけど・・・やってはいけない事だったのは分かる
僕は地面に転がる玉を拾い上げ握り締めた後で懐にしまいテストの続きをするべく仮面を付けて剣を握り奥へと向かった
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