第5話

「うふふふふふ・・・思った通り可愛いなぁ」


《気持ち悪い笑い方ね・・・それに思った通りってアナタが創ったんでしょ?当たり前じゃない》


目の前でポヨンポヨンしているスライムを見て目を細めているとダンコが気になる事を言った。当たり前?


「どういう事?」


《呆れた・・・このスライムはアナタが想像して創造したの。だから『思った通り』なんて当たり前って言ったのよ》


そっか・・・生み出した訳じゃなくて創造したのか。ん?となると・・・


「スライムはずっと創りたかったから上手く出来たけど他の魔物はそんなに細かく創れないよ?どうすんの?」


ダンコの話を聞いて想像するにしても限度がある。ゴブリンとかトロールとか有名な魔物は本で見た事あるけど本に載ってない魔物も沢山いるし


《ロウが見た事ない魔物は私が創るわ。目の前に浮かべるからちょっと見てみて》


浮かべる?何を・・・と思ったら目の前に文字が浮かび上がる。そこには魔物の名前と数字がズラリと並んでいた


「何これ?」


《魔物のリストとその魔物を創るのに必要なマナ値よ。下に行けば行くほど高いでしょ?強さと必要マナ値・・・コストは比例するから参考にするといいわ》


「へえ・・・じゃあ早速・・・」


《魔物はお終い!今日はダンジョンの手直しをするわよ!》


「え・・・なんで?」


せっかく魔物を創れるのに・・・


《これを見なさい》


そう言うと目の前のリストが消えて図形が浮かび上がる。これってもしかして・・・このダンジョン?


《初めてにしては上出来だけどこのままだとオープン出来ないわ。まずダンジョンのコンセプトを決めてからそれに合わせて変えて行くの。魔物を配置するのはその後だからまだ当分先ね》


「えぇ・・・てかコンセプトって?」


《このダンジョンをどう運用するか・・・もちろんマナを稼ぐのは当然としてどう他のダンジョンと差別化を図るか考えないと『平凡なダンジョン』の烙印を押されちゃうわ》


平凡でいいのだけど・・・にしてもどう運用するか、か・・・特に考えてなかったな


《居住区の中にあるダンジョンはそれだけで他のダンジョンより集客しやすい利点があるの。でも怠けてたら一瞬で飽きられるわ・・・常に刺激を与えてこそ活気の溢れるダンジョンへの近道よ》


「例えばどんなダンジョン?」


《そうね・・・迷路のようなダンジョンとか一本道のダンジョン、トラップだらけのダンジョンに広大なダンジョンなんてものもあるわね》


「ふーん・・・どれもピンと来ないな。いきなり奇を衒うと失敗するかもよ?初めはシンプルで徐々にコンセプトを決めていく・・・ってのはどう?」


《・・・それもそうね・・・ここの住民もいきなり奇抜なダンジョンが出現したら戸惑うだろうし・・・》


「てな訳で早速魔物を・・・」


《ダメ!》


「なんで!?」


《このままだとオープン出来ないって言ったでしょ!入口の右扉に階段って何?最速で踏破させる気なの?2階なんて床がトゲだらけって魔物も歩けない状態じゃない!3階はただの広間だし・・・本気でこれでオープン出来ると思った訳!?》


「入口そばに次の階への階段があるとは誰も思わないだろ?トゲだって1階より難易度を上げるにはどうしたらいいか考えた結果で・・・3階は全体がボス部屋にしようかなって・・・」


《もう少し頭使ってよ・・・これじゃあダンジョンじゃなくてダメジョンよ。・・・ハア・・・まだまだ先は長そうね。分かったわ・・・とりあえず1階は私が作り直すからそれを参考にして2階と3階を作り直しなさい。その後で魔物を創って配置して試験して・・・》


「・・・意外と大変なんだね・・・ダンジョンって」


《当たり前でしょ?確か兵舎に移って仕事始めるまで1週間はあったわよね?その間は覚悟してなさい・・・その間に仕上げるわよ!》


「えっと・・・色々準備とかあるのだけど・・・」


《大した荷物はないし必要な物を買いに行くだけでしょ?それならここで全部揃うしわざわざ店に行く必要なんてないわ。まっ、私からの就職祝いとして今回は私が揃えてあげるから感謝しなさい》


「揃える?だって服とか・・・剣だって・・・」


兵士になるにあたり僕は村が用意した兵舎で寝泊まりする事になっている。有事の時にすぐ出動出来るようにらしいけどこの村で有事なんて起こるのか甚だ疑問だ


それでも規則は規則・・・しかも結婚するまで強制らしいから兵士になった人は結婚願望が凄いらしい・・・不人気職だからなかなか決まらないのがたまにキズだとか


とにかく兵舎に移る際に必要な物はダンコが揃えてくれるというのだからそれを信じて兵舎に移るまではダンジョンの事に集中しよう


10年間待ったその時を早く迎える為に──────




それからダンジョン作りは過酷を極めた


まずはダンコが作り直してくれたお手本の1階を参考に2階を作り直す


床のトゲは全部排除して道を作り直す


ひとつの分かれ道を作るとふたつの行き先を決めないといけない・・・更に分かれ道を作ると倍に広がり更に・・・なんてやっていると頭がこんがらがってくる


まだ3階分しかないからなるべく1階1階を広くしてすぐに踏破されないようにしないと・・・せめて次の階層が創れる分のマナを稼げるまでは


ダンジョンがマナを稼ぐ方法は何通りかあるけど、最も稼げるのは人間が魔物に対してマナ・・・つまり魔法や魔技を使用した場合だ


ダンジョンはその使用した魔法や魔技のマナを吸収する・・・それがダンジョンマスターである僕の所に集まるって仕組みだ


後は倒された魔物を回収したりと方法はいくつかあるらしいけど当面は人間のマナに頼るしかないらしい


となると重要になってくるのは・・・魔物


《ただ強い魔物を置けばいいってもんじゃないからね。入って来る人に気持ち良くマナを使ってもらう為には飴が必要・・・現段階で3階層しかないから『1階は限りなく弱く2階は程々に3階は命懸け』くらいがちょうどいいわ》


「数は?」


《その階層の広さによって変わるけど100は欲しいわね。状況にもよるけど数を安定させる為に毎日補充も必要よ。人気になればなるほどマナも溜まるけど魔物を創るペースも上がる・・・気を抜くと魔物の居ないダンジョンってことになりかねないから気をつけてね》


どう気を付けるんだろう・・・てか日中は兵士の仕事があるから魔物を補充するとしたら夜になる。となると寝る暇は・・・あれ?なんか想像してたよりハードだぞ


てっきり司令室でふんぞり返って冒険者達を眺める悠々自適な生活になる・・・なんて思ってたのに・・・


《明日からは魔物創りに入りましょう。ダンジョンもようやく形になってきたしね》


「やっとか・・・」


《初めは同一の魔物を創る所から・・・それから徐々に種類を増やして・・・》


「えっ?色んな魔物を・・・」


《ダメダメ。魔物を創るのに熟練度ってものがあって、同一の魔物を創っていくと熟練度が上がってコストが下がるの。例えばスライムを創り続ければコストが2マナかかっていたのが1マナに・・・って感じでね。そうなると後々ダンジョン経営が楽になるわ》


・・・思ってたんと違う・・・


《不服そうね・・・何事も最初が肝心よ。最初はマナを安定供給する事が重要・・・それからよ、楽しむのは》


つまり安定するまで作業って感じか・・・ある程度安定したら色々出来そうだけど・・・ハア・・・先は長そうだ


《まずは最下級の魔物を大量生産・・・どれにするかは自由だけど必要なマナが少ない魔物にしてね》


「分かった・・・そうなるとやっぱり・・・」


司令室でぷよぷよしているだけのスライムを見る。やっぱり初めて創ったから思い入れもあるし1階に配置するのはスライムにしよう


でもこのスライムは配置するつもりはない・・・記念に司令室で飼おうと思ってる。だとすると見た目は同じだからなんか差別化が必要だな


「よし・・・スライム・・・お前は今日から『スラミ』だ」


《ちょっ、ちょっと!》


慌てるダンコ


なぜそんなに慌てた声を出すのか疑問に思ってるいると司令室でぷよぷよしていたスラミが突然光始めた


「え?なに?」


《・・・ハア・・・言ってなかった私のミスね。魔物は言わばマナを集める為の道具・・・だから魔なのよ。個性や感情なんてなくてただ言われた事を繰り返すだけ・・・でもその魔物に名前を与えると魔物から魔族になる・・・しかもアナタの眷族・・・人間で言う家族みたいなものよ》


「え・・・つまりスラミは・・・僕の家族になった??」


《そう・・・スライムだからそれほど消費しなかったけど魔物から魔族になるにもマナが必要なの。中級クラスになると一体魔族にするだけで大量のマナが必要になるわ。それと眷族になるって事は繋がりが出来る・・・そうなると私達が得たマナの一部がその眷族に流れてしまう訳。出来ればこのスライムを処分して欲しいのだけど・・・》


「ダ、ダメだ!そんな話を聞いたら尚更処分なんて出来るないよ!」


《そうなるわよね・・・迂闊だったわ・・・魔物を創った時点で説明しておけば・・・》


「・・・もし説明を受けてたとしても僕はこのスライムに名前を付けてたと思う・・・だって一番初めに創った魔物だから・・・」


《・・・もしかして慰めてくれてるの?》


「別にそういう訳じゃ・・・と、とにかくスラミはもう家族も同然・・・ダンコもスラミと呼んでくれ」


《分かったわ・・・でも・・・私の名前といいもっと他にないの?ネーミングセンスがマイナス方向に振り切ってるわよ?》


「うっ・・・うるさい!とにかくこのスライムは今日からスラミだ!僕達の家族だからな!」


《ハイハイ・・・そういう事にしておきましょう》


色々と機能があり過ぎて全てを理解するのにまだまだ時間がかかりそうだな。毎晩のように教えてくれた事も一から思い出さないと忘れている事も結構あるし


てか思わず『スラミ』と名付けたけどスライムに性別ってあるのだろうか・・・もしスラミが男だったら・・・


『父ちゃんよくも俺にスラミなんて女っぽい名前を付けてくれたな!』


僕は来るかどうか分からない反抗期の姿を想像し身震いしながら未だ光り続けるスラミを見つめ続けた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る