第15話 入学試験


 学術都市に到着してから、あっという間に四日が過ぎた。今日は入学試験の当日だ。


 この都市には気になるものが多すぎて、この四日間散策ばかりしていた。受験生としては間違っている気もしたが、好奇心には勝てなかった。まあ、試験は大丈夫だろう。たぶん。


 かなり余裕をもって宿を出たので、試験開始時間には問題なく会場についていた。よかった、迷わないかどうかが一番心配だったんだ。


 魔術科の試験は筆記と実技の二種類がある。

 午前中は筆記で、午後は実技だ。総合得点が基準よりも高ければ合格となる。逆に言えば基準に満たない者は不合格になるので、年によっては合格者が極端に少ない時もあるそうだ。


 受付の時と同じお姉さんが、前に立った。

 いよいよ、試験開始だ。


「それでは、筆記試験をはじめますー。机に問題用紙がありますので、上から順番に解答できるだけ解答してくださいねー」


 机の上の紙の束を見る。

 話には聞いていたが、すごい試験方法だな。


「それでは、はじめー」


 開始の合図があったので、問題を解き始める。

 うーん、最初は簡単な問題だな。


 ……


 だんだんと問題の難易度が上がってきたな。

 まあ、別になんてことはない。ゼブラスの出してきた課題の方が、鬼のように難しかった。


 ……


「受験番号3852、3883、4526は即刻退室してください。抵抗した場合、魔術を行使します」


 項垂れた受験生が、試験会場から出ていく。

 カンニングがバレたか。注意事項にも書いてあったのに馬鹿なことを……。確か、今後の受験資格も剥奪されるはずだ。


 ……


 ふぅむ、これは難しいな。

 難しいというよりは、これ問題なのかって感じだ。


『禁術使用に関する所感を記入せよ』


 所感ってことは、禁術についてどう思いますかってことだよな。採点どうするんだろ。倫理的な話をしたいならお利口さんの答えを書くけど、ここ魔術科だしなぁ。とりあえず思ったことを書くか。


 ……


「はーい、時間ですので解答やめてくださーい」


 ふぅ、やっと終わったか。

 長時間机に向かっていたせいで体が凝ったな。試験についてはまあ、大丈夫だろう。


「お昼の休憩の後、実技試験を実施しますー。時間と場所については冊子に記載してありますので、遅刻することのないように願いますー」


 ぞろぞろと受験生が出ていくので、それに続く。

 休憩場所は指定されていないので、適当に外に出て少し何か食べよう。



――――――



 休憩も終わり、実技試験の会場に着いた。

 わりと広い建物ではあるが、魔術を使うには狭いと思う。というか、この人数をどう試験していくのだろう。


「それでは、実技試験をはじめますー。受付で配布した受験票を手に持ってくださいー」


 言われた通り、受験票を手に取る。

 ああ、これはここで使うのか。


「各自の受験会場に転送しますー。三、二、一、転送開始ー」


 おおー、転送魔術なんて初めて見た。

 すごいなぁ、どうなってるんだろう。


 気がつくと、白い空間にいた。

 目の前には、試験官だと思われる女性が立っている。


「はい、受験番号3333の試験を……」


 そう言ったところで、女性がこちらを見る。

 なんだか怪訝な目でこちらを見ているが、どうしたのだろう。


「……はぁ、いるのよねぇ。キミみたいな子がたまに。こんなの受付で判断できないものなのかしらねぇ……」


「……あの」


「ああ、はいはい愚痴っちゃってごめんなさいね。合格だから元の場所に転送するわね」


 え、合格? 何もしてないんだけど。


「……僕、何もしてないんですけど」


「いやいや、そんなの見ればわかるでしょ。キミは特待生として報告しとくからね」


「……あ、はい」


 見たらわかるらしい。


「じゃ、お疲れ様でした」


 いや、何もしてないから疲れてない。

 足元の魔法陣が光り出した。ああ、もう転送されるのね。


 気がつくと、元の建物に戻っていた。

 僕の周りには誰もいない。受付のお姉さんが前で椅子に座っているだけだ。


「おー早いですねー。なにか不具合でも……。あ、特待生ですかそうですかー。いや、こちらに文句言われましても、そんな権限ないんですよーぅ」


 右手を耳に当てて何やら話している。

 内容的に、先ほどの試験官の女性と通話しているのだろうか。というか、自然と使っているが通話の魔術も気になる。


「それじゃ、お疲れ様でしたー。自由解散なので帰っていいですよー。特待生ならもう合格は決まってますけど、七日後の合格発表には来てくださいねー。入学案内などがありますのでー」


「……お疲れ様でした」


 え、終わり?

 わりと意気込んできたんだけど、魔術を使うこともなく終わってしまった。いや、なんかこう、その歳でそんな魔術を!? みたいなやつをやりたかったんだけどな……。まあ、合格できたならよしとするか。


 なんだか微妙な気持ちになりながら、宿に戻った。


 しかし、特待生かぁ。

 ゲームではそんな制度は明記されていなかったけど、どういう扱いなんだろう。ゲームのサリファは記憶にほとんどないくらい印象の薄い存在だったから、あまり目立ちたくないな。


 

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