第16話 特待生
首席 3333 サリファ
結果発表当日。僕は愕然としていた。
あまりにデカデカと一番上に僕の名前が載っている。グライエンツの家名を書かなくて本当に良かった。
万が一でも不合格になるわけにはいかなかったので、全力で試験に臨んだらこんなことに……。これは、かなり目立ってるよなぁ。
済んでしまったことは仕方がない。
これからはなるべく、なるべく目立たないようにしよう。合否発表でざわめく他の受験生たちを横目に、静かに受付に向かう。入学案内を受け取って、すぐに帰ろう……。
「合格おめでございますー。あれ? キミはあの時の特待生かー」
「……ありがとうございます」
あの時と同じ受付のお姉さんは、僕のことを覚えていたようだ。ちょっと、あんまり大きい声で特待生とか言うのやめてほしい。
「こちらが入学案内ですねー。それと、魔術科の学科長が話を聞きたいそうなので、ついてきてくれますかー?」
「……はい」
「ありがとうございますー。……例の特待生の子が来たので案内しますー」
通信魔術で連絡する受付のお姉さん。
入学前に呼び出しか……。前途多難だな……。
「学科長ーお連れしましたー」
「お入りください」
重厚な扉を開き、中に入る。
部屋には、一人の女性がいた。あれが、学科長なのだろうな。あー、すごいな。高レベルの魔術師はゼブラスしか会ったことがなかったが、この人は明らかにあの狂人よりも上だ。それも、僕が推し量れないほどの高みにいる。
「それでは、あとはお願いしますー」
「ええ、ありがとう」
そう言って、受付のお姉さんは去っていった。今更だけど、なんの用事だろうか。
「ご足労いただきありがとうございますね。そちらにお掛けください」
「……はい」
言われるがまま、ソファに座る。
うわぁ、ちょっと近づくだけでもすごいプレッシャーだ。扉の外では気づかなかったから、この部屋は特殊な結界が張られていて外部と遮断されているのだろう。
「はぁ、ヴィラの言っていた通りね。こんな子が一般入試を受けているだなんて……。受付の方法を変えた方がいいのかしら?」
不思議な輝きを宿す紫の瞳がこちらを見つめている。なんだか居心地が悪い。
「ああ、ごめんなさいね。こちらの話よ」
「……いえ」
「改めまして、ここケントリッツ学術院で魔術科の学科長を務めるスレン=シドレスです。以後、お見知りおきくださいね」
「……サリファ=グライエンツと申します」
スレンという名前を聞いて、心底驚いた。ゲームで度々出てくる名前だったからだ。こんな大物が学科長だったとは。
至高の魔女スレン。
この世界で最強クラスの超人のはずだ。こんな有名人が学院にいたなら覚えているはずだけど、記憶にない。……いや、そうか。ティアロラは神学科、もう一人の主人公は戦術科だったから、魔術科ではない。この学院は広く、在籍する教授や教員の数も多いため、絡みがなければ出会うこともなかったのか。
「貴方をお呼びしたのは、特待生について説明するためです。一般入試で特待生になったのは、貴方だけですからね」
一般入試というのは、先ほどから気になっていた。他に入学する方法があるということなんだよね?
「推薦入試についてはご存知なかったですか? しかるべき手段で推薦を受けた者が、入学試験を免除される制度です。学院の厳しい審査が行われますので、年に数人しか通りませんよ。推薦入学者がいない年もあります」
そんなものがあったとは。
「推薦入学者は、基本的に学術院がその能力を認めた者ですので特待生になります。一般入試から特待生になるのは、極稀です」
つまり、僕のことだ。
これは目立ってしまいそうだなぁ。
「それで、ですね。今年の特待生は、貴方を含めて五人います。その顔ぶれが少々厄介でしてね」
特待生が、五人。僕以外に四人いるということか。……ん? 待てよ? 学院で、突出した能力を持つ四人組?
ガロンド組じゃん!もしくは、クラス・ガロンド!え、あれって特待生ってことだったの?
ガロンド組とは、ガロンドという凄腕の先生が受け持つクラスだ。ティアロラともう一人の主人公、そして天才魔道具師と怪力の女騎士が所属するクラスで、学園編の大きなイベントは基本的にこの四人で動くことになる。
てっきりガロンド組以外にもいろんなクラスがあると思っていたのだが、どうやら違ったようだ。他の学生の描写はあんまりなかったから知らなかった。え、もう完全にシナリオの邪魔じゃん僕。
「すぐにわかることですから教えますが、オルブレイム帝国の第二皇子、コルベール公国の姫騎士、世界企業ダントカンパニーの子息、それに加えてシャイローニュ聖教の聖女までが入学してきます。……今から、頭が痛いですね」
「……あの、特待生を辞退することは」
「気持ちはわかりますが、できません。それに、貴方には彼らのバランスをとってほしいと思ってお呼びしたのです」
え、なんで僕?
ゲームで何度もプレイしたから知っている。ティアロラ以外の癖が強すぎる。ゲームだから個性的だなぁくらいで笑えたものの、実際に相手をするとなると絶対に疲れる。
「……嫌です」
「そこをなんとか、お願いします。貴方のことは少々調べさせてもらいましたが、しがらみがほとんどない。それに、聖女とも同郷でしょう? 彼女と協力して上手くまとめてくれませんか?」
なんで学生の僕が? と思ったが、担任はあのガロンドか。要所要所ではしっかりと締めるタイプの頼れる渋いオジサンだが、基本は放任主義。スレン学科長が保険をかけておきたい気持ちもわかる。
「どうにか、お願いできませんかね? できるだけ便宜も図りますので……。学院長からも念を押されてるんですよ……」
スレン学科長は非常に疲れた顔をしている。
心情的には嫌だが、便宜を図るという言葉には心惹かれた。あの至高の魔女に少しでも貸しを作れるのは、今後なにかの役にたつかもしれない。
「……わかりました。できるだけやってみますが、期待はしないでください」
「ありがとうございます……!!これで、あのジジィに厄介な仕事を振られないで済む……」
なんか可哀想になってきたな。
世界最強の十人に数えられるような人でも、こんなに苦労しているのか。世知辛い世の中だ。
「それでは、また入学式でお会いしましょう。そういえば、首席合格ですので入学の挨拶もできますが、やりますか?」
「……やりません」
こうして、入学前から厄介ごとを押し付けられた。ティアロラともう一人の主人公に会えるのは楽しみだが、先行きが不安だ……。
学院を出て、帰路に着く。
先ほどから学院での行動方針について考えているが、上手くまとまらない。特待生の四人のバランスをとるといっても、そのうちまとまってはくるんだよなぁ。その後の惨劇については止めるからいいとして、それがなければ別に僕が出しゃばる必要はない気もする。
まあ、しばらくは危険なイベントはないはずだ。様子を見ながら考えつつ、勉学に励むとしよう。せっかく学院に入学したのだから、学ばなければ損だ。
ティアロラとも相談しないとなぁ。セブファンで特待生をまとめるのに苦労していたのは彼女だ。今回は僕もいるのだから、できるだけ負担を減らせるように頑張ろう。
そんなことを考えながら、宿へと入る。
「サリファ……!!」
そこには、成長したティアロラの姿があって。
「会いたかった……!!」
いつかと同じように、抱きついてきた。
えっと、ほんとに、成長したね……。
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