第21話 鬼頭の秘密は安倍晴明に繋がる
「え?」
まさか当の本人である鬼頭から否定されるとは思っていなかった十環は、食べかけていたいなり寿司をぽとりと落とした。
「十環さん。別にこのことは斎木家と鬼頭家の中では、秘密にはされていませんよ。それから食べ物を粗末にしてはいけません」
桔梗の言う通り、別に秘密にはされてはいないけど、知ろうと思わなければ知ることのない情報でもある。
「十環。聞き方を変えようか。十環は異形?」
「……違う。でも桔梗ちゃんと同じかと言われたら、それも違う」
「そうだね。人でもなく異形でもない。それが、私達だね。では、鬼とは何?」
「……力が強い? たくさん食べる? 個人によって能力が違う……は桔梗ちゃんたちと同じかぁ。あとは姿を変えられる」
姿が変わる。それは鬼化と呼ばれる現象だ。見た目は人とは異なり、額から角が生え、刃のような鋭い爪が伸び、人によっては、体の大きさまで変わる者もいる。それにより、飛躍的に能力が向上することができる。
「でも、鬼化は大祖父様から許可がない者は駄目って言われているから、普通はしない。だから、関係ない?」
「それは能力的なことだよね。鬼は『
「確かに」
「だったら、私達は何に隠れて見えない者?」
普通であれば、闇に隠れて見えないモノをさしていた。それが怨霊と呼ばれたり、妖怪と呼ばれたり、異形と呼ばれたりした。
そして鬼頭を鬼として示した理由はなにか。
「えー? 真白ちゃん難しいよ。だって私達は異形と違って普通の人にも見えるから、隠れていないもの」
「十環さん。答えを言っているではありませんか」
「え?」
「人の中に紛れて隠れる者。それが鬼頭家を鬼と呼ぶ理由ですわよ」
人の中に紛れてしまえば、その本質は隠れて見えなくなる。しかし、人とは違う存在であるのだ。
「そうだね。じゃ、その本質はどこから来たのか」
「うー……鬼頭様っていうのは、違うって感じだよね。うー……わからないよ」
もう十環の頭はキャパオーバーなのか、頭から煙でも上りそうな感じで、髪の毛を両手でグチャグチャにかき回している。
「ここで、さっき名前を出した安倍晴明だよ。問題は母親だ」
白狐という風に後世では伝えられているけど、本当のことなんて書けるわけはない。
「母体となる者に異形を喰わすのだよ。正確には呪具を体内に埋め込んで、異形の力を持った子供を作る」
晴明の母親である葛の葉は、晴明を置いて去っていったとあるけれど、恐らく母親は子供を産んだときに異形の力に耐えきれずに死んでいると思われる。
「そうすると、呪具を核とした人と異形の混じった者が生まれる。その呪具が機能し続ければ、不老不死の人ならざる者となり、失敗すれば、異形の力を持った人になる」
そう、失敗と称した安倍晴明は、安倍家の再起を狙って、不老不死の人ならざる者を作ろうとした結果だったと思われる。
安倍家は元々左大臣の地位にいたが、ときが経つにつれ権力を失い、下級官僚まで
当時は藤原氏によって、身分が固定化されてしまっている時代。安倍家という家柄では出世はできない。ならば超人的な存在を作り出そうと考えたのだろう。
そして、安倍晴明が誕生した。人としての寿命を持つ超人がだ。
「真白ちゃん。それって……鬼頭様は鬼だからじゃなくて、呪具によって死なない体になっていると言っているの?」
「そうだね。少なからず、その影響を私達も受けている。まぁ、それが鬼の力と称されているのだけど」
呪具。鬼頭の体内の何処かにある核となっている呪具を壊されない限り、鬼頭は死ぬことはない。逆に言えば、核を壊さないかぎり死なない。
「これでわかったと思うけど、石蕗さんの体内に、その呪具の劣化版が入っているの」
「え? 劣化版?」
完璧じゃない。そして安倍晴明もどきが生まれるほど強力ではない。
「例えていうなら、呪具に使う墨は術の仕様によって分けて使うけど、墨でなく黒い絵の具を使って書きましたというぐらいの不出来な呪具だね」
「市販の墨を使うことも、していないということですの?」
うーん。やっぱりこの例えじゃわかりにくかったか。
「そうだね。見た目は完璧を装っているけど、質が悪すぎて崩壊しかけていると言えばいいかな?」
昨日見つけた鏡の呪具のようにだ。ガラスではなくアクリル板の鏡だったがゆえに、呪具が耐えきれなくなった状態の一歩手前だ。
だから、先生は早く式神を見つけるようにと言っていたのだろう。壊れかかっている呪具ごと式神に喰わせようとしているのだ。
「そんな話を聞くと、鬼頭様って凄いんだなって思う。その鬼頭様にわがままを言う真白ちゃんもある意味凄いよね」
わがまま。鬼頭が私に構う理由。私のわがままを聞いてくれる理由。それが私が見鬼であることに関係する。
見鬼。それは全てを見通せる目を持つ鬼。だから、鬼頭の核がどこにあるか見ることができ、壊すことができる存在が鬼頭真白である。
そう、気が遠くなるほど生きている鬼頭は死を望んでいる。
だけど私は鬼頭の望みは叶えてあげない。絶対に叶えてあげない。そう絶対にだ。
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