第22話 たった今食べたのはどこに消えたのかな?
「あれ? でもさっき真白ちゃんは、混じりすぎてグチャグチャって言っていたけど、呪具の質が悪いから?」
「それは関係ないよ」
確かに言った。これも安倍晴明に例えてみればいいだろう。
「そうだね。十環がさっき言っていたように、安倍晴明の母親は白狐だったという話だけど、恐らく白狐を母親に喰わせたのだと思う。それも一体や二体じゃないだろうね」
「あ⋯⋯同じ種って意味か」
そういうことだ。基本的に物には相性というものがある。そして反発するものもある。五行思想の考えだ。
何事にも一つの物にまとめようとすると、同じ種である方がいい。
有名な混じりものでいうなら、蠱毒だ。あれは毒を持つものを一つの壷の中に入れ、生き残ったモノを呪詛に使うという代物だ。
虫や爬虫類や蜘蛛など、種は違うが毒という属性により術はまとまり、崩壊することがないのだ。
「ふーん。手当たり次第っていうのが駄目だったということだね。それなのに呪具も不出来で壊れかけている⋯⋯これって素人の仕業? 私達は呪具について基本が大事って教わっているから、手抜きはしないもの」
「それはどうでしょう?」
素人かどうかというところを桔梗が疑問視してきた。
「例えば墨でも墨汁という液体のまま売っていますわ」
「え? 墨をすらなくてもいいの?」
「ええ、それに墨は衣服につくと取れませんから、顔料の墨汁も売っているぐらいです」
ああ、顔料の墨ではない液体が売っているんだ。それを使ったということかな?
「真白さんがおっしゃっていた黒の絵の具を用いているというのは、こういう簡易的なモノを使ったということではありませんの?」
「流石、桔梗だね。長い間、外で仕事をしているだけあるね」
「斎木家を背負っている私は、真白さんとは違いますわ」
「そうだね。桔梗は頑張り屋さんだものね」
「それは褒めてないと言っているではありませんか!」
また怒られてしまった。でも、桔梗も本気で怒っているわけじゃない。だって耳が赤いから照れ隠しだとわかる。
でもそれを指摘すると、いっそ機嫌が悪くなるから、言わないけどね。
「真白。腹減った」
「は?」
突然の腹へり宣言に隣を見る。五段のお重の中は空っぽになっている。そして私の方を見る金色の瞳。
「たった今食べたのはどこに消えたのかな?」
さっきまで黙々と食べていたはずだ。なのに腹が減ったとはどういうこと!
「無くなった」
「無くなるはずないよね? だったら、私の分をあげるよ」
私はずっと話していたから、まだお重にはほとんど手をつけていないのだ。
「その代わり帰りに八坂のお饅頭屋さんに寄って帰ってよね」
そう言って私の分のお重を鬼頭の方に差し出す。
「真白さん。寄って帰るというより、お饅頭屋に行ってから帰るではありませんの?」
「桔梗、寄ってから帰るからそれでいいの」
学校は里の西側にあるので、南にあるお饅頭屋に寄ってから北にある家に帰ることになる。桔梗は距離的に寄り道するという感じではないといいたいのだろう。
が、何故かお箸を持っている右手を鬼頭に取られ、お箸が抜き取られた。
げっ! ちょっと待ってくれる?
「これは真白の分だから、真白が食べろ」
「鬼頭。ちょっと待とうか。ここは人目があるから駄目だ⋯⋯って指を噛むな!」
くっ! 人ならざる者の話をしたからだろうか、とても機嫌が悪い感じをヒシヒシと感じる。だから、視線で話していいか確認をとったじゃないか!
「いつもの中庭に⋯⋯」
と言っている途中に鬼頭に抱えられていた。そしていつの間にかテーブルの上にあった私のお弁当も空になっている五段重箱が消えていた。
「ということで、桔梗いいかなって! 鬼頭!」
私の結界をぶち壊して、一階にある食堂の窓から出て行く鬼頭。まだ桔梗にこれで良かったのかと確認取れてないのに!
*
「あー。真白ちゃんの結界って素手で壊れるんだ」
「普通は素手でなんて壊れませんわよ。歴代の鬼頭の嫁が編み出した結界術ですのよ」
「そうだよね。それより鬼頭様が凄く機嫌悪かったね。やっぱりさっきの話が原因だよね」
「はぁ、たぶん周りの目が気に入らなかったのでしょう」
「え?」
「何かと注目を浴びる二人ですから、貴女は時々食事を共にしているようですけど、私は六年ぶりでしたのよ」
「もしかして桔梗ちゃん、拗ねていたの?」
「うるさいですわよ」
桔梗は耳を真っ赤にさせながら、目の前の料理に手をつける。
そんな桔梗を十環はニヤニヤと笑みを浮かべながら見ていた。
「鬼頭様。本当に恐ろしいですわ。今まで多くの異形や怨霊と対峙してきましたが、鬼頭様と比べれば、クソですわ」
「クソって、桔梗ちゃん」
照れを隠すように桔梗は別の話に変えてしまった。
「食堂に来てからずっと殺気だっていましたもの。結界で覆わないと色々被害が出ていましたわ」
桔梗自身も結界を張れるにも関わらず、真白に結界を張るように言ったのは、鬼頭が殺気だっていたからだった。
「え? そうなの? 鬼頭様は機嫌が悪かったけど、殺気立っていたかなぁ」
「はぁ、鬼頭家の者は中心に鬼頭様がいるから感覚がおかしくなっていると気づいて欲しいものですわ」
桔梗はため息を吐きながら、昼食を食べ続けたのだった。
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