第19話 道筋!
シンたちは作戦会議室に集まり、前に広げられた地図を囲んでいた。その地図には、アフガニスタン、バハマ、ボリビア、ブラジル、ビルマ、中国、コロンビア、ドミニカ、エクアドル、グアテマラ、ハイチ、インド、ジャマイカ、ラオス、メキシコ、ナイジェリア、パキスタン、パナマ、パラグアイ、ペルー、タイ、ベネズエラ、ベトナム、北朝鮮この国々がマーキングされ、それぞれが世界の主要な麻薬生産地として知られる場所だ。麻薬密売が人々の生活に及ぼす深刻な影響を考え、シンたちは次の行動を議論していた。
会議の冒頭、シンが低い声で提案した。「…一つずつ潰して行くか?」その問いは重く、室内の空気を張り詰めさせた。シンの目は地図上の国々に向けられ、その視線には決意がにじんでいた。
エルザがすぐに手を挙げて応じる。「いいね!わたしとこの子(М134ミニガン)に任せて。」エルザの言葉は冗談めいて聞こえたが、彼女の目には微塵の迷いもなかった。彼女はすでにアクションを起こす気でいた。
しかし、その言葉にエマが待ったをかける。「ちょっと待って。それじゃあ、私たちはただの侵略者と変わらないわ。」エマの言葉には冷静さがあったが、その声には一抹の憤りも感じられた。
エマはさらに続ける。「麻薬栽培で生活してる人たちもいるのよ。彼らにとって、それは唯一の収入源だったりする。それをただ『潰す』だけじゃ、生活基盤を失わせるだけよ。」
リーイエもその意見に同調した。「エマの言う通りよ。中には、自分たちが何を作っているのか分かっていない人たちだっている。私たちが無理やりその手段を奪ったら、彼らはどうやって生きていけばいいの?」
エルザは不満そうに眉をしかめた。「でもさ、それでいいの?そいつらが作った麻薬が、ゾンビみたいな中毒者を増やしてるのよ。そこに手を出さなきゃ、結局何も変わらないじゃない。」
シンは腕を組んで黙り込んだ。仲間たちの意見を一つひとつ噛み締めながら、深く考え込んでいるようだった。彼自身、麻薬中毒者たちの悲惨な姿を目の当たりにし、行動を起こす必要性を感じていた。それでも、リーイエやエマの意見が示す現実もまた無視できないものだった。
「俺たちの目的は何だ?」と、シンが静かに問いかける。「麻薬そのものを消すことか、それとも、麻薬の犠牲者を減らすことか?潰すだけじゃダメなんだろうな…」
その言葉に、エマが頷きながら言う。「そうよ。ただ破壊するだけなら、私たちは麻薬カルテルと同じくらい無慈悲な存在になるだけ。」
新たな方向性
シンはしばらくの沈黙の後、結論を出した。「まずは調査だ。麻薬栽培をしている人々がどういう状況にあるのかを詳しく知る。その上で、他の収入源を提供できる方法を考えるべきだ。俺たちはただ破壊するだけの存在じゃない。少なくとも、そうありたい。」
その言葉に、エルザが肩をすくめながら小さく笑った。「ま、シンらしい答えね。でも、その間にも中毒者が増えるのよ?遅すぎるかもしれない。」
「分かってる。でも、やれることをやるしかないだろ。」シンはきっぱりと言い切った。
議論の後、シンたちは計画を練り直し始めた。まずは各国の麻薬生産地の詳細な調査を行い、地元の生活環境や社会状況を把握する。その情報を基に、より持続可能で人々の生活を支える方法を模索することにした。
麻薬の闇を暴く一方で、その闇に住む人々を無視しない。シンたちはそうした難しい道を選んだ。誰もがその決断に葛藤を抱えながらも、彼らの目には次第に希望の光が宿っていった。
シンたちは麻薬中毒問題への対策として、直接的な武力行使や破壊ではなく、医療機関を立ち上げるという形で社会的なインフラの再構築に乗り出した。それは一見平和的なアプローチに思えたが、裏側では大胆な手法が取られていた。
麻薬中毒による被害は、単なる個人の問題に留まらず、社会全体の崩壊を引き起こす危機的な状況だった。中毒者は増え続け、医療機関は手が回らず、治療が届かない多くの人々が路上で命を落としていた。この現実に直面したシンたちは、麻薬依存者を救うための「再生プログラム」を計画する。
まず、彼らは大規模な病院を建設することを決定。地元の医療従事者を雇用し、最新の治療施設を備えた病院ネットワークを各国に構築する計画を練り上げた。これらの病院には、麻薬依存症の治療と社会復帰を専門とする部門が設けられた。
ナノマシンを活用したワクチン
シンたちの技術力の結晶ともいえるのが、ナノマシンを活用した革新的なワクチンだ。このワクチンは、人体に侵入するとナノマシンが中毒者の神経系や内臓器官に作用し、麻薬への依存を根本から解消することを目的としている。
しかし、ワクチンには一つの特徴があった。それは、即効性がないという点だ。シンはこう語った。「麻薬に溺れたのは自分たちの選択だった。その代償をすぐに取り払うなんて、甘すぎるだろう?」このため、ワクチンを投与された者は、約1か月間にわたり地獄のような禁断症状と戦うことを余儀なくされる。その期間を乗り越えた者には、再び正常な身体機能を取り戻せる仕組みだ。
新しい医療技術を広めるには、各国の規制をクリアしなければならない。特にナノマシン技術は既存の科学常識を超えており、従来の枠組みでは承認される可能性が極めて低かった。
そこでシンたちはハッキングによるデータ改ざんという強引な手法を用いた。各国の医療機関や規制当局のサーバーに侵入し、シンたちの技術が「既存の枠組みの延長線上にある」ようにデータを書き換えたのだ。試験データや治験記録も全て完璧に偽装され、疑念を持たれないよう細心の注意が払われた。
政治家への根回し
また、医療機関の設立には地元政府の承認も必要だった。ここでシンたちは「協力」という名の圧力を行使する。対象となったのは、地元の有力な政治家たち。彼らの弱みを徹底的に洗い出し、脅迫まがいの手法で計画への承認を取り付けた。
「麻薬問題に悩むあなたの選挙区を救うのに、反対する理由はないでしょう?」と、シンたちの代理人は表向きでは冷静かつ友好的に説明する。しかし、その背後では彼らの隠された資産や不正行為の証拠が握られており、反対する選択肢は実質的に残されていなかった。
実際の動きと反応
新設された病院は、たちまち注目を集めることになった。先進的な治療技術を持つこれらの施設は、中毒者を家族の元に戻すだけでなく、彼らの社会復帰をも支援するプログラムを提供。地域社会からの支持も高まった。
しかし、治療を受ける患者の多くが1か月間に及ぶ激しい苦痛を経験するため、「本当に救済なのか?」という批判の声も一部で上がった。それでも、長期的な改善が確認されるにつれ、その声は次第に鎮まっていった。
この取り組みによって、多くの麻薬依存者が新たな人生を歩む機会を得た。しかし、シンたちは決して理想主義に陥らない。「麻薬に手を出した時点で自業自得だ」という冷徹な視点を持ちつつも、救える者は救うという現実的なスタンスを貫いている。
彼らの行動は、単なる慈善活動ではない。これには、自分たちの世界で果たせなかった贖罪の意図も含まれているのかもしれない。そして、どのような方法であれ、彼らが選んだ道は確実に麻薬問題という闇を少しずつ照らしていた。
社会復帰と就労支援の取り組み
シンたちが設立した医療機関の支援を受け、麻薬依存から脱却した多くの人々は、新たな人生を歩むための手助けを必要としていた。そのため、社会復帰の目途がついた者たちには、就労支援プログラムを通じて、ガン○ーノ一家の関連会社に斡旋する仕組みが用意された。
「ガン○ーノ一家」と聞くと裏社会を連想するが、シンたちの強い指示により、関連会社は全て法律と倫理に則った「ホワイト企業」に生まれ変わった。ドン・アルベルト・ガンビーノをはじめ、幹部たちには次のような厳しい命令が下された。
適切な労働環境の提供:労働時間の管理、十分な賃金、福利厚生の充実。
人権の尊重:従業員を個々の人格として尊重し、不当な扱いを禁じる。
公正なキャリア形成:勤勉な従業員には正当に評価し昇進の機会を与える。
「ブラック企業にしやがったら、お前ら全員地獄行きだ!」と厳しく言い渡したシンに、ガン○ーノ一家の幹部たちは一様に震え上がり、「全力で従います!」と頭を下げた。
こうして、関連会社は建設業、物流業、警備業、さらにはITや金融業界にまで及び、社会復帰者たちが新たなキャリアを築ける場となった。多くの人々が安定した生活を取り戻し、彼らの努力によって企業も成長していった。
問題の根源:麻薬栽培に依存する人々
一方で、麻薬問題の根本的な解決にはさらに複雑な課題があった。麻薬依存者を救う取り組みが進む一方で、麻薬栽培に依存している貧困層の人々への対応が課題として浮上した。
シンたちが調査を進める中で分かったのは、多くの麻薬栽培農家が、麻薬を「自分たちが食べていくための唯一の選択肢」として受け入れている現実だった。彼らの生活は非常に貧しく、教育や医療にもアクセスできない状況だった。一方で、麻薬栽培を支配する組織の上層部は贅沢な暮らしを謳歌しており、農家との格差は目を覆いたくなるほどだった。
具体的な取り組み:代替作物と新たな経済モデルの導入
シンたちは、麻薬栽培に依存する農家たちを救うため、以下の取り組みを開始した。
代替作物の導入
麻薬栽培をやめても生活が成り立つよう、利益性の高い代替作物を提案。コーヒー、カカオ、香辛料などの栽培を促進するため、栽培技術の指導や市場との連携を支援する。これにより、麻薬栽培に依存しなくても生活が安定する基盤を作る。
インフラ整備
貧困地域の経済を活性化させるため、道路や水道、通信設備などのインフラを整備。これにより、農家が都市部の市場にアクセスできるようにし、販売経路を確保する。
教育と医療の提供
地域の教育と医療体制を整えることで、次世代が麻薬に依存しない生活を送れるようサポート。特に、若年層に代替産業の知識や技術を学ばせ、地域全体の経済力を底上げする。
各国の協力 資金の提供
何をするにしても金が無ければ何もできない。シンたちの代理人が各国とのパイプ役となり、予算案を計上し適切な金額だと判断した場合20%増しで提供することにした。
貧困層への配慮と上層部への断罪
これらの支援策を進める一方で、麻薬栽培を支配する組織の上層部には容赦しなかった。農家から搾取し、贅沢な暮らしを享受する者たちは徹底的に排除された。シンたちはその手法について公に語ることはなかったが、彼らが姿を消した後、地域社会は明らかに安定し始めた。
「俺たちがやってるのは『正義』じゃねぇ。ただ、あいつらの搾取を見て見ぬふりをするわけにはいかねぇんだ」とシンは呟いた。
麻薬栽培からの脱却は一筋縄ではいかない課題だったが、シンたちは農家を救済しながら、長期的な視点で解決策を模索していた。地域の人々の生活が少しずつ改善されていく中で、麻薬問題の闇は徐々に晴れていった。シンたちの行動は、単なるヒロイズムではなく、社会の構造そのものを変革する取り組みとなっていった。
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