第18話 少しでもマシな未来に!
シンの指示とガン○ーノ一家の大転換
ある日、静かな夜のドン・アルベルト・ガンビーノの私邸に「転送装置」の一室、その中から険しい表情のシンが姿を現した。シンの表情を見たアルベルトは「一体何事か?」と胸騒ぎを覚えたが、すぐに部下たちに指示を出した。「主立った者たちをすぐに集めろ」と。
この時、シンは今日この後、どの日本酒を飲もうか頭を悩ませていただけだった。
応接間に集う緊張感
副首領、相談役、幹部たちは息を切らせながら応接間に集まった。全員が緊張した面持ちで直立不動の姿勢を取る中、シンは腕を組んで沈黙を保っていた。やがて、重い沈黙を破るように「ふう…」とため息をついたシンが、低い声で言い放った。
「これから先、人身売買、臓器売買、麻薬密売の類は一切禁止だ。」
その言葉に応接間の空気が凍りついた。ガン○ーノ一家の主要な収入源の多くが、この「禁止令」で断たれることになるからだ。副首領や幹部たちは目を見合わせながら困惑し、何とか言葉を探そうとしたが、最終的にアルベルトが代表して口を開いた。
「…そ、それでは我々は…」
その言葉が言い切られる前に、シンが鋭く遮った。「あ゛あ゛、俺が決めたんだ。文句あっか!」と。シンの圧倒的な威圧感の前に、全員が一斉に「ありません!」と叫び、深々と頭を下げた。
禁止令の背景と新たな計画
シンは続けて説明を始めた。「きちんと生活が成り立つように考えてあっから、心配するんじゃねぇ。」その言葉に、幹部たちの表情にようやく一抹の安堵が見え始めた。
シンが提案したのは、合法的かつ持続可能な収入源の構築だった。その内容は、ハッキングによる資金調達から始まり、偽札以上の完成度を持つ「完璧な紙幣」の製造、さらに大量生産が可能なダイヤモンドや金、銀、白金、サファイア、真珠などの貴金属を利用したビジネス展開。これらのリソースは、シンたちにとって「ガラクタ同然」だったが、地球人にとっては莫大な価値を持つものだった。
さらに、合法的な収益構造を築くため、以下のような多岐にわたる事業計画が示された
物流会社の設立
国際的な物流ネットワークを築き、正確かつ迅速な配送サービスを提供することで、安定した収益を確保する。
警備会社の設立
高度なセキュリティ技術を活用した警備サービスを展開。これにより、需要の高い防犯市場での地位を確立する。
半導体関連会社
高性能な半導体の製造・販売を行い、最先端技術市場での競争力を持つ。
建設会社の設立
都市開発やインフラ整備プロジェクトを手掛け、地域社会への貢献を果たすとともに大規模な利益を上げる。
金融株取引き会社の運営
金融市場での投資を通じて安定した利益を追求。
保険会社の設立
医療保険、生命保険、財産保険など、多岐にわたる保険商品を展開し、リスク管理の需要を取り込む。
荒事専門の会社設立
新規参入を嫌がる者はどこの世界でも一緒
「そこらへんはお前らも、よぉく分かってんだろ」ニヤリと笑うシン
これらの事業は、いずれも莫大な初期投資を必要とするが、シンは「金ならいくらでもある」と断言した。実際に、彼らの技術力を駆使すれば、地球上の資源や技術を大幅に上回る成果を生み出すことが可能だった。
幹部たちは最初こそ困惑していたものの、シンの明確な指針と具体的な計画を聞くうちに、不安が期待へと変わっていった。
この日を境にガン○ーノ一家は劇的な変革を遂げ、犯罪組織から合法的な多国籍企業グループへと生まれ変わる道を歩み始めたのである。
フィラデルフィアの「ゾンビタウン」とシンたちの葛藤
ペンシルベニア州フィラデルフィアは、アメリカ東海岸有数の世界都市であり、歴史と文化が豊かな場所として知られる。しかし、繁栄の影には深刻な社会問題が隠れている。その一つが、いわゆる「ゾンビタウン」と呼ばれるエリアで見られる麻薬中毒の問題だ。疲弊した街角や荒廃した住宅街には、麻薬中毒者たちが朦朧とした様子で彷徨う姿が絶えない。
この日、シンと仲間たちは市内を歩きながら、この現実に向き合っていた。街を覆う悲哀に満ちた空気に、誰もが沈黙を保っていた。
薄暗い路地で、一人の中年男性が倒れこみ、苦しげな息を漏らしているのを目にした瞬間、シンは足を止めた。その男性は、痩せこけた体つきとぼろぼろの服、針の刺し跡が無数に残る腕が特徴的だった。遠くからは、似たような中毒者たちが地面に座り込んでいるのが見える。目を閉じている彼らの姿は、生きているというよりも、ただ存在しているだけのように見えた。
「少しでもジャンキーがいなくなりゃいいんだがな…」と、シンはつぶやいた。彼の声には、怒りと悲しみが入り混じっていた。
エマは皮肉を込めた笑みを浮かべ、「哀れよね。いくら自分の意志で打ったとしても…」と静かに言った。その言葉にヤシャスィーンが応える。「アレでは~生きてるといえないわ~」
エマが軽く笑いながら、「フフ…艦長がこんなにも善良な人だったなんて思いもしなかったわ」と揶揄うように言うと、シンはばつが悪そうに目をそらし、「わかってるよ…!ただの自己満足だってぇのは」と反論するが、その声には説得力がなかった。
シンは思いを吐露し始めた。「あっちじゃぁ、俺たちのことを『義海賊』だのなんだの言ってたが、やってることは結局、人殺しさ。そういうやり方でしか生きられなかったんだよ…!」
その言葉に、ジラーが静かに答える。「それはアタシらも同罪でしょ」
「そうそう、一蓮托生っていうのよ」と、エルザも軽い調子で同意する。
ダミルィ―は少し微笑みながら、「一人で抱え込むのは良くないですわ」と優しく言った。
その瞬間、シンはふと足元を見つめた。路地には割れた注射器と血の跡が散乱している。それらを見つめながら、シンは一人ごとのように呟いた。「こんな地獄があっちにもあったら、俺たちがやったことも結局、こういう連中を増やしてただけなんじゃねえか…」
「でも…」とシンは息をついて続けた。「俺たちには、もうやり直す時間も場所もある。少しでもこいつらが…いや、この街のガキどもがこんな風にならないようにできるなら、それでいいんだよ。」
エマが軽く肩をすくめながら、「そこが艦長らしいところよね」と言った。
「ただの自己満足かもしれないけど…それでもやらないよりはマシでしょ!」と、シグも同意した。
リーイエはくすくす笑いながら、「ま、あなたらしくていいんじゃない?」と付け加えた。
その会話の後、シンたちは「ゾンビタウン」を後にしたが、彼らの胸には深い憂慮が残っていた。
「ゾンビタウン」と呼ばれるエリアの現状は、麻薬中毒の深刻さを象徴している。シンたちはその現実を目の当たりにし、同時に自分たちの過去の行いに向き合わざるを得なかった。シンたちが願ったのは、これ以上この地で麻薬中毒者が増えないこと、そして少しでも未来が明るくなることだった。
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