第11話 東京オリンピック
リラクゼーションルームに設置された大型スクリーンで、【エリシオン】のメンバーたちは東京オリンピックの様子を眺めていた。華やかな開会式、競技に挑むアスリートたちの熱い姿は見る者の心を掴んだ。
しかし、開催に至るまでの背景に目を向けると、不穏な話題が絶えなかった。シンが不満げに呟く。
「しっかし、ひっでえな!この国立競技場を作るのに、どんだけ中抜きされてんだ。」
ジャネットが同調しながら言葉を続ける。「国民の税金を湯水のように使って、結果がこれじゃね。」
エマが資料を読み上げる。「建設費だけでも膨大な額よ。その中で一定数の人たちが横領してた記録があるわ。」
リーイエが「政府関係者、天下り先への利権配分…酷いものだわ」
ジラーが首を傾げて問いかける。「でもさ、何で日本国民は怒らないんだ?こんなこと、黙って見過ごすわけ?」
ダミルィ―が皮肉を込めて答える。「私たちのいた世界じゃ、こんなことが起きたらクーデターは確実ですわ。」
アイシャが冷静に付け加える。「首謀者だけじゃなく、その家族まで公開処刑されることも珍しくないわ。」
「情報管理が甘すぎるんだよね!もっと上手くやらないと」シグが言う。
「そうね~危機感が足りないわ~わたしたちのいた世界じゃ~命がけだもの~」
「リンチ(私刑)暗殺なんて日常茶飯事だし」何事もないように言うエルザ。
ジラーが肩をすくめて「まあ、それくらい過激でないと抑止力にならないのかもな」と笑う。
シンたちは競技の進行を見ながらも、こうした話題に話を膨らませていた。特に、莫大な費用とその不透明な使い道については、彼らの興味を引いてやまなかった。
「でも、なんだかんだ言って、アスリートたちの姿は感動的だな。」とシンがぽつりと言うと、全員がその言葉に静かに頷いた。
「もし次に地球でこういうイベントがあったら、少しはまともにやるように介入してみるか?」
冗談めかしたシンの提案に、全員が笑いながら再び画面に視線を戻すのだった。
【エリシオン】のリラクゼーションルームで、オリンピックの映像を楽しんでいた一行の会話は、ふと日本の政治に話題が移った。
エマが思い出したように口を開く。「そういえば、この安倍首相って暗殺されるんじゃなかった?」
リーイエが即座に反応する。「2022年7月8日11時31分頃ね。」と、あっさりと日時まで特定する。
シンが腕を組みながら苦笑いを浮かべる。「あと二年弱の命ってわけか。」
エルザが無邪気に口を挟む。「別にいいんじゃね?コイツ好き勝手にやってるし。」
その言葉に、ミリアが少し不満そうに言う。「え~、でもシンだって好き勝手にやってるじゃん。」
間髪入れず、シンが開き直るように返す。「俺はいいんだよ!」
その堂々とした返答に、一瞬の静寂の後、艦内は笑い声に包まれた。
「なんだそれ!」
「ほんっと勝手なんだから!」
和やかな雰囲気の中、彼らの会話は再び軽口やジョークに満ちたものとなり、地球の歴史の裏側を知りつつも、その一つひとつに大きく干渉しない絶妙なスタンスを維持していた。
それでも、この自由奔放な一団が、時折歴史を変えようと思えばいとも簡単にできることを誰よりも理解しているのは、他ならぬ彼ら自身だった。
【エリシオン】の艦内で、オリンピック後の日本の状況が次々と話題に上がる。リラクゼーションルームでは、大画面のニュース映像が流れる中、一行は興味深げにその内容を見つめていた。
「ほらな、案の定だよ。不祥事だらけじゃねえか。」と、シンが呆れたように言い放つ。
ニュースには、賄賂、横領、談合、不透明な金の流れといった問題が次々と報じられている
「日本のこういうところ、本当にどうにかならないのかしら?」と、エマがため息交じりに言うと、シグが疑問を口にする。
「これってさ、オリンピックを開催するたびにこんな感じなの?」
「大なり小なり、どこの国でも似たようなもんだよ。」と、ジラーが冷静に答えた。
エルザが画面を指差しながら言う。「でも、首相変わったのね。阿部晋三から管義偉って人に。」
「管義偉って人、どうなの?」シグが首を傾げる。
シンが肩をすくめる。「さあな。阿部ほど目立ってはねえけど」
「こういうのを見てると、地球の政治って本当に不思議よね。」リーイエがぼそりとつぶやく。
ジャネットもまた「一つの惑星に幾つもの政治体制があることがねぇ」
彼らにとって、地球の混沌とした政治もまた、一つのエンターテインメントのようなものだった。
【エリシオン】のリラクゼーションルーム。シンが満足げな顔で、「悪い子にはお仕置きが必要だよな!」と言いながら、新たに作成した“ワクチン”の名を発表した。(1か月間、地獄のような激痛に苦しむ激薬)
「名付けて、『成敗!』だ!」
クルーたちは一瞬沈黙した後、思わず顔を見合わせる。
「……ちょっと待って、それ本気で言ってるの?」と、エマが半笑いで確認する。
「もちろんだ!」シンは得意げに胸を張った。
「いやいや、そのネーミングセンス……ダサすぎでしょ。」ジラーが呆れたように言うと、アイシャがうなずきながら続けた。「もしかして、最近ハマってる時代劇の影響かしら?」
「うるさいな。『暴れん○将軍』、めっちゃ面白いんだぞ! あれを見てたら、こういう名前が浮かぶのは当然だろ!」シンは開き直るが、クルーたちの反応は冷ややかだった。
「成敗……って、本気でその名前にするの?他になんか良い名前思いつかないの?」と、ジャネットが首をかしげる。
「いや、これがベストだ!」とシンが断言するも、リラクゼーションルームには失笑の波が広がる。
「まあ、いいんじゃない?シンの趣味に付き合うのもたまには悪くないわ。」と、エルザが肩をすくめる。
「そうね、どうせ悪い子たちには容赦しないし、名前なんてなんだっていいわよね。」ジャネットが笑顔で付け加えた。
こうして、痛みのワクチン「成敗!」は正式名称として採用されることになった。
しかし、クルーたちの間では「ダサネームワクチン」と密かに呼ばれていることをシンは知らない。
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