第10話 閑話

ドン・アルベルト・ガンビーノの豪邸にて


ニューヨーク郊外に佇む一際目立つ豪邸。そこはドン・アルベルト・ガンビーノの住まいであり、常時30人ほどの構成員が詰めている。その中でも特に厳重な警備が敷かれた一室。扉の前には屈強な男たちが緊張感を保ちつつ、微動だにせず立っている。




その一室に設置された転送装置が、静かに稼働する音を立てると、シン、ミリア、ジラー、エルザが現れる。




扉の前の男たちは、瞬時に深く頭を下げて出迎えた。シンたちの前で男たちの肩がわずかに震えているのが見て取れる。




「おい、3時間後に『ダニエル』へ向かう」


シンの言葉に、男たちは即座に反応する。




「ハッ!」




その返事とともに、2人の男が足早にその場を後にした。




応接間に通されたシンたちは、重厚な家具に囲まれた豪華な空間でくつろぎながら紅茶を楽しむ。ミリアはテーブルに並べられたお菓子に夢中で、一つずつ丁寧に味わっている。




一方で、ドン・アルベルト・ガンビーノはその場に直立不動で立ち、給仕役を任されていた。彼の表情には恐怖の色が濃く浮かび、紅茶を出す際に手が震え、ティーカップがカタカタと音を立てる。




その音に気づいたシンが、目を細めながら彼を一瞥する。エルザが茶を啜りながら小さく笑みを浮かべ、「そんなに震えてたら、紅茶がこぼれるわよ」と軽く指摘するも、ガンビーノの手の震えは止まらない。




紅茶がこぼれないかとハラハラしながら見守るシンたちの様子に、妙な空気が漂う。




応接間のドアが再び開かれ、現れたのはドレスアップしたミリア、ジラー、エルザ。そして、シンプルながらも上質なスーツを身にまとったシンだった。




その姿は、まるでどこかの国の王侯貴族がそのまま現代に舞い降りたかのようだった。




ミリア


彼女が纏うのは淡いピンクのドレス。繊細なレースと宝石が散りばめられたデザインで、シンプルながらも華麗な印象を与える。その瞳には好奇心が満ち、ほんのり笑みを浮かべた表情が愛らしさを引き立てている。




ジラー


深紅のドレスに身を包んだジラーは、見る者を圧倒するほどの存在感を放っていた。肩を大胆に出したデザインと、スリットの入ったスカートからは、彼女の強さと優雅さが溢れている。




エルザ


漆黒のドレスを選んだエルザは、上品かつ冷ややかな美しさを纏っていた。シルエットを強調するタイトなデザインと背中を大胆に見せるカットが、彼女の自信に満ちた姿勢を引き立てている。




シン


シンは全員の装いを引き締めるかのように、クラシックな黒のスリーピーススーツを完璧に着こなしている。シンプルなタイとポケットチーフが、彼の落ち着きと品位を象徴していた。




彼らが揃って立つと、その場の空気が一変した。絢爛な装いに身を包んだ彼らは、ただそこにいるだけで周囲に圧倒的な威厳とオーラを放ち、まさに「歩く王侯貴族」そのものだった。




「ふふ、これで次の会食は完璧ね」と、エルザが満足げに微笑む。


ジラーは自分のドレスの裾を軽く持ち上げ、「久々にこんな格好したけど、悪くないわね」と冗談交じりに言う。


一方でミリアは、袖をふわりと広げ、「動きやすいし、何よりかわいい!」と、満面の笑みでくるりと回って見せた。




シンは一歩前に出て、ちらりと全員を見渡しながら一言。


「派手すぎないか?」


その問いに3人の女性陣が同時に、「いいえ、完璧よ!」と即答するのだった。




シルバーのロールスロイス・ツーリングリムジンがニューヨークシティーを優雅に走り出す。後部座席にはシン、ミリア、ジラー、エルザが静かに座り、窓の外を流れる街並みを眺めていた。その前後にはロールスロイス・ファントムが警護のように付き添い、一行の威厳をさらに際立たせている。




車列が目的地「ダニエル」に近づくと、その存在感に街ゆく人々が足を止め、ただ見送るしかなかった。




車が滑らかに店の前で止まると、すでに待機していたオーナー自らがエントランスで一行を出迎えた。オーナーは深々と頭を下げ、まるで高貴な訪問者を迎えるかのような礼儀正しさを見せる。




「ようこそ、『ダニエル』へ。お待ちしておりました。」




オーナーの声は緊張を感じさせつつも、プロとしての温かみを帯びている。スタッフたちも一列に並び、出迎えの光景はまさにセレモニーのようだった。




シンたちはオーナーに案内され、店内の奥にある特別なVIP室へと進む。照明は控えめながらも洗練され、シンプルでありながら豪華な装飾が室内を彩っていた。




「このお部屋は特別なゲストのためにご用意しております。どうぞ、ごゆっくりお寛ぎください。」




オーナーが一礼すると、スタッフが席を整え、メニューを手渡す。テーブルにはすでにウェルカムドリンクとアミューズが並べられ、一行を喜ばせるための準備が完璧に整えられている。 




華やかな装いの4人が席につくと、店内のスタッフたちは息を呑んだ。どの角度から見ても洗練されたその姿は、「特別」と言わずして何と形容すべきかを忘れさせるほどだった。




エルザがウェルカムドリンクを軽く口に運び、「これは期待が高まるわね」と満足そうに言う。ジラーはメニューを見ながら、「今日は何から始めようかしら」と笑みを浮かべる。


ミリアは相変わらず甘い香りのアミューズに夢中で、シンは静かにメニューを眺めながら、「贅沢すぎるが、悪くないな」と一言。




華やかな夜が、今まさに幕を開けた。




「ダニエル」のVIP室に運ばれる料理はどれも美味であり、見た目も華やか。フレンチの技術を駆使した色鮮やかな料理が、テーブルを彩る。




フォアグラのテリーヌに始まり、ロブスターのビスク、鴨のコンフィなど、贅を尽くしたメインディッシュが続く。デザートに登場する美しい菓子の数々は、カリフォルニアワインとの相性も抜群だった。




シンがワインを手に取り、「このカベルネ・ソーヴィニヨン、思っていた以上にいいな」と頷く。ジラーとエルザも同意しつつ、それぞれ料理に合わせたグラスを持ち上げる。




そして食事の最後に出てくるのは、エルザのお気に入り、マドレーヌ。




「やっぱり最後はこれよね!」とエルザが声を上げると、他のメンバーも笑顔を見せる。ふんわりとした食感とほのかな甘さが、食事を締めくくるのに最適だった。エルザは特にこのマドレーヌを気に入っており、「ダニエル」を訪れるたびに欠かさず注文するのが恒例となっていた。




こうして月に二、三度、【エリシオン】のメンバーが「ダニエル」を訪れるようになった。彼らの来訪は店にとって光栄なことではあったが、別の場所では恐怖を生み出していた。




ドン・アルベルト・ガンビーノを筆頭とする一家のメンバーたちは、そのたびに緊張の連続だった。




「…また、来るのか……。」


構成員たちは冷や汗をかきながらその情報を共有する。「ダニエル」の来客情報を聞くだけで生きた心地がしなくなるほどだった。一家の者たちは「エリシオン」の目的が何であるかを推測する余裕すらなく、ただその存在に怯える日々を送るようになる。


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