第8話 大阪城血戦―開幕―


 とりあえず傷を治療しなければ怪しまれる。


回復促進プロモートヒール血流操作ブラッドコントロール


 2つの魔法を使って血流を止め、細胞分裂を速くする。


 俺が転移したのは大阪の裏路地。


 人気がないため魔法を使っても問題ない。



 傷も治ってきた。


「服に血がついてる…」


 魔導書に収納していた着替えを取り出す。


 着替えが終わると、裏路地から出た。


 大阪には祖父母の家がある。そこに泊めてもらおう。




 祖父母の家に泊めてもらい、適当に大阪の商店街を歩いていた。


 !?


 悪寒が走る。魔圧プレッシャーが浴びせられる。


「ちょっとええか?」


 魔圧プレッシャーに気を取られていると、後ろから声をかけられた。


「大阪城までの道のり教えてくれへん?」


 30代くらいだと思われる男性が聞いてくる。


「すみません。分からないです」

「大阪の人やないんか?」

「ええ」


 男性は残念そうにしている。


「俺、大阪の南の方に住んでて、あんまここら辺詳しくないねん。スマホの電源も切れてもうたし…」

「あ、スマホ。ちょっと待っててください。調べるので」






「ありがとう。助かった」


 大阪城への道のりを教えてくれた少年に礼を言って、大阪城へと歩き出す。


「ちょっと、天宮局長!」

「早希ちゃん、どうしたん?」

「どうしたん?じゃないです!いきなり待っといてって言って走り出したかと思えば、大阪城の道のりなんて聞いてどうするんですか?大阪城までの道くらい分かってるでしょ」

「まぁ大阪の地図はだいたい頭に入ってる」

「え?大阪の地図、丸暗記してるんですか?怖っ」

「そんなことより、さっきの子、魔隠ハイド上手かったな」

「え?」

「やっぱ気付いてなかったか。てか俺も最初見落としたし」

「さっきの男の子、魔術師ってことですか?」

「あの年齢で凄いよな。俺の目を掻い潜るレベルの魔力の抑制。最初、一般人にしか見えんかった。あの子がさっきの魔圧プレッシャーに反応してなかったら、そのまま気付かんかったやろうな」


 魔隠ハイドというのは魔力を抑制し、一般人に見せかけたり、隠れたり、気配を消す基本魔術だ。


「でも、早く行かないと。今回の任務がどれだけ重要か分かってます?」

「こっちも十分重要やで?」

「でも新人のスカウトより…」

「あれ、多分烏山玄斗やで」

「!?」

「あくまで予想やけど、本部から送られてきた写真と顔似てたし、若干黒魔力が漏れてた…気がする」

「気がするって…」

「俺ですら気がするってレベル。それだけ微量な黒魔力しか漏れてなかった。まぁ漏れてないかもしれんけど」


 移動しながら早希ちゃんにさっきの少年について話す。


「一応発信器つけといたで。物理的なやつ。魔力でマーキングしたらバレそうやったし」

「分かりました。彼の追跡は任務が終わった後にしましょう」

「え?任務終わったら局長会議やで?」

「それでは彼の追跡は手が空いてる魔術師でやります」

「分かった」


 玄斗は厄介な相手に目をつけられていた。


 魔術師協会大阪支局局長 天宮進一郎に。






 さっきの魔圧プレッシャーは今も続いている。


 魔術師か、それとも魔物か。


 ここから南東の方向から来ている。


 そこまで強い魔圧プレッシャーではないが、魔力をほぼゼロの状態にして一般人に近い状態だが、魔術師であるため、モロに影響を受ける。


「行ってみるか」


 魔圧プレッシャーが飛んでくる方向へ歩き出す。


 発生源に近づけば近づくほど強くなっていく。


「これ、魔力なしじゃ普通に死ねるな」


 結局魔力を必要なだけ解放して、辿り着いた先は大阪城だった。


『大阪城公園は本日、臨時休業とさせていただきます』


 アナウンスが鳴っている。


 中に入りたいが、どうやっても目立つよな…


「ちょっと目立つけど仕方ないな」


 俺は大阪城の周りにある道路から、フェンスに乗ってそこから跳ぶ。


 魔強ライズを発動して、堀を飛び越えて城に侵入する。


 大阪城公園には強力か魔力が漂っていた。


「発生源は…天守閣か?」


 天守閣に向かって歩いていると、不意に違和感を感じた。


「この感覚、前にも…」


 記憶を辿る。


 確か竜族ドラゴンと戦ったときに…


戦闘空間生成機バトルエリアメーカーか?」


 あれは協会の局員が持っている魔道具だ。


 となるとここに協会の人間が来ているということになる。


 既に協会に自分のことは知られているだろう。


 誘い出された?いや、だとしてもわざわざ大阪城を臨時休業にしてまで誘い出す意味が分からない。

 となるとここに発生した魔圧プレッシャーの発生源の対処に協会が来ているということか。


 空間魔法が込められた魔道具によって転移などによる逃亡ができなくなっている。


「まずいな。協会に見つかったら…」

「また会ったな、烏山玄斗くん」

「っ!?」


 そこには先ほど大阪城を聞いてきた男性が浮いていた。


「あんた…魔術師だったのか」

「え?バレてなかったん?君の魔隠ハイド見破れなくてちょっと落ち込んでたんやけど…」


 苦笑しながら言う。


「局長、どうするんです?この子」


 知らない女性が男性に話しかける。


「連行する。早希ちゃん、サポート頼むわ」


 2対1か。不利だな。


「ねぇ、僕らの城で何やってんの?」

「お前、ここ占拠してる吸血鬼族ヴァンパイアか。あのな、ここはお前らの城ちゃうねん。大人しく死んどけ」


 右手を中性的な見た目の吸血鬼族ヴァンパイアに向けると、吸血鬼の右胸辺りに穴が空いた。


「あれ?コア狙ったんやけど。やっぱ無詠唱は威力も精度も落ちるなー」


 男性の後ろに血の刃が迫る。


魔盾シールド


 魔力の盾で簡単に防ぐ。


「目の前におるやつ、血の刃を撃ってきたやつ、あと天守閣に1体、計3体やな」


 この辺りを漂う高濃度の魔力と魔圧プレッシャーは天守閣にいる者が放っているのだろう。


「俺、天宮進一郎あまみやしんいちろう。以後よろしく」

「え?」

「早速やけど共同戦線張るで。早希ちゃんは血の刃飛ばしてきたやつ、玄斗くんはそこにおるやつ倒して。俺天守閣行くわ」

「ちょっ、局長!?」


 そういうと男性―――天宮さんは天守閣に向かって空中を走っていった。


 あれ多分、天属性だな。


 風魔術では自分を一定の地点で空中で固定することは難しい。


 空気の流れを止めて足場を作ったのだろう。


「はぁ。玄斗くん、局長の言ったとおり二手に別れましょ」


 なんか、この人苦労してるんだろうな。天宮さん自由奔放って感じだったからな。


「分かりました」

血弾けつだん


 射たれて倒れていた吸血鬼族ヴァンパイアが起き上がり、高速の血の弾を射ってくる。


 躱して、魔導書から妖刀を取り出して斬りつけるが、躱される。


「強いねー君。さっきの人も強かったけど。僕の名前はシラユリ。君の名前は?」

「烏山玄斗」

「ふーん。玄斗くんって言うんだー」


 月光で斬りかかる。


 シラユリはそれを躱す。


 今は昼間なので月光は機能せず、ただの魔力で強化されただけの刀になっている。


 月の光を受けて魔力を生成する主機能は勿論、副機能の三日月,朧月,望月も月下でなければ使用できない。


 使用者の魔力を必要としない代わりに、使用に制限がある。


 その制限が月光の弱みとなっている。


「ちょっと、まだ話の途中なんだけど?」


 再度斬りかかるが、躱された。


「話し合う気はないみたいだね。朱血絨毯レッドカーペット!」

韋駄天フラッシュの軌跡ムーブメント!」


 シラユリの足元に血液が広がり、俺は自分の足元まで血が達する直前で跳び上がる。


 俺はそのまま魔法で無理矢理体を動かし、空中で回し蹴りを繰り出す。

 予想外だったのか、シラユリが対応できず、蹴りを食らって吹き飛ばされる。


「チッ。機動系の魔法か」


 砂埃の中から出てきたシラユリが煩わしそうに呟く。


空中歩足フローターフット!」


 空中歩行の魔法を発動する。


 空中歩行と機動補正の魔法を使用した状態の俺は加速しながらシラユリに近づいていく。


血道駆動ブラッドレール!」


 シラユリの足元から複数の血の曲がったりしながらシラユリの周りに線が伸びていく。


 それに乗ると足から帯が出て足に絡み付き、高速で線の上を移動し始めた。


(機動系の魔法か)


 そう思ったとき…


 ズドン!と雷鳴が聞こえ、大阪城に雷が降り注いでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る