第9話 大阪城血戦―雷神―


 俺は空気の足場を作って空中を駆け上がる。


 そのまま最上階の展望台から大阪城に侵入する。


 そこには、1体の吸血鬼族ヴァンパイアが真っ赤な椅子に座っていた。


「お前、名前は?」

「ザクロ」

「ふーん」


 魔導書から妖刀を取り出す。


「妖刀 雷帝らいてい


 妖刀 雷帝らいてい主機能しゅきのうは魔力で電気を発生させ、妖刀とその周りを帯電させるというものである。


悪血ヴァイラスブラッド斬刃スラッシュ


 赤黒い血が生成され、刃となり、飛んでくる。


 それを雷帝らいていで受け流す。


鮮血フレッシュブラッド体内循環サーキュレーション

雷電装束らいでんしょうぞく


 お互いに魔法を発動する。


 相手に変化は見られない。

 対してこちらは電気の装束を身に纏った。


血流激流ルージュトレント!」

雷帝らいてい 界雷かいらい!」


 血が河川のように空中をうねりながら流れてくるのを一直線上を境界にするようにやや前方向に、下から上へ上るように大量に出てくる雷で迎撃する。


 壁のように血を阻む雷の隙間を通り抜け、相手が肉薄してくる。






血拳ブラッドナックル!」


 途轍もない速さで血を纏った拳を振るうが、そこに相手の姿はなかった。


 高速移動で背後をとられ、後ろから斬りつけられる。


硬血盾スカーレットシールド


 迫る刃をギリギリ血の盾で防ぎ、回し蹴り。勿論躱される。


堅血鎧バーミリオンアーマー


 高速で動き回る相手。どこから攻撃が来てもいいように血の鎧を身に纏う。


(速い。厄介だな。おそらく雷電装束らいでんしょうぞくという身に纏った雷の魔法の効果だろう。こちらも身体能力を強化する体内循環サーキュレーション鮮血フレッシュブラッドで発動しているが、あの速度を上回ることはできなさそうだな)


紫電しでん!」


 目の前に飛び出してきた相手が妖刀に紫色の電気を走らせて斬りかかってくる。


特素魔法とくそまほうかっ!」


 特素魔法とは、特殊素体とくしゅそたい生成魔法せいせいまほうの略だ。魔法を発動する時に生成し、操る物質に特殊な効果を付与するため、通常の魔法とは別で発動する物質生成の魔法のことである。

 俺の場合は悪血ヴァイラスブラッド鮮血フレッシュブラッドがそれにあたる。


紫電しでん雷網らいもう!」


 紫の雷の網が発射された。


 飛んできた網を躱すと、タイミングよく刀が振るわれた。あらかじめ行動を予測していたのだろう。


「チッ、誘導されたか。硬血盾スカーレットシールド!」

紫電しでん!」


 咄嗟に出した血の盾はいともかんたんに割られ、傷を負った。


 すぐに傷を再生する。


悪血ヴァイラスブラッド血弾機関銃盤カーマインマシンガン!」


 左手の近くに血の円盤を生成する。その円盤から玉が分離し、銃弾のように飛んでいく。


 ズドドドドドドドド…と大量の血弾けつだんが相手に降り注ぐ。


雷帝らいてい 界雷かいらい!」

「その技はさっきも見た!」


 界雷かいらい血流激流ルージュトレントを完全に防御しきることができたのは、魔力誘引まりょくゆういんの法則による誘導結界ゆうどうけっかいが発生していたからだ。


 魔力誘引の法則とは、同等のエネルギー量の魔力がある場合、魔力が互いに引き付け合い、弱い魔力は強い魔力に吸い寄せられるという魔力の性質のことである。


 基本的に魔術師や魔物の魔力には指向性や術者の意思が乗っているため、魔力誘引の法則に関係なく動くが、術者が同じで、なおかつ同等エネルギー量の魔力の場合、僅かに引き付け合う。この性質を利用し、檻状や網状に魔法を展開した場合、魔力誘引によって隙間を埋めるように魔力の膜ができる。

 これが誘導結界である。


 誘導結界の最大の特徴は周りから魔力を補給し続けるため、すぐに再生することである。

 そのため壊れたそばから修復されるが、結界そのものは脆く、簡単に壊れる。


血鞭ガランスウィップ!」


 界雷かいらいの合間を縫って血液の鞭で誘導結界を破壊し、そのまま相手に近づく。


 すぐ修復するなら突き破ったあとも残留するような魔法を使えばいい。


 相手は走り、鞭を引き付けてから逆方向に走り出す。

 しかし鞭はグンと曲がり、相手を追尾する。


界雷かいらいも突破したしホーミング性能も高いなぁ!これやから知能あって思考するタイプは嫌いやねん」

「褒め言葉として受け取っておこう」

雷鞭らいべん!」


 血の鞭と雷の鞭がぶつかり、相殺される。


「あぁもう面倒や!落雷らくらい!」

「…っ!」


 俺が身構えると、城の屋根を突き破って雷が落ちてきた。


 ズドン、と大きな音が響く。


「なんや、生きとんのか」

「いいのか?派手に城を壊して」

「ええねん。どうせ空間魔術で作った模擬大阪城やねんから」

「偽物だったのか」


 となると、こいつ以外の少年か女が空間魔術師か?


雷帝らいてい 熱雷ねつらい!」


 俺を中心に床の半径1mほどが電気を帯びる。

 咄嗟に飛び退くと、そこから雷が上に向かって無数に伸びた。


「半径約1mの円上に上向きの雷を発生させるのか」

「チッ、正解や」

「随分あっさりと認めるんだな」

「そりゃ、まだまだ手があるからなぁ!」

「無詠唱っ!」


 雷電装束らいでんしょうぞくの効果で高速移動して俺の背後に回り、電気を帯びた拳で背中を殴った。


雷拳らいけん

遅延詠唱ちえんえいしょうか!」


 魔法詠唱まほええいしょうには幾つか種類がある。


 全て詠唱する完全詠唱かんぜんえいしょう

 魔法名のみを言う短縮詠唱たんしゅくえいしょう

 魔法発動後に魔法名を言う遅延詠唱ちえんえいしょう

 詠唱文や魔法名を口に出さない無詠唱むえいしょう


 基本的に魔法を発動するときは短縮詠唱を行う。


 短縮詠唱に比べて、完全詠唱の場合は魔法の効果が約2倍に、遅延詠唱の場合は約0.8倍になる。

 無詠唱は短縮詠唱と効果は変わらないが、はっきりとしたイメージが必要になるため、その魔法への深い理解と慣れが必要である。


 他に魔術ではなく呪術の場合は呪法詠唱じゅほうえいしょう呪道具じゅどうぐの場合は仮詞詠唱かしえいしょう呪詞詠唱じゅしえいしょうの2つがある。

 また、黒魔術の場合は、魔方陣を展開する陣詞詠唱じんしえいしょうがある。

 刻限魔法の場合は必ず陣詞詠唱か完全詠唱をしなければならず、この場合のみ黒魔術師でなくとも陣詞詠唱が可能となる。


雷脚らいきゃく!」


 帯電した足で顔面を蹴られ、吹き飛ばされる。


 やはり雷電装束らいでんしょうぞくの高速移動が厄介だ。


鮮血フレッシュブラッド堅血鎧バーミリオンアーマー! 体外循環フルイド!」






 ザクロが血を全身に纏う。

 そして高速で背後に移動してきた。


悪血ヴァイラスブラッド殴打ナックル!」

紫電しでん雷拳らいけん!」


 身に纏う血を高速移動させることで無理矢理体を速く動かす魔法のようだ。

 俺の雷電装束らいでんしょうぞくと原理はほぼ同じだ。


 大阪城の中を高速で移動しながら戦う。


 顔面を狙って雷帝で突く。顔をそらして躱される。

 そのまま首を狙って雷帝を振るう。


悪血ヴァイラスブラッド斬刃スラッシュ!」


 血の刃で弾かれる。

 相手が顔面めがけて蹴りをいれようとする。


紫電しでん雷鞭らいべん!」


 足に雷の鞭を巻き付けて止める。


紫電しでん雷拳らいけん!」


 鞭を引っ張ってザクロを近づけ、殴ろうとする。血の鎧を無理矢理動かして躱す。

 背後に回ったザクロが殴りかかる。まだ残っていた鞭を引っ張って軌道をずらす。


悪血ヴァイラスブラッド斬刃スラッシュ!」


 鞭を血の刃で千切られる。


「てか、俺より速ない!?」

悪血ヴァイラスブラッド血弾機関銃盤カーマインマシンガン!」

雷帝らいてい 界雷かいらい!」


 ザクロの弾を界雷かいらいの誘導結界で防ぐ。

 ザクロが誘導結界を突き破って肉薄、背後に回る。


悪血ヴァイラスブラッド殴打ナックル!」

「グハッ…」


 思い切り殴られ、吐血する。


 雷電装束らいでんしょうぞくを纏っているが、これはあまり防御向きではない。ザクロは触れたので電気が腕に走るはずだが、血の鎧に防がれてノーダメージのようだ。。


「チッ…紫電しでん雷電装束らいでんしょうぞく!」

雷電装束らいでんしょうぞくを強化したか!」


 雷電装束らいでんしょうぞくが紫色になる。


「お前の血の鎧を使った高速移動、体無理矢理動かしてるからもうそろそろキツくなってきたんちゃうか!?」

「それはお互い様だろう!それに、この鎧のおかげで空気抵抗によるダメージはほぼない。先ほどから高速移動を繰り返し、さらにスピードを上げたお前の方が限界が近いんじゃないか!?」

雷帝らいてい 渦雷からい!」

「ここで妖刀の最後の副機能をっ…!」


 雷の渦がザクロを飲み込む。


「これでも死なんか!」

「この鎧はそこまでヤワじゃない」

「仕方ないか…黒電こくでん雷電装束らいでんしょうぞく!」

「さらにもう1段階スピードをっ!」

黒電こくでんっ!」


 雷電装束らいでんしょうぞくが黒くなり、雷帝らいていが黒い雷を帯びる。


最高速度トップスピードで斬り殺す!」


 ズドン!と雷が落ちるような音が鳴り、衝撃で辺りに砂埃が舞う。

 大阪城が半壊し、そこに人影は2


「それは、まさかっ!」

「本当は使いたくなかったんだがな…千斬ちぎり

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