第3話 刻限魔法
先ほどの追尾してくる水の粒が飛んでくるが速度や威力が全体的に下がっているように感じる。
(ダメージは入っているみたいだが)
それでも油断できない状況である。
相手は魔法(正確には魔法ではないが)を使い続けている。
このまま魔力切れを狙おうか。
それは難しい。
思い切り殴ってから魔力の減少は見られない。
減っているのだろうか。
むしろ増えているような気がする。
おそらく
このまま戦えば自分の方が魔力切れを起こすだろう。
人間は魔力を失っても死ぬわけではないが、目の前に魔物がいる状況で魔法が使えないとなると確実に殺されるだろう。
だから、魔力切れを狙うのは難しい。
さて、どうしようか。
自分の持つ魔法の中でも最高火力のものを使えば魔力切れで倒せるかもしれないが、不確実だ。
その魔法を使って確実に倒せるくらいに魔力を削ぎたい。
核を破壊する場合も、最高火力で確実に倒せるように鱗を傷つけておきたい。
ただ魔力はできるだけ節約しなければ最高火力の魔法を打てなくなる。
ふも先ほどの自分を守った水を思い出し…
「それだ!」
今この空間には水がたくさんある。
これを利用すれば…
「
魔法を行使する場合、元からあるものを使うか魔力で物質を創り出すがによって消費する魔力量は変わる。
そして単純な魔法ほどその差は顕著になり、半減することもある。
理由は、勿論物質を創り出す魔力を節約できるからである。
単純な魔力ほど差が分かりやすいのは、物質を操るときに消費する魔力量が少なく、物質生成に使う魔力の割合が大きくなるからである。
「
攻撃を積み重ねていく。
「
鱗型の大量の水が
「
水が竜巻のように渦となって
「
水を纏った手で手刀をつくり、首を叩く。
「
同心円状に複数の水の輪が広がり、
「
水を纏う。その水は荒れている。
そのまま
「
巨大な鮫の形をした水が
「
鋭い牙を持った魚達が一斉に
「
水が凝縮され、
「
水でできた大きな手が
「
水の立方体が
「
魔力残量が少なくなっている。少し使いすぎたかもしれない。
「終わらせようか」
おそらくこの魔法を使えば魔力切れを起こすだろう。
しかしそんなことはどうでもいい。
目の前に魔法陣が現れる。
その魔法陣にはⅠからⅩⅡまでの数字と、時計の長針と短針のようなものがついている。
「あれって…まさか!」
大地の驚く声が聞こえるが、そんなものに構っている余裕はない。
「
時計を模した魔方陣の長針と短針がちょうど2時を指す。
「
刻限魔法というのは、その魔術師だけが使える魔術「固有魔術」の中でも最高火力の12の魔法のことである。
俺の場合、黒魔術が固有魔術となる。
周りの水全てが集まり、2m程の槍になる。
それが
そして
魔道具によってつくられた戦闘空間が崩壊し、現実世界に戻る。
「終わったー」
俺はその場にへたり込む。
「さて、大地、これからどうする?」
俺は大地に聞く。
「お前協会に報告するのか?ならお前を殺すことになるけど」
「えっと…報告するつもりはないかな」
「理由は?」
「単純に烏山くんに死んでほしくないだけ」
「協会があることくらいしか知らないけど、黒魔術が禁忌とされていることくらいは知ってる。その判断は協会に背くことになるぞ?」
「でも友達を見捨てることはできないし、命の恩人だからね。」
「あの…これはどういう状況でしょうか?」
麗奈が尋ねてくる。
「そっか。何も知らないのか」
玄斗が答える。
「それじゃ、これ見える?」
微かに残った魔力を振り絞って数字の3を形作る。
「器用だなぁ」
と大地が呟く。
「数字の2ですか?」
「えっ!?」
「はぁー」
大地は驚き、俺は大きく溜め息をつく。
やっぱりそうか。最悪だ。
麗奈が魔術師に目覚めたことを再確認する。
「嫌だなぁ。面倒だなぁ」
「どういうことか説明してくれよ」
「面倒だから要点だけに言うよ。麗奈が魔術師に覚醒しました」
『えっ!?』
大地と麗奈が声を揃えて驚く。
「ごく稀にこういうことが起こるんだよ。とりあえず、麗奈、何か質問とかある?」
「そもそも基本知識すら持っていないので、基本知識を教えてほしいです」
基本知識か…
「ていうかさ、敬語使わなくていいよ。名前も呼び捨てで構わないよ」
「僕も敬語とか敬称使わなくていいよ」
「じゃあ私も」
基本知識…
「えーっと、基本知識…魔力、魔術、魔法、魔物の説明とかかな?」
「あと魔術師協会について話した方がいいかな」
「あ、それ俺もよく分かってない」
話すことは決まった。
あとは――
「じゃあ大地先生。よろしくー」
――丸投げするだけだ。
「じゃあまずは魔力について。魔力っていうのは普通の人には見えない正体不明のエネルギーで、基本的にすべての動物から発せられている。その中でも魔力総量――最大の魔力量が多い人が魔術師と呼ばれる。で、魔物っていうのは、その魔力で身体ができている生物?みたいなもので、
「魔物に血液は流れているの?」
「基本的に流れてないけど魔力が血みたいに飛び散ったりすることはあるかな。」
「なるほど…」
「で、魔法と魔術を説明するね。魔術っていうのは魔力を消費して目に見える形で何か現象を起こすこと、そして魔法はそのひとつひとつの現象のこと」
「?」
麗奈が疑問符を浮かべている。
どうやら大地先生には手助けが必要らしい。
「例えば、俺が水を発射したとする。俺が使った魔法は水を発射する魔法。でも俺が使った魔術は黒魔術。わかった?」
「分かりやすい」
「大地先生の授業は分かりにくいってさ」
「いや、別にそういうわけじゃ…」
「玄斗、邪魔しないでよ」
「手伝ってあげたのに」
不満げに言うと俺はまた駅のホームにある椅子に腰かける。
「で、魔術は基本魔術、属性魔術、固有魔術の三段階に分かれていて…
「つまり魔術師が集まって担当地区を分けて魔物の討伐をしているのが魔術師協会ってことか」
「そういうこと」
「で、黒魔術は禁忌なのよね?どうするの?玄斗は黒魔術師なんでしょ?」
「とりあえずこの事は話さないようにしようと思う。だから麗奈が魔術師に覚醒したことも隠した方がいいんじゃないかな。覚醒した経緯を聞かれると困るから」
「わかった」
「今11時30分だよ」
『え!?』
俺は一人暮らしだ。遅く帰っても怒られることはない。
でも二人は違う。
「なんでそれ早く言ってくれなかったの?」
麗奈が問い詰めてくる。
「早く帰らないと。次の電車いつ?」
大地が頭を抱えている。
「じゃあ連絡先だけ交換しとこうか」
その後、大地と麗奈は塾が長引いたという言い訳でなんとか乗り切ったらしい。
そして、俺はすぐにベッドに飛び込んで眠った。
その時は誰も気づいていなかった。
麗奈のバッグに入っていたそれに。
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