第2話 覚醒
「
基本魔術を連発する。どれが通用するかを確認するためだ。
基本魔術は読んで字のごとく基本の魔術であり、初歩の魔術である。
では初歩である基本魔術は弱いのか。それは違う。
1人前の魔術師ほど基本魔術の使い方が上手い。避ける方向を誘導したり不意打ちに使ってくる。
(やっぱり
要するに
そんな相手に手抜きで戦えば無事ではすまない。
バッグから一冊の本を取り出す。
その本が俺の周囲で浮遊する。
黒い
黒い魔導書は珍しいものではない。
闇属性の魔導書も表紙は黒い。
だがこの魔導書は闇属性とは明らかに違う点がある。
中のページまで黒いのだ。
黒い紙に白い文字が刻まれている。
魔導書が開く。
「
白い魔力の塊が俺の右手から放たれる。
そして
爆音が鳴り響き、爆風で飛ばされそうになる。そして爆発による白い光は直視すれば失明するほどの明るさだ。
術者や周囲の人間も危険なため普段はあまり使わないが異空間で周りの被害を気にする必要は…
「大地!無事か?」
忘れていた。完全に。
「二人とも大丈夫だ!」
よかった、と安心する。
一歩間違えれば二人が失明していたかもしれない。
やはりこの魔法は使うのを控えるべきだなと思った。
さて
「Guooooooooooo!!」
激昂している。
無傷…のように見えるが魔力量が減っている。恐らく身体の修復に使ったのだろう。
魔物の身体は魔力でできている。そのため自分の魔力を使って自身の身体を修復できる。
やはり胴体を狙うべきだったか。
魔物の胴体には心臓部である
正確には魔力を増幅しているだけなのだが。
そして
故に魔物との戦いは魔力を尽きさせるか
「
オレンジがかった熱を帯びた膜が展開される。この魔法で水を蒸発させようとする。
しかし…
「ヤバっ」
水が膜を突き破る
「
今度は鉄の盾を作り出す。
それによって勢いを失った水が床にながれ、くるぶし辺りまで浸水した。
黒魔術は禁忌である。
黒魔術師の扱う黒魔術はある特徴を持っている。それは、全ての属性の魔法を使えるというものである。
通常、魔術師は1つの属性しか使えない。しかし、黒魔術師は基本十二属性を全て扱える。さらに優れた黒魔術師は12個の属性に当てはまらない3つの属性も使える。
「
気づけば
そしてそれが飛んでくる。
どうやら追尾性能もあるらしい。
それを走りながら一つずつ丁寧に
もちろん
そして
「
「
俺の手が可視化されるほどの濃密な黒い魔力で包まれる。
「くたばれっ!!!」
思い切りぶん殴る。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息切れしている。少し魔力を乱用しすぎたかもしれない。
(疲れた。勝ったか…?)
「Goaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
うるさい。鼓膜が破れそうになる。
そんなことよりも…
「まだ生きてるのかよ、しぶといなぁ!」
実はこの一撃で倒せるとは思っていない。
だが最低でも少しの間怯むか、良ければ失神してくれるだろうと思っていた。
しかし、攻撃をくらってすぐ咆哮を上げた。
「大丈夫ですか?」
未だに不安そうな清川さんに声をかける。
「ちょっと落ち着いてきた」
大丈夫そうだな、と僕は思う。
普通なら理性を失ったり気絶してもおかしくないだろう。しかし落ち着きを取り戻しているのは凄いことだと思う。
いや、知っていたからこそ、
だが、魔術のまの字も知らない一般人にも関わらず魔物を目撃し、白い強烈な光や爆風、水浸しになった床などを見ても理性や意識を失っていないなんて。
「それにしても…」
烏山くんのあの漆黒の魔力、あれは黒魔術師のものだ。
黒魔術師の魔力は普通の魔術師の魔力とは全く異なるもので、エネルギーの密度が高い。
どちらかというと魔物の魔力に近いらしい。
これを黒魔力といい、黒魔術が禁忌とされる所以らしい。あくまでも噂だが。
そして、第二次世界大戦中、黒魔術師が徒党を組んで魔術師協会に攻め込んだ。そのときの被害は凄まじく、何人もの魔術師が亡くなっているらしい。
そして数年後に黒魔術師の一斉取り締まりが行われることになる。
全国各地をくまなく探し、鏖殺した。
その後から黒魔術師はほとんど見られなくなった。しかし、数年前…
閑話休題。
兎も角、黒魔術は禁忌である。協会に見つかれば即処刑だろう。
だが僕は烏山くんに死んでほしくなかった。
たとえそれが、協会に背くことになっても。
人のために命を張って戦えるような人が死ぬのはもったいない。
黒魔術師だからという理由で死ぬべき人間ではない。
私はずっと見ていた。
もし、玄斗が負けて、ドラゴンが自分たちに襲いかかってきたら。もし、玄斗が負けて、死んでしまったら。そんなことを考えるとやはり不安になる。
私にもどちらが優勢でどちらが劣勢かぐらいは分かる。
玄斗は息切れしていて、ドラゴンはまだまだ余裕に見える。
「あっ」
玄斗にドラゴンの鋭い爪が迫る。
このままでは玄斗が死んでしまう。
死んでほしくない。
ドラゴンは人語を理解できるのだろうか。
そもそも理解できたとしても意味がないと分かっていた。
それでも、叫ばずにはいられなかった。
「やめてーっ!!!!!!」
その声に呼応するように周りの水がドラゴンの爪と玄斗の間に入り、玄斗をドラゴンの攻撃から守る、ことはできずに水を突っ切って玄斗に迫る。
だが、そのとき僅かに減速し、生まれた時間は玄斗が体勢を整えるには充分な時間だった。
「
爪を漆黒の魔力の盾が受け止める。
盾に罅が入り、割れるが、既に玄斗はその場から離れている。
「よかった」
私は安堵すると、その場にへたり込む。急激な疲労感に襲われる。息切れて、動けない。まるでさっきの玄斗のように…
俺は
先ほど自分を守るように動いた魔力を帯びた水について。
あれは自分の魔法ではない。
では誰の魔法か。答えは既に出ている。
だが、そうなると事後処理が大変なのだ。
だから認めたくない。
まぁ協会所属の魔術師が加勢に来るよりはマシなのだが。
あれが大地の魔法であってほしいと思うが、そんなわけはない。
魔法が発動したとき、麗奈が叫んだこと、今麗奈が激しく息切れしていること。
ごく稀に魔力を浴びることで魔術に目覚め、魔術師になることがある。
そしてここには自分と
そしてなにより、麗奈の魔力が増えている。
一般人の微量の魔力とは比べ物にならないくらいに。
魔術師と同じくらいの量に。
麗奈は魔術師に覚醒していた。
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