セプテット
星海しいふ
CHAPTER:RED
第1話 西沢大地
※作品の紹介文の注意事項を必ずお読みください
―――――――――――――――――――――
「どうだ西沢?野球部に入るつもりはねぇか?」
先生が聞いてくる。
「お、大地じゃん。野球部入るのか?」
クラスメイトで野球部の溝口が聞いてくる。
「まだ悩んでるんだよ」
確かに、部活で学校にいられる時間が増えるのは都合がいい。でもできれば文化部に入りたい。
「あ」
僕は1人の生徒を凝視する。
「なんだ西沢、あいつが気になるのか?」
「え?ああ、はい」
咄嗟に答える
「見る目があるじゃねえか。あいつは
先生(確か名前は榊原だったはず)が丁寧に説明してくれる。
(どうしようかな…今のところ実害は出てないみたいだけど。放置するのはよくないし)
エースの青年は取り憑かれていた。
(あれ、炎属性の
「エースの人、練習中の記憶がなかったり急に高熱が出たりすることってありますか?」
先生に尋ねると驚いた表情で答える
「練習中の記憶が曖昧なことがあるらしいんだが、なんで分かったんだ?もしかして何かの病気とかか?」
ヤバイ、と僕は思った。なぜ分かったかについての言い訳は考えていなかった。
彼には
「病気ではないと思いますよ。そんなことより入部するかについてですが…」
そう言って話を逸らして誤魔化した。
結局野球部には入らず、帰るときに
「はぁ」
ため息をついてベッドに横たわる。
あの学校は異常だ。魔物が昼にも見られる。おそらく夜は魔物で溢れ帰っているだろう。
普通、魔物は夜に活動し、日中は姿を見せない。
理由は簡単で見つかるのを防ぐためである。
そのため人気がない森の中などでは昼でも魔物が見られることもあるのだが、学校は人が多く、見つかりやすい。
にも関わらず魔物が現れるということは、あの学校が魔物で溢れかえっているということである。
魔物の体は魔力で構成されている。故に常人には見えず、そしてより魔力総量を多くするために魔物同士で争い、共食いすることもある。
だから昼間に魔物が姿を見せるということは、夜に姿を見せられないということである。
夜に姿を見せられない理由はだいたい、圧倒的に格上の魔物がいるか、大量の魔物が徒党を組んでいるかのどちらかである。
余談だが、魔物は基本異界に潜伏しており、人間に被害を与えるときだけこちらの世界に現れるという説が一番有力であり、故に魔物は昼間、魔術師でも視界に映らないと言われている。
閑話休題。
やはりあの学校は
魔巣とは読んで字のごとく魔物の巣のことである。
基本魔物は単独か、数体の群れで行動する。しかし同じ種族同士で結託して行動することもある。
異なる種族間で協力することもあるがそれは珍しい事例である。
この時に拠点となるのが魔巣だ。
魔巣になっているとなればまだまだ半人前の自分より適任者がいるだろう。
本部に連絡しようか、と思うが恐らく皆忙しく、手間をかけるだけだろう。ここ最近は魔物の発生件数が多い。
急に増えたり減ったりすることは珍しくないが、何かの前触れかもしれないので警戒しなければならない。故に自分達に少し理不尽な仕事が回ってくるときもある。
今回もそうだ。もともと僕は群馬県担当である。だが人手が足りないということで、横浜の高校の調査を頼まれた。
誰でもいいから何人か手伝いにきてくれないかな、と思いながら本局に報告書を送る。
昔は紙だったらしいが今ではスマホで送れば直ぐに届くし配送料もかからないため切手も必要ない。無料だ。
増員されることに淡い期待を抱きながらメールの送信ボタンを押した。
眠い。もう少し寝たいが塾の時間だ。
体を起こして用意をする。
実績などで選らんだ結果少し遠い塾になってしまったので電車に乗らなければならない。だから時間厳守である。自転車ならなんとかなるが電車であれば乗り遅れるのはまずい。
アパートを出る。家賃は魔術師協会が出してくれる。
魔協は政府から支援を受けているらしい。
(最近魔術の鍛練がおろそかになってるな)
ふと気がついた。
もしあの高校が魔巣になっているとすれば近いうちに大規模な調査か討伐が行われるだろう。そして魔術師達が忙しい今なら当然自分も駆り出される。
その時に足を引っ張るのはよくない。最低限戦えるくらいには強くならなければ。
才能と努力で自分と同い年で隊長になった彼を思い出す。
早く追い付かなければ、そう思い…
「もう7時!?」
家を出るのが遅れた
塾が終わる。
10時頃になって、電車のホームへ向かう。
誰もいないホームは異様に静かだ。
「あ、えーっと、大地くんだっけ?」
話しかけられた。
(誰だっけ?同じクラスなのは分かるんだけど…)
「
名前を覚えていないことを察したのか自己紹介される。
なんとなく気まずい。
「こんばんわ」
もう1人来る。今度は女子。
こちらもクラスメイトだが名前を覚えていない。なんかモテてたと思う。
「
自己紹介されてしまった。なんか申し訳なくなる。ちゃんと名前は覚えた方がいいな、と思う。
電車を待っていると、
「Guaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
突如、咆哮が聞こえてくる。
『!?』
全員がそれぞれ別の理由で驚く。
二人の様子を確認する。
清川さんは恐怖で固まっている。当たり前だ。
目の前に
本来魔物は常人には見えない。だが特殊な状況下で一般人でも見ることができるようになる。
その条件が魔力濃度である。魔物が戦闘態勢に入ることで体から出る魔力によって空気が魔力を帯びて見えるようになるのだ。
閑話休題。
僕は
どうやって逃げるか、いや、ここで逃げれば被害が拡大するかもしれない。
本局に連絡してから他の魔術師が来るまで待つか、それでは自分が死ぬかもしれないし他の二人を逃がさなければならない。
(まずいな、せめて烏山くんと清川さんだけでも助けないと…)
僕は焦り、気づいていなかった。
目の前に迫る水の刃に。
「
漆黒の魔力の盾が大地を攻撃から守った。
「!?」
今の魔法は僕のものではない。
そもそも僕に基本魔術で
まだ本局にメールは送っていない。
だが確かに自分の目の前には魔力の盾――基本魔法「
しかも漆黒の魔力。これは――
「大地!お前魔術使えるだろ?援護頼む!」
玄斗が叫んだ。
魔法を使ったのはどうやら玄斗のようだ。
援護を頼まれた。でも…
「無理だ!そんな力量僕にはない!」
それは紛れもない事実。でもーー
「でもこれくらいなら!
バッグの中から取り出した魔道具を起動する。
「すごいな、これは」
そこはさっきいた駅と変わらない景色、だが全く別の場所になっていた
「空間属性で作られた異空間だ!周囲の被害や人目を気にせず戦ってくれ!」
これは空間属性による異空間。それも北海道支局の支局長が作った高度なもの。
協会所属の魔術師全員が装備しているもので再利用可能な優れもの。
部活動見学で野球部のエースに憑いていた
これを使えば使うほど実力の差を思い知らされる。
ただひとつだけ、僕は忘れていた。
それは
その空間に、麗奈を巻き込んでいた。
僕が再び焦り出す。いや、元から大なり小なり焦っていたが。
玄斗も気づいたらしい。
「ここから清川さんだけ出す方法はないのか?」
「無理だ。展開したら対象の魔物を倒すまでは持続する」
その優れた性能を実現するために術式に条件をいくつも組み込んでいる。
「分かった。じゃあ隠れてくれ。コイツは俺が1人で倒す」
「清川さん!説明は後!まずは安全な場所へ!」
僕が叫ぶ。戦闘中のこの空間に安全な場所などあるわけもないのだが。
「は、はい」
弱々しい声が聞こえてくる。
今も怯えているようだが少し落ち着きを取り戻したらしい。
玄斗が戦う姿を見ながら、僕は疑問符を浮かべる。
なぜ戦闘前は一般人と同レベルの微細な魔力しか放っていなかったのか。
なぜ基本魔術だけでドラゴンの攻撃を防げるのか。
そしてあの漆黒の魔力…
漆黒の魔力は禁忌とされている
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