第3話 拳で語れ!

「おい、お前、まさかワシとやり合うつもりか?」


「当たり前だろ! 自分より強いと名乗る奴がいたら挑戦するのが格闘家ってもんだ!」


 轟と魔王は顔がくっつくのではないかというくらい接近してにらみ合う。


「おい、神官、例のやつを寄越せ!」


「はい、これを!」


 神官が何やら手錠のようなものを轟に投げ渡すと、轟はすぐさま自分の左腕と魔王の左腕に錠を嵌める。


「貴様、なんだこれは?」


「魔封石とかいう魔法を封じる石でできた錠だ。せっかくの喧嘩で魔法とか使われるのは白けるからな!」


「ふざけるな! こんな原始的な戦いで雌雄を決するつもりか!」


 魔王は激怒するが、轟は格闘のプロだけあり、魔王を巧みに挑発する。


「いいぜ、自信がないなら外してやっても。あと、今日はちょっとな~とか調子悪いとか言って逃げたいなら日を改めてやっても構わねぇぞ……。まあ、さすがにコイツビビってるのかな~とか思っちまうけどな……」


「ぬかしたな人間が……。ワシとまともにやり合える奴などこの1000年間で数えるほどしかいなかったのを思い知らせてやる!」


 魔王は遂にチェーンデスマッチに同意した。


「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!」


 轟は魔王が話している最中にいきなり正拳突きをぶちかます。


 魔王が膝をつき苦悶の表情を浮かべていると、轟が大声で怒鳴り散らす。


「てめぇも男なら武勇伝を語る前に拳で語れ!」


 轟は膝をついた魔王に空かさず回し蹴りをお見舞いし、魔王も倒れかけるが、今度は魔王が右のフックで轟をぶちかます。


「気持ち悪い花嫁姿でワシをおちょくり、こんなふざけた戦いに巻き込んだのはお前だろうが!」


 魔王は逆に膝をついてうずくまった轟の顔面に膝蹴りを食らわせるが、轟も負けじと正拳突きを食らわせ、両者の殴り合いはしばらく続く。


「姫さんが欲しかったら、男らしくちゃんと告白しろ!」


 轟の怒りの回し蹴りが魔王の顔面を捉える。


「純愛とかで嫁にしたいと思ったわけではないわ! 馬鹿かお前は!」


 魔王も轟の顔面に頭突きを食らわせ、両者は息を切らして睨み合う。


「何が純愛ではないだ! 愛がないなら嫁に貰おうとするな!」


 轟は渾身の裏拳を魔王にぶちかまし、魔王がダウンする。


 轟には23歳になる娘がいた。


 そんな轟にとって、娘を幸せにすると誓えないような男に嫁を差し出さなければならない王様の気持ちがわかり、魔王に怒りの鉄拳をぶち込むのであった。



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