第11話
「シズク、何してるの?」
夏目リョウは、私の初恋の人だった。
♢
「東條さんてさ、絶対モテるよね!」
「えっへへ..。そうでもないよ」
中学時代、私は並の人よりも容姿が優れていることを知った。
同級の女性の中でもヒエラルギーは高く、
男性から向けられる好意の視線にも気づきつつ、見て見ぬふりをした。
なにも異性に対し恐怖心があるからではない。
ただ数多いる彼らの中から仮に一人と親睦を深めたとして、
その先にある恋愛というものにまるで興味を抱けなかったもののー
当時の私のこの価値観は思春期の学生達にとっては当然
珍しいものとして認知されると同時に、私はクラス内においていわゆる
『美人だけど変わってる、不思議ちゃんキャラ』扱いとなった。
そしてーー
「ねぇ見て! 最近アイプチ初めて、二重にしたんだー!
でも東條さんは羨ましいよね。だって元から二重なんだもん!!」
「えっへへ..。でもさ、別に瞼が一重だとか二重だとかって、
自慢するようなものじゃないし、ぶっちゃけどーでも良くない」
この一言をきっかけに、
私はクラスの女子グループから排除され孤立するようになっていった。
『なんかさ、東條さんって自分が可愛いからってお高く止まってるよね』
『そうそう! この前なんか、瞼が一重か二重かなんてどーでも
良いって言ったらしいじゃん。何様なんだろうね? 一重でブスなうちらに
対する当て付けのつもり??』
至極低俗な動機と浅はかな考察ーー
こんな些細な事で崩壊する脆い関係を、
自身の容姿に対するコンプレックスという
共通項でとどめたがる彼女達の心情が、私にはまるで理解出来なかったのはきっと、
自分は運良く、
容姿に恵まれて生まれてきたからなのだと悟ったのはもう少し後になってから、
中学2年時、学校の図書室で読んだある一冊の本がきっかけだった。
z世代ーー
それが今の私達の世代を総括した一つの名称であるようだ。
過去にはゆとり世代とか氷河期世代とか、さとり世代なんて括りも
あったらしいけど、あまり良い意味でない事はなんとなく理解できたしそもそも、
人なんて誰一人同じじゃないのに、さも一般論の如く纏めたがる
主語のやたらでかい人間が作った差別用語のようにしか思えなかった。
なのに、この本に書いてある事は全部が全部腑に落ちる!
その瞬間、
蔑称だと思っていたz世代と呼ばれる人達の心理が徐々に浮かび上がってきた。
ある日の事だった。
「最近美容院行ってアイドルの○○と同じ髪型にしてもらったんだー!
見て見て似合ってる!?」
「似合ってるけど、それで■■ちゃんの中身は何か変わったの?」
「え..」
「■■ちゃんさ、インスタとかツイッターよく使ってたりする?」
「まぁ..。使ってるけど、、」
「だよね! ああいうSNSに出てくる有名人と自分を比べるから、
自分の容姿にますます自信が無くなって、上っ面だけを必死に真似しようと
するんでしょ?」
「あっはは! とても似合ってると思うよ。なんか、滑稽で笑えるもん..」
「......」
これが私のしでかした重大な過ちーー
毎日クラス内で除け者のように扱われ苛立っていた私は、
自分のした発言の善悪の区別がつかないほど追い詰められていた。
「なんで黙ってるの? あなた達もそうでしょ?
時間があればスマホばっかいじって、他人と自分を比較してばっかりだもんね。
で、どうだった? あなた達が比較しているインフルエンサーは二重なの?
小顔で、色白で、月一万はかかる美容院に行ってるのかな?
ふふっ..。本当くだらない。そんな事して、なんで無駄だって気付かないのかな..?」
もう、感情に任せて、その言葉が、口をついて出た。
「あなた達と私とじゃ、元が違うのよ!!」
その日から、私は学校でいじめを受けるようになった。
当然だ。
人は秩序を乱す悪だと決めつけた人間には、何をしても許されると思っている。
自分のした行為が例え社会的には悪だったとしても、仲間内では正当化されてしまう。
だから上履きは何度も隠されたし、給食時間中は余った牛乳瓶を投げつけられた。
臭い匂いがこびり付くから、私は毎日、それを水洗いするのに手を焼いた。
「もう、死のうかな..」
気づけば私は中学3年生になっていた。
高校受験が翌年に控える中、もはやこの街で生きていく自信も無い。
「木綿豆腐二丁お願いします」
「はい....」
「....?? あれ、君は....??」
臨時で豆腐屋の店番をしていたある日、
桜島学園の見慣れた学ランを身に纏った高校生の男の人がやってきた
「....。サービスの、豆腐ハンバーグつけておきますね..」
♢
新入生歓迎合宿二日目ーー
その日、桜島は大正時代以来の大噴火を引き起こした。
死者 62名 負傷者 126名
鹿児島市内に降り積もった火山灰はまるで
季節外れの、灰色の雪景色のようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます