第4話

「うわぁ! 刑務所に投獄された!」


 俺が過去にタイムリープしてはや一ヶ月


 当初は懸念材料であった8年ぶりの高校生活にも俺は難なく適応し、

今では昼休み時間中、こうしてかつての学友とモノポリーまでする始末だ。


「そういやさ、リョウ、期末テストどうだった?」

「あぁ、それね..」


 嬉しい事に、入念の対策をしてから臨んだ定期テストは上出来だった。

やはり既習範囲をもう一度攫う上で、ある程度頭に残っていた前提知識はかなり役立つ。特に英語なんかは、社会人になっても趣味でTOEICを受けていた事が大分効いたんだと思う。


「リョウはさ。将来の進路とかもう決めた?」

「まぁね。このまま頑張って、エンジニアか医者か、小説家にでもなろっかな..」


「おいおい。一回赤点回避したくらいで調子乗りすぎだろ」

「はは..。そーゆうお前はどうなんだ?」


「うーん..。とりあえず上京して、キャンパスライフを謳歌するよ。

そのさきはまだあんまり決めきれなくてさー」


 気楽で良い。将来の夢なんて、強迫観念みたいなもんだーー


 多分昔の俺ならそう答えてたけど、大志など抱かず、気楽に文系学部で四年間

遊び呆けた結果、周囲に流されるように就活し、ブラック企業に内定を頂いた

過労死寸前の元社畜だった手前、無責任にそう言えなかった。



「リョウ君って、将来何かやりたい事あるの?」


 シズクの豆腐屋でいつものように話していた矢先、尋ねられた。


 またこの手の質問か..。


「シズクと結婚したい」


 いつ終わるのかもしれないタイムリープだ。


 前世のような孤独感を味合わないために、今世は誰かといたいと思う気持ちが

強かったのもあると思うが、高校生の時分でいうにはいささか時期尚早だったと後悔した。


「ごめー」

「良いの? 私なんか嫁に貰っても、きっと不幸になるだけだよ」


 しかし、返ってきた返事は僕の薄っぺらい心を上回った。


「そんな事ないよ..」

「ううんそんな事あるよ。だってこの前ね、母さんが私に店をもう畳まないかって

相談しに来たの..。今じゃ豆腐一本で稼いでけるほど甘くないし、先代には申し訳が

つかないけど、これも時流だって考えれば受け入れるしかないって、、」


「......」

「私もそう思ったよ。最近はもう、商店街のお店もほとんど残ってないしね。

お店を畳んでも仕方がないって..。はい、木綿豆腐二丁と豆腐つくねはおまけ..」


「あの、、さ..」

「どうしたの?」


「木綿豆腐、あと5、6丁欲しいんだけど..」

「え? そんなに買って何にするの..?」


「なんつーの..? 売り上げの貢献、みたいな..?

第一さ、今どき珍しすぎるんだよ豆腐が一丁で100円だなんて。

ここ老舗でしょ。だからもっと値上げして、、あ、あとさ!!

今度高校の俺の友達ここに連れてくーー」


「やめて..。ここで働いてるの、リョウ君以外の子に見られたくない..」

「......。そっか、、」


 申し訳ない、失礼極まりない提言をした自分を恥じた。


「はい、木綿豆腐ね。そういえばリョウ君って木綿ばっかりだけど、

絹は食べないの?」

「そうだね。絹はなんかつるんとし過ぎてて、腹に溜まった感じがしない」


「ふーん..。私は絹も好きなんだけどなー?

醤油かけてそのまま食べたり、湯豆腐にするには絹が合うんだよ!

だからとりあえず試してみて。一つサービスで付けとくから」

「分かった、試してみる..」


 本当は断ろうと思ったが、俺は人の好意を踏み躙る事の罪深さを知っている。

相手に貸しを与えるための行為ならそれで良いが、シズクはきっと、俺に本当に

したい事をただやっているだけだ。


 商店街の通りも、毎度の事だが歩くたびに悲しさが勝る。


 シャッター街の一つ一つが、

かつての東條家の豆腐屋のような細々とした家族経営の

専門店を営んでいたと考えると、シズクの将来が気がかりでたまらない。


 そう、俺は、シズクのあの豆腐屋が最終的にどうなったかが分からない。


 顛末を見届ける前に、何の理由があってか俺たちは別れた。

あれだけ親しい関係だったのに、どこでほつれが生じてきてしまったのだろうか?


 ズキンーー


 考えるたび、頭が痛くなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る