第3話

 俺がこの不可思議な走馬灯を見始めて、既に3日たった。


 どうやら時間軸は過去に沿って正確に進んでいくものらしく、

途中途中の思い出しの利かない場面は恐らく、

脳が勝手に補填しそれっぽさを装っているのだろう。


 元来人間の記憶というものはかなり大雑把で忘れやすい。

故に、自分が今見ているこの光景の整合性は定かではない。


 なんて考えているうちに、流石の俺でも徐々に違和感を覚え始める。

いや寧ろ遅い方だと言っても過言ではないだろう。


 夢にしては長過ぎる。走馬灯の線も薄そうだ。


 寝起きにギュッと頬をつねってみても、何ら変化は訪れない。


 もしかして俺、過去にタイムスリップしてね?



 第二の青春がやって来た。

それも高校二年という黄金期かつ、俺には当時彼女がいた。


「あはは! それでさ、俺のクラスの担任がーー」


 毎日毎日、学校終わりにシズクの豆腐屋に立ち寄り、そこで長話をする。

学校であったしょーもない体験談が主だが、

ごくたまにクイナの進路について話したりたりもした。


 膨大にある時間が湯水のように溶けてなくなる。


 それほどまでに、シズクと話をするこの時間がかけがえの無いものだった。


 ある日の、事だった。


 何の変わり映えも無いごく平凡な一日。

日増しに寒くなっていく季節の変化に合わせ、服の袖が長くなったくらいで、

相変わらず俺は豆腐屋に立ち寄り、雨の日も風の日も、シズクと話続けたものの、


 その日は桜島が噴煙を上げたせいで、ここ城山の商店街にも火山灰が降り注ぎ、

傘を持って歩かないといけない嫌な一日。


 そういえばここ最近家のニュースでも、桜島の噴火レベルが

引き上げられたとか、そういうニュースばかりで、聞いても眠くなるだけの

専門家たちが話し合うだけの娯楽とはかけ離れたテレビ番組に自分はうんざりしていた時ー


「それがね..。最近、クイナの様子が変なんだ..」

「へぇ、どんな?」


 思春期の女の人だし、実の姉とて心配したくなる気持ちも分かるが、

あまり干渉されては当のクイナもあまり良い気はしないだろう。


「それが..、クイナ最近、

トイレの時間があまりにも長いから何してるのかこっそり覗いたんだけど..」

「ち、ちょっと待て! それって、俺にして良い話..?」


 絶対に性事情が絡んでるであろうピンク色の脳内妄想に囚われた俺は、軽はずみな

シズクの言動を諌めようとしたが、彼女はそれを振り払い続けた。


「髪..。抜いてるんだよね。多分、本人は無意識な奴..」

「え..」


「だから前ね、ちょっと髪結わせてって言って見てみたら、

頭頂部に十円ハゲが出来てた」

「ま、まじか..。それって、差し迫る受験のストレスでなるとかいう精神的な..」


 それに対し、シズクは肯定も否定もしないまま続けた。


「うん..。多分そう。だから最近、勉強も身に入らなって、、」

「....。そっか、俺がもっと上手く教えられていれば良いんだけど..」


 なんて不安を装う演技をしたが、実の所、俺はそこまで心配していなかった。


「大丈夫。シズクは絶対に合格するし、

受験が終われば、そういうのもしなくなると思うよ」


「そっかな..」


 この時だけは確証を持って言えた。

彼女が桜島学園に合格するのは、約束された未来だったからだ。

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