セレ女の王子様

「キャっ、医達さんだわ」

「今日も素敵ね……」

「ヘレン様、ごきげんよう」


 学園の校門をくぐると、クラスメイトに挨拶された。目を優しく細めて、ふわりと口角をあげる。声は澄んでいるけど、低めに。


「皆さま、ごきげんよう」

「「「キャーッ!!!!」」」


 ここはセレスティア女学院。通称セレ女と言われる、有名なお嬢様の小中一貫校だ。


 私は医達ヘレン。この男っけの無い女子校で、「王子様」の役割をしている。


 理由は二つ。一つは、小4のときに兄とその友達にこっぴどく「なよなよしている」と可愛く着飾ったのを馬鹿にされたからだ。ピンクのリボンに、ふわふわヒラヒラのレース。「ぶりっ子でキモい」と嘲笑された。今も苦い思い出であり、私はそれから長くのばしていた髪を切った。

 もう一つは小6のときに気が付いたのだけど、どうやら私の容貌は涼し気で男に見えなくもない整った顔立ちらしい。クラスメイトも、別に私に本気で恋しているわけじゃないだろう。おそらくアイドル鑑賞感覚だ。だから、みんなを喜ばせるために、私は学校でイケメンっぽく振舞っている。


 ちなみに、みんなが私にガチ恋でないのは、ちゃんとした証拠がある。


「ヘレン様! えみりぃ=ふらん先生のSNSをご覧になって? 漫画が更新されていたのですわ」

「うん。今回も萌えたよね。やっぱり、リオルドは至高の受けだ」

「誠におっしゃる通りですわ!!」

「きゅんきゅんしましたわよね!!」


 それは、BL話を平然とできるからだ。ここは女子校。恋やときめき、男っ気に基本飢えている生徒たちは、BLを嗜んでいることが多い。私もBLは好きだ。

 だが、BLは基本的にきわどくて変態性の高いものも多い。そんな趣味を、恋愛的に意識している相手に戸惑いもなくオープンにするだろうか? いいや、しない。


 余談だが、えみりぃ=ふらん先生とは、私の周囲で人気なBL漫画家だ。主に、わんこ系攻めのフレイア×聖母系受けのリオルドを描いている。ものすごく……滾る。サイン会にクラスメイトと行ったことがあったが、穏やかな顔立ちの若い女性だった。

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