第2話「失敗作のレシピ」



「以上で、和風パスタソース企画の説明を終わります」


会議室に沈黙が流れる。さくらは資料を手に持ったまま、冷や汗を感じていた。昨夜、松田課長と一緒に完成させた試作品のはずなのに、プレゼンがうまくいかない。


「西野さん」


開発部長が眼鏡を上げながら口を開いた。


「コンセプトは悪くないが、差別化が弱い。既存商品との違いが見えてこない」


「はい...」


「それに、原価計算が甘いね。この製法では採算が合わない」


指摘は的確だった。さくらは必死で反論しようとしたが、言葉が出てこない。結局、企画は保留という形で終わった。


「すみません、課長」


会議室を出た後、さくらは松田に深々と頭を下げた。


「謝ることはないさ。むしろ、良い経験になったはずだ」


「でも、課長の時間も無駄にしてしまって...」


「時間の無駄?」


松田は不思議そうな顔をした。


「君は何のために試作品を作ったと思う?」


「え?」


「商品を作るためじゃない。より良い商品を作れる人になるため、だろう?」


さくらは目を見開いた。松田は優しく微笑んで続けた。


「今夜、もう一度チャレンジしてみないか」


「課長...」


「今度は原価計算から始めよう。それと...」


松田は少し考えるような素振りを見せた。


「和出汁は残そう。あれは君のアイデアの核心だからね」


さくらは胸が熱くなるのを感じた。失敗したはずなのに、なぜか希望が湧いてくる。そう、これは終わりじゃない。新しい始まりなのだ。


「課長、今夜もご指導お願いします!」


思わず大きな声が出てしまい、さくらは慌てて口を押さえた。松田は楽しそうに笑う。


「じゃあ、23時に社員食堂で」


夜の社員食堂で、新しいレシピが生まれようとしていた。今度は、きっと違う結果になるはず——。さくらはそう信じていた。

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