『深夜0時の商品開発部』〜残業中に始まる、おいしい恋〜

ソコニ

第1話「深夜の社員食堂で」



暗闇の中で鍋を煮立たせる音が響く。


午後11時を過ぎた社員食堂で、西野さくらは一人、真剣な表情で調理台に向かっていた。入社してまだ2ヶ月。新商品開発部の新人である彼女には、明日の企画会議で発表する新作が必要だった。


「やっぱりダメかな...」


鍋の中では、さくらの試作品である和風パスタソースが煮立っている。和出汁をベースにした商品のアイデアは良かったはずなのに、何度作っても本当に美味しいと思える味にならない。


「こんな時間まで、珍しい人がいるじゃないか」


突然声をかけられ、さくらは思わず振り向いた。そこには松田課長が立っていた。残業が多いことで有名な課長だが、こんな時間に社員食堂にいるところは初めて見た。


「課長...申し訳ありません。勝手に調理場を使って...」


「いや、構わないさ。むしろ感心したよ。新人が自主的に試作するなんて」


松田は調理台に近づき、鍋を覗き込んだ。


「和風パスタソースですか?面白い着眼点だ」


「はい。でも、どうしても決め手に欠けて...」


「ふむ」


松田は立ち止まると、白衣を手に取った。


「じゃあ、一緒に考えてみようか」


「え?」


「君の情熱に免じてね。それに...」


松田は少し照れくさそうに微笑んだ。


「実は僕も、こういう深夜の開発作業が好きなんだ」


その言葉に、さくらは思わず目を輝かせた。


「課長、本当ですか?」


「ああ。ただし、条件がある」


「条件...ですか?」


「出来上がったら、正直な感想を聞かせてほしい」


さくらは笑顔で頷いた。深夜の社員食堂に、二人分の料理音が響き始める。窓の外では、東京の夜景が静かに輝いていた。


こうして始まった深夜の商品開発は、さくらの人生を思いもよらない方向へと導いていくことになる。だが、その時の彼女は、まだそんなことを知る由もなかった。

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