僕は振られたキミに恋する

@sink2525

第1話 キミに恋する

 春は出会いの季節だとか、別れの季節とか、そんな綺麗ごとで解決できる季節じゃない。

 

 悲しいなんていう感情は気持ちなんかで説明できないし、まして、言葉でなんて説明できない。だから、春はこんな季節なんて簡単に言うもんじゃない。

 桜がひらひらと散る時は必ずどこかで寂しい想いをしている人が居ると思う。

 

 まさに、俺は今寂しい想いなっている。

 

 脳では駄目と理解していても、心ではどこか逃げ道を作り考えてしまう。『この人を愛したいと』絶対に駄目だと分かっているのに。

 脳はいつも冷静な判断をしていて、心はいつも駄目な考えばかりしてしまう。

 

「私、明日告白しようと思うの」

 

 紙に視線を向けながら喋るのは、山田沙也加。

 

 沙也加は、中学からの友達で、高校2年生になった今でも仲が良い。

 

 そんな、彼女は去年から恋をしたらしい。どんな人なのか訊いたことがあるが教えてはくれなかった。

 

「そうなんだ」

 

 俺、斎藤誠は沙也加のことが好きだ。好きだからこそ沙也加の恋を応援している。俺が邪魔をする権利なんてないし、今更好きなんて言えるはずがない。

 だからこそ、応援するしかない。

 

「私が先にリア充になっちゃうね!!」

 

 ニッコリと笑う沙也加は、桜の木より美しく、太陽よりは明るくなかった。

 

 俺は今、どんな顔をしているんだろう。

 

 いつも隣に居た彼女が誰かに恋をし、俺の隣からいなくなる。正直怖い。

 

 困ったときいつも助けてくれる。

 年明けてすぐに『あけおめー』なんていう、連絡を一番にするのはいつも沙也加だった。

 そんな、存在は明日、告白に成功したら、いなくなってしまう。だから、怖い。

 

「うん」


 俺は、バレないように空元気を演じる。

 

「私が居なくなるの寂しい?」

 

「ちょっとね」

 

「ちょっとなの?!」

 

「ちょっとだよ、それに、俺は応援してるし」

 

「ふーん」

 

「なんだよ?」

 

 誠は怒ったような仕草をする。

 

「なんでもないよ!」

 

 沙也加は意地悪そうに笑う。

 

「じゃあ、私は帰ろうかな!! 明日が楽しみだし」

 

 沙也加は立ち上がり鞄を持つ。

 

 いつもとは違う顔で「バイバイ」と言いながら手を振り、教室を出る。

 

 俺は沙也加の背中を眺めることしか出来なかった。正直なんて言えばいいのか分からない。

 

 応援しているって言ったけど、あれは嘘だ。応援なんてできるはずがない。

 

 好きな人から受ける恋の相談は想像10倍辛い。

 

 その人のいい所を毎日聞き、どのように告白するかとか、どうやってデートに誘おうとか。

 そんな、相談ばっかりで、耳が辛くなる。

 

 こんな、たくさんの相談を聞いて応援できない俺はおかしいのかな。

 

 天井に視線を向ける。

 

「諦めたくねぇよ」

 

 震える声が、教室を深海にする。どこまでも深い深い海に染める。

 

 誠は机に伏せる。

 

 泣いているのを隠すために、この現実から逃げるために。

 

 そして、沙也加は振られた。

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