5. 赤いシミとの遭遇
問題の部屋に入った4人は、中央の床の鮮明な赤いシミと、壁には朱色の手形のようなものが幾つか浮き出ていた。
さっきまで怖がっているように見えた大樹は、さっとカメラを向け写真を撮り始める。
悠一はシミの端っこの一部に小型の瓶に入っている試薬を振りかけた。
「これ、血液反応じゃない。でも奇妙だな・・・普通の染みなら、ここまで鮮明な赤色で残ることはないと思う」
大樹はカメラからビデオに切り替えて撮影しようとした瞬間、顔色が変わった。
「なんだこれ・・・・おかしいぞ。肉眼で見るのと全然違うぞ」
レンズ越しに見るとシミが奇妙に動いて見えた。
大樹が撮影した映像を確認すると、しみの中に何か人の形をした影が浮かび上がっている。
「ふざけないでよ、それなにか編集してない?」
そう言う美羽の声が微妙に震えているのが分かった。
「やはりただの噂じゃなかったんだ・・・・・私、これを見た瞬間、祖母の言葉を思い出したの」
遥香の祖母はこの屋敷で昔、住み込みのメイドをしていたようで、「あの屋敷には絶対に近づくな」と口癖のように繰り返しながら、遥香が小学生の頃に他界した。その理由は決して誰にも明かそうとはしなかったのだ。
遥香がそっとそのシミに近づき、「何が起こっていたの・・・・この部屋で・・・」とつぶやいた次の瞬間、窓が大きく揺れ、強い風が部屋に吹き込んだ。美羽と大樹は驚いてあとずさるが、遥香は動じることなく手をかざし風に向かって前進していた。遥香を支えるように悠一も窓際へと足を進めた。
「ここには、何か目に見えない‟仕掛け”があるはずだ」
悠一の目が鋭く光り、ベットのマットレスをゆっくりとずらし始めると、他の3人は緊張した面持ちでその様子を見守っていた。
マットレスの下からは、古びた木の板がむき出しになっていた。
「これ、ただの床板じゃないな・・・・・」
悠一が低い声でつぶやくと、遥香そして大樹の後ろから美羽がのぞきこんだ。
手で床板を叩くと、コンコンと鈍い音が響いた。
「中は空洞だ」
「空洞・・・・?」
大樹は後ずさりながら悠一を止めようとした。
「おいおい、やめようぜ。こういう時って絶対ヤバいものが出てくるだろ・・・・」
遥香は大樹の腰のあたりに手を当て、ポンポンと優しくボディタッチした。
そして真剣な表情で悠一に目を向ける。
「ここまで来たんだから確かめないと。このシミと手形の意味も、全部そこに繋がってるはずよ」
「町田君・・・開けてみて」
美羽の小さな声は少し震えているように聞こえた。
悠一は無言で頷き、工具を取り出すと、床板の隙間にバールを差し込んだ。
ギシッ、ギシッ、と木材のきしむ音が部屋中に響く。
そして— — ―
バキッ!
床が外れ、そこには真っ黒な闇がぽっかりと口を開けていた。
「うわ・・・・地下室?」
大樹は思わず息をのむ。
「いや隠し部屋のようだな」
悠一が懐中電灯を照らすと、そこには石段が続いおり、その先がどのくらい深い場所にあるのかは未知である。
「かなり古そうに見える・・・・人が通るように作られているな」
「うっ・・・・何か匂いがしない?」
美羽はマスクの上から鼻を押さえた。
「湿気と・・・・カビ?いや違う。もっと何か腐ったような・・・・」
遥香はマスクをずらしその匂いを嗅ぐ。
「とにかく降りてみよう」
恐れを感じさせない口調で言い、遥香は先頭に立って階段を降りようとした。
「怖いなら上で待っていていいわよ」
「冗談言うなって」
大樹はため息をつきながらカメラを構えて、怖さを吹き飛ばすかのように大きな声をあげた。
「ほら、行くぞ!!」
悠一は、またもや遥香を優しく自分の後ろへとエスコートしながら、大樹に後ろを任せた形で女子を少しでも危険から守ろうとしていた。この時ばかりは、大樹も美羽を絶対に守る決意を固め恐怖に打ち勝とうとしていた。
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