第5話 Chapter5 「鉄騎兵米子 1/2」
オリーブドラブに塗られたバイクが5台、短い傾斜を登ると次々に勢い良くジャンプした。着地したバイクはその まま走り、大きく右にカーブすると停止して倒れた。倒れたバイクを盾にして迷彩服の隊員達が89式小銃をセミオートで射撃する。米子も89式小銃を連射した。バイクはKawasaki KLX250を基にした自衛隊仕様の偵察用のバイクだ。
米子は富士の裾野にいた。陸上自衛隊が管轄する東富士演習場だ。米子は自衛隊の偵察レンジャーに交じって訓練を受けていた。訓練期間は2週間だが早朝から夜遅くまで実施された。訓練内容はバイクによる不整地の走行、敵中を突破しながらの偵察、障害コースのタイムトライアル、バイクに乗ったままの射撃等多岐に渡った。射撃はバイクを走らせながら座ったまま射撃するパターンと、ステップに足の裏を乗せて立ち上がって射撃するパターンがあった。どちらも両手離しで89式小銃をしっかり構えて撃つのだ。さらに高度な技として、教官は走行中のバイクのシートの上に立っての射撃をする技術を披露した。この技は最高難易度の技として駐屯地の祭りで一般市民にデモンストレーションとして披露される事もある。
「訓練は4日目に入った。まだ脱落者はいない。教官の模範演技のシートの上に立った射撃はお前達にはまだ早い。だが訓練をすれば可能になる事を覚えておけ」
草加陸曹長が叫んだ。
「レンジャー!」
隊員達5人が並んで大きな声で返事をした。その中には米子もいた。
「この合宿ではバイクを体に一部にするのではなく、お前達がバイクの一部になるんだ! わかったか!?」
「レンジャー!」
「今回の訓練では民間からの参加者がいる。しかも女性だ。みんなも気になってただろう。しかし遠慮はしない。付いて来れない者は駐屯地に帰ってもらう。沢村訓練生、前に出て挨拶しろ」
「レンジャー!」
米子は前に出た。服装は自衛隊の迷彩服戦闘服2型で黒いブーツを履き髪の毛はポニーテールにしていた。首にはピンク色のスカーフを巻いていた。その姿は凛々しく、アクション映画のヒロインのようだった。隊員たちは色違いのスカーフを首に巻いている。教官が認識しやすくする為だ。
「自分は沢村米子、17歳であります。内閣情報統括室から参加しました。訓練は厳しいですが合格できるよう頑張ります!」
米子は挨拶した。
米子は教官達が使用する大型テントにいた。
「君は女子高生だな。バイクの運転はなかなかだ。いつ、どこで訓練を受けたんだ?」
草加陸曹長が訊いた。
「はっ、中学生の時であります。場所は内閣情報統括室の北海道の訓練所であります」
「ほう、あそこは厳しい所だ。だがここも厳しいぞ。ここはバイク戦闘の訓練専門だ、今回訓練を受けているのは全国の駐屯地から推薦されて来た猛者だ。合格すれば偵察部隊への転属もある。しかしもっと強くなりたいなら空挺レンジャーで訓練を受けるといい。空挺団はバケモノの集まりだ。それと『○○であります』とうい言葉は使わなくていい。君は民間人だ、普通の敬語でいいよ」
「了解しました」
米子は2週間、演習地内のプレハブで寝起きした。他の訓練生は各駐屯地から来た男性の隊員だったが米子が特別扱いされる事はなかった。寝る部屋だけは別だったが、
シャワーもトイレも男達と同じ物を使った。米子は宿舎内の狭い食堂のテーブルで戦闘食を食べていた。パックの白米とレトルトのシチューと缶詰に入った沢庵とスポーツドリンクだ。
「沢村訓練生は17歳だって? 高校生の歳だよな?」
隣のテーブルに座る吉岡1等陸士が話しかけたきた。
「はい、高校に通ってます」
「へえ、現役の女子高生か。まあ詳しい事は聞いちゃいけないルールだけど、諜報機関にいるんだろ?」
吉岡1等陸士と同じテーブルに座っていた島田3等陸曹が訊いた。
「内閣情報統括室の配下です」
「ほお、実際に戦闘をしたり人を殺したことはあるの?」
「それにはお答えできません」
「こんなカワイイ娘なら殺されてもいいよな」
島田3等陸曹が笑顔で言った。
「本当ですね。アイドルみたいなルックスだ。アニメのヒロインみたいだな」
吉岡1等陸士が言った。
米子は必死に訓練を行った。高速でのジャンプ、敵弾を避ける為に姿勢を低くしてバイクに密着する走行、通信や射撃をしながらの走行、走行しながら地面に置いた物を拾う訓練等、特殊な走行を行い何度もバイクで転倒し、腕と足は傷だらけだったが確実にバイクと一体になっていった。
最終テストはタイムトライアルだった。獣道のような細い道を時速60Kmで走り、窪地や障害物の壁を飛び越え、細い一本橋を渡る。走行しながらの射撃もあり、コースの所々に爆薬が仕掛けられ、激しく爆発した。米子はテストコースをバイクで疾走した。減点は1点もなく、タイムは2位で総合ではトップの点数だった。
【群馬県訓練所】
ミント達はベース小屋の前に並んでいた。
「今日は戦闘チームの1軍が相手だ。全部で3回戦だ。1回戦は通常戦闘で交戦距離は300mから開始する。2回戦は敵の防御戦だ。俺達は敵の2階建ての小屋を襲う。防御する敵が有利だ。3回戦は通常戦闘だが交戦距離は不明だ。お互いの布陣が不明のまま開始する。前回は1勝2敗だが、相手は1敗した事に納得がいかないようだ。今回は本気で来るぞ。しかも1軍の選抜メンバーらしい」
木崎が言った。
「米子は参加しないの?」
ミントが言った。
「参加する予定だがまだ来てない。連絡を取りたいが外部との連絡は無線以外手段が無い」
「まあ、樹里亜ちゃんも瑠美緯ちゃんも強くなってるし、今回は勝ちに行くよ!」
ミントが力強く言った。
「ミントさん、狙撃銃とアサルトライフルどっちを使いましょうか?」
樹里亜が訊いた。
「狙撃銃を使って。スナイパーがいると作戦の幅が広がるんだよ。相手にとっては凄い脅威だよ」
ミントが言った。
「ミント、俺はM240で弾幕を張るぜ」
パトリックが言った。
「パトちゃんお願いね。それと今回は模擬手榴弾が使用可能になったから、接近戦になったら頼んだよ。パトちゃんの手榴弾遠投力は90mだよね、手榴弾は1人3発だけど、樹里亜ちゃんと瑠美緯ちゃんはパトちゃんに2発手榴弾を渡してね」
「9発か。まかせろ! 戦闘は膠着したら接近して手榴弾を投げまくるぜ」
「じゃあ行こうか。コードネームは惑星シリーズだよ」
「ミント、ちょっと待て。コードネームは俺の考えたのを使ってくれ。今回は俺の案にする約束だろ」
木崎が言った。
「どんなコードネームなの?」
「ミントは『ラット』、パトリックは『オックス』、樹里亜は『タイガー」、瑠美緯は『ドラゴン』で俺は『ゴット』だ。いいだろ? 干支シリーズだ、次はスネークから使える』
「いつもより少しマシだけど、多数決だね。樹里亜ちゃんどう?」
「惑星がいいです」
「瑠美緯ちゃんは?」
「断然惑星です!」
「パトちゃんは?」
「ミスター木崎には悪いが、干支はアメリカ人には馴染みがないから惑星だな。『サターン」は結構気に入ってるんだ』
「決定だね、私は『ビーナス』、パトちゃんは『サターン』、樹里亜ちゃんは『ジュピター』、瑠美緯ちゃんは『マーキュリー』、木崎さんは『ギャラクシー』だよ」
「おいっ、樹里亜は『タイガー』で瑠美緯は『ドラゴン』だぞ! カッコイイだろ!」
「『マーキュリー』の方がいいです。慣れましたし米子先輩の案なんで」
瑠美緯が言った。
「タイガーも悪くないですけどジュピターに慣れました」
樹里亜が言った。
「でも米子先輩の『マーズ』がいないのが寂しいです」
瑠美緯が言った。
「だよねー、米子の声で『こちらマーズ、各位射撃せよ』みたいな指示があるとテンション上がるんだよね」
ミントが言った。
「お前達ズルいぞ! 約束しただろ。今回は楽しみにしてたんだ」
木崎が抗議する。
「約束じゃないよ。木崎さんが勝手に言ってただけだよ」
ミントが言った。
1回戦と2回戦はニコニコ企画が勝利した。1回戦は樹里亜の正確な狙撃とパトリックの手榴弾の遠投が敵を焦らせ、終始有利に戦いを進めた。樹里亜が早々に敵のスナイパーを倒したのが大きかった。2回戦は瑠美緯が敵の小屋の屋根に登り、ロープを使って降下しながら窓から手榴弾を投げ込んだのが勝利のポイントになった。
「お前達よくやった! 2勝だぞ、凄いな 相手は1軍だ、大金星だ!」
「今回の敵は強かったよ。射撃が正確だったし、動きも速かったよ。展開されたら負けてたよ。前回までの私達だったら勝てなかったよ。樹里亜ちゃんの狙撃で敵の動きを抑え込んだのが勝因だよ。瑠美緯ちゃんの屋根からの攻撃も凄かったよ。特別訓練を受けた成果だよ。パトちゃんの遠投も凄かったね。迫撃砲みたいだったよ」
「3回戦はルールの縛りが無いからかえって難しいな。向こうもプライドがあるから全力で来るだろう。しかもこっちが2勝してるからハンデで相手は6人だ」
木崎が言った。
「次は私とパトちゃんのチームと樹里亜ちゃんと瑠美緯ちゃんの2チームに分かれるよ。私のチームは『サムライ』、樹里亜ちゃん達は『ニンジャ』だよ」
「サムライか。いいじゃないか。ミントと米子は命名のセンスがあるぜ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます