第30話「最上級学年での新たな挑戦」

 総合戦術大試験が終わり、あれから時が過ぎ、ついにワシも学院で最上級学年に進んだ。激戦を経て準優勝したあの日から、努力と知略を重ね、N級からM級に近い実力を得たことは周知の事実だ。学院中が、次にワシがどこまで伸びるのか期待しているような空気が漂っている。


 朝、寮を出て校庭を歩くと、リールが先に来て待っていた。彼女もまた、この1年でさらなる成長を遂げることを目標にしているらしく、毎日の訓練に余念がない。

 「おはよう、バル。」リールが微笑む。「もう最上級学年だね。この1年で卒業時までにK級相当を目指すって話、あんたは本気なんでしょう?」

 ワシは頷く。「ああ、L級と死闘して得た教訓を活かし、M級安定からさらに上へ行く。K級に近づけるなら、その先の世界も変わるはずだ。卒業前にそこまで力を上げたい。」


 リールは嬉しそうに目を細める。「じゃあ、あたしも全力でついていくわ。あんたより先にK級へ行く気はないけど、できる限り刺激し合って、互いを引き上げましょう。」

 ワシは微笑んで、「頼むよ。あんたとの切磋琢磨は、ワシがここまで成長できた大きな要因だからな。」と答える。


 学院は最上級学年向けに多彩な特別講座や試験を用意している。M級相当の魔物を標準的に攻略できるようになるための上級戦術講座、複雑な地形での資源確保訓練、さらにはL級を視野に入れた基礎強化メニューも存在する。

 「これらのメニューを全部こなせば、着実に底上げできるだろう。」ワシは配布されたスケジュール表を眺める。

 リールが隣で首をかしげる。「ただ、カリキュラムが豊富すぎて、全部受けるのは無理だよ。どれを選択し、どんな戦術分野を優先するか、頭を使わないとね。」

 「その通り。M級対応を安定させるためには、まず短期決戦を極める。地形対応や資源確保は既に経験済みだが、さらに複雑な罠や干渉要素があれば、新戦術を開発しなきゃいけない。」


 昼食後、ワシは資料室で戦術書や過去の上位生の記録を読み込む。先人たちがM級魔物を攻略した秘話や、L級に挑む際の心構えなどが断片的に記されている。そこから得られるヒントをメモし、リールにも共有しようと思う。

 「M級魔物は既に慣れてきたけど、正面から圧倒するにはまだ足りないな。」と心中で思う。L級と互角に渡り合った一瞬があったとはいえ、それは奇策や知略で得たもの。実力をさらなる地平まで引き上げるには、剣技や身体能力、魔力制御など基礎力をもう一段鍛える必要がある。


 夕刻、訓練場でワシは短剣を振るい、ステップワークを繰り返す。リールは少し離れた場所で魔力制御の訓練を行っている。二人は別々に鍛えつつも、お互いを意識し合い、時折視線を交わす。昨年までの競い合いが、今では互いを高め合う関係に変わっているのを実感する。


 ワシが短剣を振る手を止め、ふと考える。この一年間で学院は何度も試験や大会、特別任務を用意するだろう。M級魔物との変則戦から始まり、いつか再びL級クラスへの挑戦が訪れるかもしれない。K級を目指すには、M級を完璧に捌く段階を経て、実力を段階的に上げていく以外に道はない。


 「足元を固め、M級を確実に仕留め、そしてL級に再挑戦できる日までにK級に近づく。焦るなよ、まだ1年あるんだ。」心中で自分を落ち着ける。


 夜、寮に戻り、ノートを開いて今日の成果を記す。M級安定に向けた基礎強化プラン、地形対策メニュー、魔力制御微調整法、すべて少しずつ進めれば、月ごとに成果が出るはず。

 ワシはペンを走らせながら、明日以降の計画を練る。学内には小規模な模擬戦や定期試合が予定されている。そこでも知略を活かし、M級戦法を練習するつもりだ。


 ベッドに潜り込み、窓から夜空を見上げる。L級に一度は互角に渡り合ったとはいえ、あれは奇跡的な状況の産物だったかもしれない。今度は実力で追いつき、卒業までにK級手前まで行く。長い道のりだが、リールや仲間たちがそばにいる限り、不可能ではない。

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