第27話「決勝戦―L級との死闘」
準決勝を勝ち抜き、ついに決勝戦が幕を開けることとなった。驚くほど多くの観客がアリーナを埋め尽くし、学院長代理や主力教師陣、さらには覇刀連や王国騎士団の代表までもが観覧席に陣取る一大イベントへと発展している。学院最強と言われるLクラスの生徒との対戦カードが確定した瞬間、会場は熱狂的な歓声と興奮に包まれた。
ワシが対峙する相手は、名実ともに最強のLクラス戦士。その存在は伝説じみて語られ、在学中にすでにM級を圧倒し、上級魔物を単騎で制圧した逸話もあるという。これまで対戦したN級、Mクラス戦士よりはるか上の存在だ。だが、ワシは一歩も退かない。ここまで来たら知略と技術を全開にし、挑むしかない。
リールやガルス、先輩たちが観客席から見守る中、ワシは静かに出番を待つ。歩みを進めると、アリーナ中央にLクラスの相手が立っている。整った体格、鋭い目、落ち着いた雰囲気――完璧な戦士の風格を漂わせている。ワシが一瞬でも気を抜けば、瞬時に叩き伏せられるだろう。
開始の合図が鳴る。Lクラス相手に、ワシの短期決戦や誘導戦術がどれほど通じるか。まずは探りから入る。ワシは足場や周囲の柱、簡易的な障害物を利用し、音と微妙なステップで相手の注意を散らそうとする。だが、Lクラス戦士は全く焦らない。わずかな音にも冷静に対処し、光不在の戦術では弱みがあるワシを射抜くような視線を送ってくる。
「やるな…」心中でワシは感嘆する。Lクラス戦士は、誘導にはそう簡単に引っかからない。むしろ、ワシが小細工を仕掛けた瞬間、逆に読み切られそうだ。ならば一瞬の勝機を作るために、ワシは大胆なフェイントを試す。音を出し、あえて弱い方向へ誘導するフリをして、逆方向から高速で踏み込む。
Lクラス戦士は軽く剣を構え、ワシの突進を迎え撃とうとする。このまま正面から行けば間違いなく弾き返される。ワシは寸前で足の角度を変え、奇妙な軌道を描く。会場がどよめく中、一瞬の混乱でL戦士が剣先をわずかにずらすのを見逃さない。ワシはその隙に胴体へ浅い一撃を入れることに成功。
「当たった…!」観客が驚きの声を上げ、リールが目を見開いているはずだ。だが、Lクラス戦士はほとんど動揺せず、瞬時に間合いを取り直し、巧みなステップでワシの死角を突いてくる。速度も力も、まるで別次元だ。
追撃が鋭く、ワシは回避に専念する。だが、一瞬の読み合いから、ワシはまた音を使い、敵が攻撃する瞬間に音源を別方向で鳴らすことで剣先を微妙に狂わせることに成功する。「まだだ、まだ通じる!」とワシは心中で叫ぶ。このやり取りが続く中、Lクラス戦士はますます目を細め、ワシの戦術を見切ろうと集中しているようだ。
やがて、僅かな油断が相手に生じた瞬間、ワシは最大の賭けに出る。一度正面から接近して、すかさず側面へ動く二段階フェイント。Lクラス戦士が正面防御を固めた瞬間、ワシは足元に転がっていた小石を音源代わりに活用、別方向から音を立てて注意を逸らし、一瞬の隙間に剣筋を滑り込ませる。
刹那、Lクラス戦士が驚いたように剣を振るが、ワシの短剣が肩口にかすった。これで2度、軽微だが相手に一撃を与えることに成功した。会場が大喝采をあげ、リールが涙目で「いける!」と呟いているのが遠く感じる。
だが、Lクラス戦士はここで本気を出してきたのか、ワシの動きすら読んで反応速度を上げてくる。ワシが次の誘導を試みた瞬間、相手は逆に音が立つ方向を無視し、ワシの体の微妙な重心移動を見抜いて先回りするように剣を突き出してきた。
次の交錯で、ワシは初めて致命的なカウンターを受けかねない状況になる。寸前で身をひねって回避し、小さな傷で済ませるが、完全にLクラス戦士がワシのリズムを掴み始めた。
時間が経つにつれ、Lクラス戦士とワシの勝負は互角に渡り合う展開が続いた。やがて審判が「時間切れ!」を宣言する。結果は引き分け。決勝で引き分けるなど、ほとんど例がないため再戦が決まる。
観客が息を飲む中、短い休憩後の再戦が始まる。ワシは消耗が激しく、既に音と足捌きのフェイントを何度も使っている。相手も僅かに傷を負っているが、まだ体力が残っている様子。今度はLクラス戦士が慎重かつ的確に距離を詰めてくる。
再戦では、Lクラス戦士が一切隙を見せない。ワシが音や側面移動で揺さぶっても、相手は全て読み切るように対応し、一瞬の余地も与えない。ついにワシは剣先を受け流せず、浅いが確実な一撃を被弾し始める。回避が追いつかず、じわじわ追い込まれる。
「ここまでか…」心中で悔しさが込み上げるが、ワシは最後まで足掻く。可能な限りのフェイントを試み、少しでも有利な位置を狙うが、Lクラス戦士は全て対処し、決定的な一撃でワシを倒し、勝負あり。
大歓声と惜しみない拍手がアリーナを満たす。ワシは地面に膝をつきながら、相手の強さと自分の限界を痛感する。引き分け後の再戦で敗れたが、あれほどのLクラス戦士相手に一度は引き分けを得たのだ。準優勝という結果は驚異的な快挙といえる。
審判が「準優勝、バルフォール!」と名を呼ぶ。観客席でリールが涙を浮かべながらも笑顔で手を振っているのが見える。ガルスたちN級仲間も、皆ワシを称賛している。L級の相手と互角に渡り合い、一度は引き分けまで持ち込んだ事実は、ワシの実力がNから大きく伸び、Mクラスに近いほどまで高まった証だ。
Lクラス戦士が近づいてきて、小さく礼をする。「君の戦術は驚異的だった。もう少しで逆転されていたかもしれない。」
ワシは汗を拭きながら苦笑する。「あんたの対応力は見事だったよ。ワシの奇襲も全部読まれた最後は完敗さ。」
後日、学院はワシのランク評価を更新こそしないものの、事実上Mクラス近くまで実力を伸ばしたと内々に評価する。卒業前にここまで成長するなど前代未聞。
リールが控え室で出迎え、「あんた、すごかった! Lクラス相手に一度は引き分けなんて…。」と興奮気味だ。
ワシはほっと息をついて「ありがとな。応援が力になった。これでワシはMクラス並みの戦力に近づいたはずだ。」
リールは目を潤ませ、「誇りに思うわ。あたしももっと頑張る。」と笑顔を見せる。
こうして総合戦術大試験は幕を閉じた。ワシは準優勝に終わったが、得たものは計り知れない。N級からMクラス相当まで実力を伸ばし、L級にさえ一度は互角に渡り合う経験を積んだ。それは、卒業後の世界で大いなる武器となるだろう。
夜、寮の部屋でノートを開き、今日の戦いと成果を記す。二度目の人生でここまで来れたこと、リールたち仲間の支え、そして自身の知略が通用する手応えが嬉しい。
「次は卒業後だな…」心中で小さく呟きながら、ワシは瞼を閉じる。満天の星が夜空に輝く中、明日からの新たな挑戦を思い描く。
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