第25話 「総合戦術大試験予選」

 ついに総合戦術大試験の初日がやって来た。学院中庭は特設ステージや観覧席で埋め尽くされ、朝早くから学生や教員、外部の観察者まで大勢が集まっている。参加者たちは武具を整え、戦術メモを確認しながら出番を待つ。


 ワシとリールはステージ脇で待機していた。この大試験は個人戦が基本で、チーム戦や同盟は状況次第で許可される特殊ルールらしいが、最終的な順位は個人単位で決まる。ワシは一人一人と対戦、あるいは課題クリア競争を通じて勝ち抜く必要があると説明を受けていた。

 「ワシら、こういう大人数の大会だと、あんたと組んで戦えないかもしれないね。」リールが少し寂しそうに言う。

 ワシは苦笑いして肩をすくめる。「まあ、しょうがない。今回の試験は個人評価が中心だ。けど、同盟は状況によって認められるんだろ?必要になれば、声を掛け合えばいい。」


 参加者数はかなり多い。Nが30人、Nに近い学生が50人、Mクラスが2人、Lクラスが1人。このLクラスの人物は学内最強と名高い伝説的な生徒で、誰もが警戒している存在だ。Mクラスの2人も有名な上級生で、N級たちから一目置かれているらしい。

 「最終的には上位実力者同士が激突することになるだろうね。」リールが神妙な顔でつぶやく。「ワシはN級だから、MやLクラスにはまだ及ばないかもしれない。でも戦い方次第で食い下がれるんじゃない?」


 ワシは自信を込めてうなずく。「ああ、ワシは光と音の戦術、誘導、即断即決の短期決戦を磨いてきた。たとえM級、L級相手でも、戦い方と状況によっては渡り合えるはずだ。まずは予選で実力を出し切って、上へ進む。それが最初の目標。」


 予選ラウンドは、広大な模擬フィールド内で複数人同時に課題クリアを競い、上位成績者が次へ進む方式。M級相当の魔物が点在し、いかに早く資源を集め、魔物を倒し、指定エリアに到達するかが問われる。魔物を倒さなくてもいいが、邪魔なら排除する必要がある。もちろん他の参加者とも競合状態で、資源を奪い合う場面もありえる。


 スタートの合図が鳴り響き、参加者たちがフィールドへ散らばる。ワシは周囲を素早く観察し、N級やN級近いレベルの学生たちが多くいることを確認する。M、Lクラスは別エリアからのスタートらしく、今は姿が見えない。

 「ここはN級の得意分野だな。光で魔物を誘導して、サッと資源を手に入れて先へ進もう。」ワシは自分に言い聞かせるように心でつぶやく。


 早速、N級近い学生がワシと同じ資源(特定の魔石)を狙って動き出した。彼らはまだNに達していない者もいるが、実力はそこそこ高い。だが、短期決戦戦法を得意とするワシにとって、これまでに磨いた戦術が生きる。

 光魔法はリールがいなければ本来使えないが、今回は一人だ。代わりに、ワシは音と地形を用いて相手を惑わすことにした。音は道具を使えば簡易的に出せる。小さな鈴を振って相手の注意を逸らし、敵がそちらへ向いた隙に反対方向から回り込む。


 対戦相手が魔物と交戦を始めた瞬間、ワシは低木の裏から音を立てて相手をチラッと見る。相手は気を取られ、ほんの一瞬足が止まる。その刹那、ワシは斜め方向にステップし、魔物が放った攻撃が相手に近い位置をかすめる。相手が混乱する中、ワシは冷静に安全ルートを確保し、指定の資源へ一直線に向かう。


 複数のN級近い参加者が同時に資源を狙ってくる場面もあるが、ワシは焦らない。なるべく魔物の存在を利用し、相手同士をぶつけ合うように動線を作り、ワシはその裏をすり抜けて目的物をゲット。

 「これで目標の一つクリアだ。次は指定エリアへの到達…」とワシは冷静に次のステップを考える。


 途中で別のN級者が立ちふさがろうとするが、ワシは音を用いて微妙なフェイントをかける。踏み込むフリから逆方向へ飛び退き、相手がこちらを追おうとした瞬間に背後から魔物が一撃を加えるように誘導する。結果、相手は魔物に邪魔され、ワシはスムーズに進行可能となる。


 こうして、予選ラウンドはワシが誘導・欺瞞戦術を駆使して、ほとんど魔物と直接戦わずに課題をクリアすることに成功する。N級30人、N近い50人が入り乱れる中、ワシは最小限のリスクで最大の成果を収め、上位で予選通過を果たした。


 ゴール地点で息を整えながら、ワシは内心で笑みを浮かべる。「力任せでなく、戦場を支配するような立ち回りが通用した。知略を存分に発揮できたな。」

 観覧席のリールが遠くから手を振り、口の動きで「すごい!」と言っているように見える。ワシは軽く手を上げて応える。これで予選は突破、次は準々決勝以降の本戦ステージで、M級やL級の強者たちとも対峙する機会があるはずだ。


 夜、寮の部屋でノートを開き、今日の動きを振り返る。N級やN級近い相手には戦術が十分通用した。次はM級、そして最終的にはL級相手の展開も考えねばならない。今の自分なら、戦い方次第でM級戦士に近づく力を発揮できるだろう。


 微笑みながら瞼を閉じる。まだ先は長いが、第一関門を突破した。知略を駆使することで、力の差があっても渡り合えるという自信が、胸に湧き上がってくる。






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