第23話「さらなる安定と将来への足がかり」
ついにローテーション任務の初日がやってきた。朝、指定された集合場所でリールと合流する。お互い前夜からしっかり休み、装備点検も入念に済ませている。今日から数日の間、N級ペアが交代でエリアを巡回し、M級魔物の活動を抑える計画だ。
「準備はいい?」とリールが尋ねる。彼女の瞳は不安より期待に輝いている。「もちろん、万全だ。お前は?」ワシが問い返すと、リールは力強く頷く。「ええ、心配ないわよ。」
並んで歩きながら、ガルスや他のN級者が別方向へ出発していくのが見える。皆それぞれペアを組み、各々のスタイルでM級に挑むのだろう。N級連絡会での知見が生きる場面だ。
今回のエリアは小高い丘と谷が連なり、川が入り組んでいる地帯。湿度が高く、視界がやや悪い。こうした条件下で、光と音、そして地形をどう活かすかが鍵になる。
「もし霧が出てきたら、どう動く?」とリールが声を落として問う。
「霧なら、強い光を放つと拡散して逆効果かも。むしろ弱い光点を複数出して敵の位置推定を曖昧にさせ、音で誘導する作戦を試そう。」
「わかったわ。それに、もし一度魔物を誘導して体勢を崩したら、次はすかさず急所を狙って決着をつける。M級相手なら一撃必殺は十分可能よね。」
「当然だ。あの時のように、短期決戦で行こう。」
歩みを進めると、林の中から奇妙な声が聞こえてくる。低い唸り声と枝を折る音。M級魔物だろうか?二人は視線で合図を交わし、物音のする方向へ慎重に近づく。
複数の影がちらついているように見える。リールが光を弱く揺らめかせ、あたかも道標を示すように光点を木々の間に散らす。ワシは音を小さく出し、敵が音源へ注意を向けたら逆方向から光を少し強めて攪乱する計画だ。
しばらく観察すると、狼型M級魔物が2体いるようだ。彼らは光点に気を引かれ、耳を澄ませているが、はっきりした方向を掴めない。リールが光を弱めてから突然一瞬強めると、狼たちは反射的にそちらへ目を向ける。その隙にワシは音源を反対側から鳴らす。敵は光と音に挟まれ、混乱に陥っている。
「今だ!」と心中で呟き、ワシは足音を抑えて背後へ回る。リールも光を微調整し、狼が目を離せないよう誘導する。あと数歩、あと一歩で急所に手が届く。
一撃、短剣が狼の首筋を貫き、素早く引き抜く。狼がうめき声を上げ、地面に崩れる。もう一匹が咄嗟に飛びかかろうとするが、その瞬間リールが光量を急激に上げ、狼が目を逸らす瞬間を作る。ワシはすかさず反転して次の狼へ踏み込み、横なぎの斬撃で胸元を裂く。
わずか数呼吸の出来事だった。2体のM級魔物がほとんど抵抗できぬまま沈黙する。「成功ね」リールが微笑み、軽く息をつく。
今回の戦法は、ただ盲目的に光を使うのでなく、弱め強めを巧みに使い分け、音と組み合わせて敵の反応を誘発する高度な手口。N級2人がここまで洗練した戦術を使えるとは、自分たちでも驚くほどだ。
リールは輝く瞳で「完璧だったわ、あんたが背後を取るタイミング、音を出すタイミング、全部計算通り。あたしも光を好きな強度でコントロールできた。」
ワシは笑顔で「お前の魔力制御が安定してなきゃ成功しなかったさ。2人の息が合ってこそ、理論上だけだった戦術が現実になった。」
この結果を学院へ報告すれば、また新たな戦略拡張の材料になる。N級2人でM級魔物を余裕で制圧できるなら、より難度の高いL級領域を見据える際にも自信になる。
暫くエリアを巡回し、他に脅威がないか確かめるが、今回はこれで十分だろう。交代シフトで他のN級ペアが来るまで、短時間で任務完了できたのは上出来だ。
帰り道、リールが上機嫌で鼻歌を口ずさんでいる。「なんか楽しいわね、あたしたちの戦術がどんどん成功して、しかも一緒に行動する時間が増えてるんだもの。」
ワシは肩を並べて歩きながら頷く。「成功が積み重なると、気持ちにも余裕が出る。卒業までにまだ時間はあるし、N級同士でM級魔物を捌く経験を積めば、そのうちL級挑戦も夢じゃない。」
リールは「L級…」と一瞬遠い目をするが、すぐに自信満々の表情に戻る。「あんたとならいずれ行けるわ。今はM級で基盤を固めて、必要な人数や戦術を蓄えれば、L級にも通用するはず。」
学院へ戻ると、これまでと違う心の軽さを感じる。N級になり、M級を制する術を確立し、仲間や恋心めいた感情さえ育んでいる。すべてが順調だ。
夜、寮でノートを開き、今回の成功を詳しく記す。光と音の併用戦術が実戦で通用した点、ローテーション任務を余裕でこなせた点、N級2人でM級複数を倒す方法が確立した点――これらは将来の大きな資産だ。
リールとの距離は、もはや言葉が要らないほど近い。戦場で背中を預け、日常で笑顔を交わし、戦術を練っては成功に導く。その暖かな絆が、厳しい戦いをも楽しみに変えつつある。
窓の外には静かな月。M級を軽々と倒せるようになった今、上位へ進む準備は着実に進んでいる。卒業後に本格的な鍛錬が待つことを心中で理解しながら、今は学院生活の充実を享受する。
「明日はまた新しい戦術を試そう。」微笑みながら、ワシは瞼を閉じる。リールの笑顔を思い浮かべ、眠りの中で次なる挑戦と幸福を噛み締めていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。