第21話 「N級連絡会の深化」
N級連絡会が定期的に開催され始めてから数日が経過した。学院の雰囲気は以前にも増して活気づき、N級者たちが廊下や中庭で情報交換する光景が日常となりつつある。ワシとリールも、先の任務で築き上げた信頼関係を背景に、日々訓練や研究に励んでいる。
今日は週末前の夕刻、学院の戦術研究室へ足を運ぶ。そこは壁一面に地図や魔物データが貼られ、いくつかの魔道具や参考書が散らばる、雑多で活気ある部屋だ。N級者が自由に使えるスペースとして最近整備され、ワシらも初めて足を踏み入れる。
部屋の中には数名のN級者が集まっており、椅子を囲んで会話を交わしている。見覚えのある顔もあれば、初対面の若者もいる。リールが小声で「ここが噂の研究室ね。思ったより賑やか」とささやく。
ワシは頷き、「手軽に戦術アイデアを交換できる場が増えれば、M級やL級への対応が自然と洗練されていく。学院はいい手を打ったよな」と低く答える。
席に近づくと、双子の姉妹N級者が笑顔で迎えてくれる。「あなたたち、前回の光と一撃必殺戦法を使ってM級魔物を倒したペアでしょ?私たちも試してみたくて、光魔法が得意な仲間を探してるの。」
リールは照れくさそうに「参考になるかはわからないけど、何か聞きたいことがあればどうぞ」と応じる。ワシは横でメモを取り出し、彼女たちにどんな魔物を想定しているのか尋ねる。双子は森の湿地帯で動きの鈍いM級魔物を相手にするらしく、光による眩惑ではなく、逆に敵が光を嫌がって退避する習性を利用してトラップに誘導する戦術を考えているという。
「なるほど、光を使って敵を直接倒すわけじゃなく、光で敵を誘導し、地形や罠で仕留める発想か。」ワシは感心する。「オレたちの場合は正面から叩く方針だったが、誘導型の戦術なら魔力消耗も抑えられるし、長期的なローテーション任務で有利かもしれない。」
リールが嬉しそうに微笑む。「新しい視点ね。光は必ずしも眩ませるだけじゃなく、相手を特定のルートへ誘う『道しるべ』になるのね。私たちも覚えておこう。」
別のN級者がやって来て、夜間戦闘について質問してくる。「暗視魔道具を使ったら余計に見づらくなったと聞いたんだが、本当?」
ワシは苦笑いしながら「確かに精度が低くて見づらかった。ただ、その欠点を逆用できないかとも考えてる。もし暗視が微妙なら、相手もこちらの光に惑わされる可能性が高い。状況次第で使い分けることが大事だ。」
相手は頷いて「なるほど、欠点も発想次第で武器になるんだな」と納得する。こうして知恵を出し合えば、いつかL級魔物に挑む時に役立つだろう。
話し合いが一段落した頃、リールがワシの腕を軽く引く。「外に出ましょうよ、少し頭を冷やしたい。」研究室は情報が溢れていて刺激的だが、詰め込みすぎると整理が追いつかない。
外に出ると、夕陽が校舎の壁をオレンジ色に染め、穏やかな風が吹いている。リールは風に髪を揺らしながら、少し考え込むように口を開く。「あたしたち、どんどん戦術の幅が広がってるけど、ちゃんと現場で使いこなせるかしら?座学や話し合いで得たアイデアが、実戦で役立つかは分からないわよね。」
ワシは微笑んで肩を軽く叩く。「それは実験してみるしかない。次のローテーション任務で、状況に合わせて柔軟に対応できるか試そう。うまく行かなくても学びになるし、成功すれば自信になる。」
「そうね…失敗を恐れず試せるのは、あんたがそばにいてくれるからかも。」リールは少し頬を染めて微笑む。目と目が合うと、心が温まるような気分だ。
日が完全に落ちる前に、寮へ戻る途中、ガルスと鉢合わせる。彼も何やらメモを取りながら歩いていて、こちらに気づくとニヤリと笑う。「お前ら、いい雰囲気じゃねえか。戦術研究もいいが、余裕たっぷりだな。」
リールは赤面し「べ、別に変な意味はないわよ。あんたこそ何よ、その笑い方。」
ガルスは肩をすくめ「悪い悪い。まあ、N級同士で仲良くやれるのはいいことだ。あんたたちがどんどん先に行ってくれれば、オレも負けてられないって気になる。」
ワシは「じゃあ、お前も負けずに新戦術考えろよ。M級魔物相手の夜間哨戒、大変そうじゃないか?」とからかう。ガルスは苦笑い。「わかってるよ、いいアイデア出してM級を華麗に倒してやるさ。」
部屋に戻ってノートを開き、今日得た情報とアイデアを整理する。光による誘導、音を使った攪乱、暗視魔道具の欠点を活かす戦法など、N級者達が持ち寄った発想は多彩だ。L級やK級に挑むにはN3人、N4人といった人数が要るが、基本はM級で戦術を研ぎ澄ませることから始まる。
リールとの絆が深まる中、共に歩む将来像がぼんやりと見え始めている。今は細やかな技術と連携を積み上げる時期、卒業後に本格的な挑戦が待つだろうが、焦る必要はない。
窓から夜空を見上げる。星がまたたく中、明日の訓練計画が自然と思い浮かぶ。シンプルだが、地道な実践を続けていれば、次第に上位ランクへの足がかりも固まるはずだ。リールの穏やかな笑顔を思い出しつつ、ワシは静かに眠りへと落ちていく。
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