第20話「光と音、実戦テスト」

 週末が近づき、学院内は不思議な熱気に包まれていた。N級者による複数の中級クエストが同時期に稼働するため、関係者が慌ただしく準備を進めている。武器点検、魔力測定、医療用ハーブの在庫チェック、ありとあらゆる業務が同時進行だ。


 ワシとリールも書類を受け取り、巡回エリアの地図や魔物出現報告書を読み込んでいる。M級魔物が生息する林道で、近隣農村を脅かす可能性があるから、N級ペアで定期巡回し、発見しだい排除するという計画だ。

 リールが地図に指を走らせ、「この林道は細い川が通っているわね。水があると光の反射も計算に入れないと……」とつぶやく。

 「なるほど、水面で光が反射すれば、魔物が予測しにくい揺らめきを生むかもしれない。逆にこちらも予想外の閃光で目をやられないよう注意しないと。」ワシは頬に手をあてて考える。


 今回からはほかのN級ペアとも情報共有が行われるようだ。同僚となるN級コンビが、それぞれ異なる地点を巡回し、M級魔物の動向を定期的に報告する仕組みらしい。

 「これって、N級者たちがコミュニティを形成して経験を共有することにもなるね。」リールが感心する。「あたしたちが得た知見を他のペアに伝え、逆に向こうからも戦術アイデアを教わる。そうやって全体の底上げを狙ってるのかな、学院は。」

 「その可能性は高い。N級が増えれば、より上位ランクへの挑戦が現実的になる。L級やK級に挑むためには、多数のN級者がそれぞれの強みを発揮できる協力体制が必要だろう。」ワシは同意する。


 講義後、アマル先生が「N級者たちの連絡会」なる集まりを告げる。週一で情報交換会を開く方針で、ワシやリール、ガルス、先輩や新たなN級者が参加し、任務で得た知識を共有する場を作るらしい。

 リールは好奇心を示し、「面白い取り組みね。あたしたち以外のN級がどんな戦術を使ってるか知れば、新しい発想も浮かぶわ。」

 「オレも賛成だ。魔物対策は引き出しが多いほど有利だし、コミュニケーションを通じて、必要な時にチーム再編もしやすくなる。」ワシはうなずく。


 その日の午後、練習後に日陰で休憩していると、リールが少し頬を染めながら問いかける。「ねえ、もしL級やK級に挑む日が来たら、その時もあたしと組んでくれる?」

 ワシは意表を突かれて、一瞬言葉に詰まるが、すぐに口元を緩める。「もちろんだよ。お前が嫌じゃなければな。オレはお前と組むことで、あらゆる戦術の発展ができると確信してる。」

 リールは満面の笑みを浮かべ、「嫌なわけないじゃない。むしろ、あたしはあんたとなら何でもできる気がする」とはっきり言い切る。その瞳には迷いがない。


 夕暮れ、校内の小道を歩く二人、沈黙が心地よい。すれ違う生徒が「またあの二人仲いいな」なんて噂しているが、リールは気にせず「ふふ、今更よね」と笑う。ワシも肩をすくめ、「まあ、周りが何を思おうが、オレたちはオレたちだ」と軽く返す。


 夜、寮の部屋でノートを開き、今後の予定を整理する。M級対処のローテーション任務が近づき、N級連絡会で他ペアと交流し、知識を増やしていく。これにより、次第にL級以上の領域も現実味を帯びてくるかもしれない。

 卒業後の鍛錬、社会に出てからの本格的成長――文中で語らずとも、この先に待つ未知の地平を意識している。学院時代はあくまで基礎固めだが、基礎を磨くほど未来が明るく感じられる。


 リールとの距離が縮まり、気心知れたガルスや先輩、そしてこれから知り合うだろう他のN級者たちとの輪が広がれば、どんな敵も怖くない気がする。

 微笑を浮かべ、窓外の月を見上げる。N級としての確固たる地位を得て、M級対処が当たり前になりつつある今、次の扉は開き始めたばかり。明日はまた新たな一歩を踏み出す日になるだろう。

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