第8話 「対人戦前夜、ライバルとの駆け引きと最終調整」

 中間試験まで残り数日となり、学院全体がそわそわしている。普段はボンヤリした生徒も、筆記試験対策で慌ただしく教科書を読み、実技試験では勝ち抜こうと自主練習に励む。ワシは筆記など朝飯前、50年分の経験があるから理論と歴史はもう問題ない。最大の山場は対人戦の実技だ。


 この数日、ワシは学院の訓練場や中庭を重点的に使い、短時間ながら濃密な練習を続けている。長時間の過度な訓練は逆効果だ。筋肉や魔力経路を疲弊させてしまうと、本番でキレを失う可能性がある。むしろ今は最終調整として、魔力の流れをスムーズにし、精神を安定させることが肝心だ。


 「焦らず行こう。N上位ってだけでも在学中では快挙なんだから、いきなりMは求めない。まずは対人戦で上位入りし、遺跡調査権をゲットする。それが今の目標だ。」


 昼休み、偶然ガルスと出くわす。彼は汗をかきながら腕を回し、筋をほぐしている。

 「バル、最近お前の噂ばっか聞こえるぜ。N上位だとか、古い戦術書を読み漁ってるとか。」

 ワシはニヤリ。「お前みたいに才能があれば力押しもアリだが、ワシは地道に頭使わないと伸びないんでな。」

 ガルスは不敵な笑みで剣を指さす。「まあな、オレは剣一本で突破するぞ。対人戦で当たったら正面から叩き潰してやるから覚悟しろ。」

 「上等だ、正面から来るなら対策は立てやすいぜ?」と軽口を叩くと、ガルスは「くっ」と唸る。


 ガルスはパワー型で真っ向勝負を好む。つまり、ワシはフェイントや足元攻撃で揺さぶれる余地がある。もっとも、これまで見せた手を読まれる可能性もあるから、新たなトリックを用意する必要がある。対人戦は戦術の読み合いだ。


 その足でリールを探しに行くと、彼女は魔法制御室で光弾を精密に飛ばす訓練をしていた。遠くから観察すると、非常に安定した光魔法を放っている。これが対人戦で飛んできたら、軽々回避するのは難しいだろう。

 (なるほど、リールは遠距離攻撃で相手を牽制し、近づく前に封殺するスタイルを狙っているな)


 ワシは心中で作戦を練る。もしリールと当たった場合、真正面から近づくと魔法弾をくらう。ならば、何か視界を遮る工夫や、床板の隙間を利用した奇襲、あるいは咄嗟の物投げで相手の集中を乱すなど、奇策が必要だ。


 コランダという魔法剣士タイプの生徒の名も再浮上してきた。前の模擬戦でワシが勝ったが、彼は雪辱を狙ってくるはずだ。今度は足元攻撃を警戒するだろうから、別のフェイントを用意しないといけない。たとえば、わざと頭部狙いの素振りをしておいて直前で軌道を変えるなど、変則的な攻め方で翻弄できるだろうか。


 夜、寮でマイロやナーナと軽く雑談する。マイロは「バル、お前すげえけど緊張しないのか?」と聞いてくる。正直、少しは緊張するが、前世で散々修羅場を経験したからな。それに今回は命のやり取りではなく、模擬戦だ。負けたって死ぬわけじゃない。


 「ま、別に負けても人生終わらんが、勝てば特別課外活動で遺跡に行けるかもだ。勝ちに越したことはないさ。」

 ナーナは「遺跡調査かあ、面白そう。バルなら行けるかもね! 何か面白い発見したらオレにも教えてよ。」と目を輝かせる。

 「もちろんだ、仲間にはしっかり還元するぜ。」


 こうして人望を築いていけば、いざ外部活動へ出るとき仲間を募る際に困らないだろう。LやKへの道が遠いなら、仲間と連携して効率よく経験を積むのも手だ。前世は一匹狼で失敗したからな、今度は違う。


 深夜、ランプの灯りの下で最後のシミュレーション。対人戦のルールを再確認し、禁止行為や採点基準を頭に入れる。殺傷能力は下げる防具があるから、容赦なくフェイントを仕掛けても怪我は軽度で済むはずだ。となれば、思い切った奇策も使いやすい。


 ワシは一瞬苦笑する。50年生きたオッサン脳みそが、14歳の少年として学内の対人戦をこんなに真剣に考えてるなんて、奇妙な話だ。ギャグみたいな状況だが、これこそ二度目の青春の醍醐味だろう。前世でできなかったことを今は存分にやれている。もう命がけで荒野をさまよう必要はない。計画的に強くなり、一歩ずつ上を目指せばいい。


 明日の朝は軽い体操程度に留めて、体力を温存しよう。朝食はいつもの栄養スープに少し野菜を増やしてもらう。魔法教師には「最近顔色がいいな」と言われているし、コンディションは上々。


 マイロたちが「バル、当日はオレらも応援するからな!」と宣言してくれた。応援される側になったのは初めてで、ワシも悪い気がしない。周囲からの期待は緊張を生むが、今のワシなら楽しめる。


 「二度目の青春だ、観客もライバルも、全部巻き込んで楽しんでやろう。」

 ワシは拳を握る。N上位を土台に、対人戦で名前を上げ、遺跡調査へと繋げる。

 将来MやL、そして卒業時にHあたりへ到達できるかもしれない長い旅の最初の関門だ。


 




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