第7話 「さらなる知識を求め、慎重な特訓と情報収集」
中間試験で対人戦が行われるまで、あとわずか。ワシは日々の訓練に加えて、情報戦にも力を入れている。いかにして才能者に食らいつくか、どうやって安定的に勝ち上がるか。そのヒントは過去の戦術書や、実戦を経験した上級生の噂話に隠されているかもしれない。
放課後、ワシは再び図書室を訪れる。以前は怪しい深部へ潜り込み、サグリ先輩に見つかったりしたが、今回は正攻法でいこう。一般開放されている戦術関連の書籍を読み漁り、対人戦での心理戦テクニックや、魔力を使った足運びの工夫などをメモにまとめる。
「なるほど、魔力でわずかに靴底を浮かせると、突発的な横ステップが可能になるかもしれないな。」
こんな細かな工夫も、ワシの経験値となる。N上位とはいえ、肉体や魔力総量で才能者に劣る可能性は高い。ならば一歩先を読んだ戦術で補う。
同じく図書室で勉強している下級生が、ワシを見て「バル先輩、戦術書なんて読むんですね」と驚いてくる。前世のワシなら理論書なんて面倒で読まなかったが、今は違う。
「努力すればするほど、NからMへ近づく一歩になるだろう。すぐには無理でもな。」
下級生は感心して「自分も頑張ります!」と立ち去る。こうやって周囲にいい影響を与えられるのは、前世にはなかった喜びだ。
帰り道、グラウンドではガルスが剣を振っている。その力強い斬撃を見て「やっぱり才能ある奴は凄いな」と内心思うが、同時に「正面からやって勝てなければ横や下から攻めればいい」と策略を練る。リールは魔法制御室でコツコツ精密魔法練習をしているという噂だ。あの魔法少女が相手なら、遠距離攻撃をどう凌ぐかが鍵になる。
ワシは校舎裏に回って、短時間の自主トレーニング。深呼吸しながら魔力を足底から腹部、そして手先へと循環させるイメージを強化する。こうすることで瞬発力が上がり、対人戦でのフェイントがよりキレるはずだ。
実は前に、サグリ先輩から教わった危険な魔導体質強化薬を使った特訓があったが、あれはもう控えることにした。下手に中毒になれば元も子もない。N上位までこれたのは多少その効果があったかもしれないが、今後は安定志向でいく。MやLを目指すためには、長期的な健康管理と地道な努力が欠かせない。
夜、寮の部屋でノートをめくる。今回の目標は対人戦で好成績を出し、遺跡調査への参加権を得ることだ。遺跡には古代魔導器や特殊鉱石が眠っている可能性がある。それらを入手または観察すれば、魔力運用や身体強化の新しいヒントを得られるかもしれない。MやLを夢見るなら、そういう外部からの刺激が必要だ。
しかし、ここで一つ注意点がある。N上位からMへ行くには長い道のりだ。在学中にMに到達するのは極めて難しいとも聞く。ならば目標はあくまで長期的なものだ。「今すぐMだ!」と息巻くのではなく、「いずれMへ、さらにL、K、J、H……」と段階的に上がる道を想定する。Hまで行けたら大成功。まずは在学中にN上位を確固たるものにして、遺跡や学外活動を経てLあたりに手をかけるくらいがリアルだ。
2年生の段階でN上位に達したこと自体が快挙なのだ。普通の生徒は卒業時にNに届くか届かないかで喜ぶレベルだ。ワシは特殊な経験(タイムリープ)を武器にこれを達成したが、これ以上ペースを乱せば周囲の不審を買うだろう。だからこそ、今は地味な努力で安定感を高める。
翌朝、ワシは学院の裏庭で軽いストレッチをする。通りかかった上級生が「バル、今度の対人戦頑張れよ。お前の戦い方は独特で面白い」と声をかける。人気が出てきたのはいいが、浮ついた評価だけでは何も生まれない。結果で示し続けなければ、すぐに忘れられてしまう。
朝食後、魔力測定室で軽く自主測定。もちろん正規測定ではないから数値は参考程度だが、以前より魔力の循環がスムーズに感じる。細かい工夫が積み重なっている証だ。こうした小さな進歩が、対人戦での瞬発的な判断力や応用力として花開くはず。
試合当日は観客が増えると聞く。教師や覇刀連の関係者、場合によっては外部の冒険者が見物に来ることもあるらしい。優秀な生徒は在学中から注目され、卒業後に高ランク依頼に引っ張りだこになるという。N上位で止まらず、努力し続ければ、卒業時にHを狙うラインに乗れる可能性も高まる。
ワシは決意を新たにする。ギャグ要素だって忘れない。普段からブサイクな顔で愛嬌を振りまいているワシは、真剣な場でもちょっとした余裕を見せることで周囲を和ませることができる。弱い生徒が不安げにしていたら、「お前さん、緊張してんのか? まあ、ワシの顔見て落ち着けよ。これでも在学中にN上位行けるんだから、お前にもできないことはないさ」と冗談混じりに声をかける。
相手は吹き出し、「バル先輩、そう言われると元気出るっす!」と笑顔になる。こうやって人望を集めておけば、情報も入りやすくなるし、万一のときサポートしてくれる仲間が増える。
対人戦直前の時期、リールとガルスがどのくらい強くなっているか想像するとゾクゾクする。リールは魔法精度を極めれば遠距離から追い込んでくるだろう。ガルスは剣技に磨きをかけ、正面突破を狙ってくるに違いない。コランダのような奴も再挑戦してくるだろうし、その他のダークホースも潜んでいるかもしれない。
しかし、ワシには知略と経験がある。50年分の試行錯誤から得た「何とかなるだろう」というメンタルの強さ、そして若い肉体の柔軟性がある。そこに地道なトレーニングと研究、周囲への気配りを加えれば、単なる一発屋ではなく、安定して強い存在になれるはずだ。
夜、ランプの下で最後のイメージトレーニング。対人戦本番、開始の合図が鳴ったらどう動く? 近接タイプならまずフェイントを仕掛け、魔法タイプなら物陰や地形を利用して接近戦に持ち込む。もし奇策を警戒されても、さらに一枚上手を行く別のアイデアを用意すればいい。
この準備が終わる頃には、気持ちが落ち着いている。N上位でも、さらに上を目指すには焦らないこと。MやLへの道は遠いが、こうして1ステップずつ階段を登れば、いつか辿り着くかもしれない。卒業時にはHに近いランクにいけたら、前世の凡庸な人生とは比べ物にならないほどの大成だ。
「よし、明日も地道に頑張るか。」
ベッドに横たわり、ワシは穏やかな気持ちで目を閉じる。ギャグ要素も忘れず、翌朝には何か面白い冗談でも考えてクラスメイトを和ませようかと思いつつ、眠りに落ちた。
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