第4話 弱者を率い人情で鍛える

 実習まで数日ある。ワシはパーティメンバーを呼び出して、毎日少しずつシミュレーションを重ねることにした。彼らは基本凡人、才能者と比べれば能力も低いが、だからこそ綿密な戦術が生きる。


 中庭で地べたに座り、枝で地図を描く。周囲で観察している他のクラスメイトたちは「あれ、バルが指揮官ごっこしてるぞ」とクスクス笑ってるが気にしない。


 「マイロ、お前が囮役だ。鈴を鳴らしてワイバーンを引きつけろ。その隙にジェドが背後から脚部を狙う。ナーナは光魔法で目眩まし、タイミングはワイバーンがマイロに注目した瞬間だ。ワシは最後に懐に飛び込んで急所を突く。理解できたか?」


 マイロは緊張しながら頷く。「マジでオレが囮かよ…大丈夫なのか?」

 「大丈夫だ。ワイバーンは音に引き寄せられるが、すぐ噛みつくほど速くはない。お前は少し距離を取りながら誘導すればいい。怖がるな、ワシが後で助けてやるから。」

 ナーナは「光魔法なんて上手くいくかな」と不安そうだが、ワシが基本原理をもう一度説明する。「目の前で光が弾ければ、相手は一瞬視界を奪われる。その間に決定打を入れるんだ。何度か練習すればできるはず。」


 彼らは自信なさげだが、ワシがにっこり笑って「心配すんな、お前らならできる」と言うと、少し気が楽になるみたいだ。こういうとき、人情って大事だな。前世では自分が弱かったせいで、人に教えたり励ましたりする余裕がなかった。今は知識があるからこそ、落ち着いて周りをサポートできる。


 何度かシミュレーションを繰り返すうちに、彼らも動き方のイメージが掴めてきたようだ。ワシは細かい修正を入れながら「いい感じじゃねえか」と声をかける。観察してた生徒が「あれ、バルたち意外と真面目にやってる?」と呟く。そうだよ、ワシたちは真面目に勝ちにいくんだ。


 放課後、武器実習場で短剣の素振りをしていると、アマル先生が近づいてくる。「バルフォール、最近本当に頑張ってるわね。以前は自信なさげだったのに。」

 ワシは照れくさそうに鼻をこする。「まあ、考え方変えただけです。今度こそ成功したくてな。」

 「いい心がけだわ。あと、あなたのパーティメンバーにも丁寧に指導しているみたいね。リーダーシップがあるのは素晴らしいことよ。」


 先生に褒められると気分がいい。前世は「努力は認めるが限界がある子」程度の評価だったから、これは大進歩だ。人情と知恵で弱者を束ね、結果を出す…そんな展開が実現しそうでワクワクする。


 その日の夕方、校舎裏を歩いていると、一年生が上級生に怒鳴られている場面に遭遇する。先日も似たようなことがあったが、今回は相手が違うようだ。上級生が「お前、俺のノートをなくしただろ!」と喚いているが、一年生は青ざめて震えている。


 見過ごす理由はない。ワシは面倒くさそうにため息をつき、ゆっくり近づく。「おい、お前ら、証拠もないのに下級生を脅すのはみっともないぞ。」

 上級生が振り向いて「なんだバルフォールか?」と威圧してくるが、ワシは動じない。50年生きたオッサンのメンタルをナメるなよ。


 「この一年生がノート盗んだ証拠あんのか? ないならやめとけ。理不尽なイジメはダセえぜ。」

 上級生は舌打ちして立ち去る。一年生は何度もペコペコ頭を下げて去っていく。


 周りで見ていた数人がクスクス笑う。「最近のバル、正義漢ぶってるのか?」と言う奴もいるが、別に正義ぶりたいわけじゃない。余裕があるから弱い奴に手を差し伸べられる。それだけだ。ワシは計算高く立ち回ってるつもりだが、人助けは気分が悪くない。


 寮に戻り、作戦ノートを見直す。明日からは実習当日まで短縮授業になり、パーティで準備時間が増えるらしい。このチャンスを活かしてメンバーの連携を仕上げる。きっちり息を合わせれば、あっさりワイバーンを仕留められるだろう。


 夜、ランプの灯りを見つめながら決意を固める。ここまでのワシは順調すぎるくらいだ。だが油断は禁物。実習で結果を出せば、ワシの評価は本物になる。弱者でも戦略で勝ち、才能者を出し抜ける。それが証明できれば、次のステップへ進める。


 「よし、やってやる。二度目の青春、ワシが引っ張ってやるぜ。」



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