第3話 12月24日 洋菓子店ボヌール前にて②

「じゃあ、副店長も一緒に歌いますか? 今なら聞いてる人もいませんし」


 三吉の言葉通り。帰宅ラッシュの時間もほぼ終わったので、人通りはほとんどない。

 わずかな通行人も、マスクで顔をしっかりガードして足早に歩き去っていくだけだ。ケーキ屋の前でサンタとトナカイの仮装をした男二人になど目もくれない。きっと家に帰れば、家族がすっかりパーティーの準備を整えているのだろう。

 うらやましくないと言えば、嘘になる。


「副店長は、すぐ次の彼女探すんですか?」

「いや、しばらく女はいいかな」


 嘘ではないけれど誤解されるように、言葉を選んで返す。実際、彼女が欲しいわけではない。普通に女性と付き合えたら、未練が断ち切れるかなと思っただけだ。

 まぁ、それも上手くいかなかったけど。


「三吉くんこそ、当てはないのかい。さっちゃんとかさ」


 自分から話題をそらすために、とっさに他のバイトの話をふる。


「いや、ああいう遊んでそうな子は好みじゃないんで」


 5mほどの距離にいる相手をバッサリ切り捨てる三吉。もっとも、2人とさっちゃんとの間にはガラスの壁がある。あちらは暖かい店内で接客中だから、男同士の話を聞かれる心配はない。


「そうでもない、と思うけど」


 副店長として、一応擁護はしておく。ただし、内心はガッツポーズ。


「いやいや。だって、あの子先週まではイブのシフト入ってなかったでしょ? 予定があったけど、ドタキャンされたんだと思いますよ」

「まぁ、そういう可能性もあるね」


 実際は違う。翔太はそれを知っているけど、わざわざ真実を話しはしない。

 敵に塩を送る必要なんてないのだし。


୨୧・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧


 精一杯ノーマルなふりをする副店長、翔太。

 一体、バイトの三吉くんに何を隠しているのでしょう?


 次話『12月22日 ボヌールのレジ裏にて』

 22日午後6時更新予定です!


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