おげんきで

@knmatt

2024.12.13

 一昨年まで、あるコミュニティに所属していた。ある音楽アーティストを中心として開かれたそのコミュニティの中に、彼らと仲の良いアーティストや彼らのファン、また自身も音楽や美術、映像、企画などで創作活動をしている人々が集まり、日夜ラジオ放送のようなものをしたり、作品を公開したり、ほかのアーティストの新曲や面白そうな映画が出たら感想を交換したり、悩みを何となく打ち明けてみたり、突然ネットサイファーしたりしていた。時に同じ音楽イベントに参加しては実際に現地で落ち合って一緒にライブを楽しんだり、集まって遊んだりを、いろんな年代の集まる中でしていた。

 丁度そのころ、自分は実生活でそれなりにドン詰まっていて、秋から都会でしていたいろいろなことを一旦ストップして実家のある田舎に戻って生活したりしていた。人との接触が疲れて仕方ない日常に押しつぶされながら、夜が来るまで何となくスマホゲームで時間をつぶし、週に二・三日バイトをして、食い、眠り、誰かがボイスチャットルームにいるのを見つけては飛び込んで、誰かの話に涙が出るほど笑って、それに今か今かと待って温めた会心の一撃のコメントを打って、ウケたら布団の中でガッツポーズしたり、突然送られてきた発言リクエストに応えて情けない声で話してぶるぶる震えたり、あまりにも遅い時間に聞こえる笑い声と騒音にしびれを切らした親がドアをノックするまで楽しんだ。とにかく面白かった。人と関わるのが嫌になって人のいない田舎に逃げ帰ってきたはずなのに、スマートフォンを通して触れ合うのはとても楽しくて、嬉しくかった。それが、次の春すぎくらいから、みんないろいろ忙しくなって集まることが減っていった。それだけが理由ではないだろうが、たまのラジオでも、交わせる話題がそんなになくなっていった。



 今や、出会いのきっかけになったコミュニティはほとんど動いていない。コミュニティをきっかけにほかのSNSでつながった人もいた。無駄口をたたきあったりしていたDMも、ここ半年はすごく静かだ。

 ただ、毎月一度はみんな元気にしているだろうかと思う。ストーリーに足跡を残していく、他愛もないツイートをいいねする、彼ら彼女らを、ほかのSNSで何となく視認する。けち臭さが何にでもしみついてしまっていてか、何となく自分が気になって相手も興味を持ってくれそうなイベントがあったら一緒に行こうと声をかけてみたりする。確かにあの時のような生き生きした脈動はないけれど、どうしてもこの縁を手放したくないと思う自分がいる。間違いなく潮時なんだろうと思う。どこまでも根性なしな自分の人付き合いに嫌気がさすこともあるけれど、かといって欲望のまま冷め切ったエンジンをいじくりひっぱたく気概も必要性もまだない。まあ自分が情けないのは確かであろう。かつて思い切ってちぎることができなかった縁を、いまはそうやって振り子みたいににぶらぶらさせている。時々日常を綴るみんなのつぶやきを見て、薄くコーティング剤を塗ってみては知らんぷりしてまたその紐を揺らす。それがぷつりとちぎれてしまったら今度こそきっと自分にも。


おげんきで

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