第5話 流刑島
最果ての流刑地に送られる長い道中で、俺は十五歳になった。それは大人と認められる歳だ。
「あいつは今頃、みんなに祝われているんだろうな」
そう思うと、ふつふつと苦い想いが込み上げてきた。
「全く、お前のせいで、いい迷惑だよ」
流刑執行人の老人ティオスが、吐き捨てるように言った。
「悪いな」俺は少し同情した。
ティオスの鋭い目は、その正体を語っていた。彼は無駄口を叩かず、淡々と仕事を進める一流の冒険者だろう。
殺される覚悟もしたが、それなら最初から処刑されている。
「そうだ。これをやる」
彼が、不意に俺へ手渡してきたのは、立派な短剣だった。
「なぜ?」
「お前、大人になったろう。代わりに祝ってやるよ」
握った短剣には、少しの温もりがあった。
※
そこは誰もいない、小さな氷の島だった。太陽が昇らない季節もある。
ここは王国の飛び地で、極北の地だ。俺はいくつもの国を越え、ここまで連れてこられた。
壊れかけの小屋が一つ、風に軋む音を立てていた。
「着いたぞ」
ティオスが小舟から降りながら言った。
「ここで五年過ごすのが刑だ。だがその前にくたばるだろうな。最後に聞くぞ。王国に戻らないと約束すれば解放だ」
「悪いが、その約束はできない」
「口約束だ。破ればいいだけだろう?」
「そんな人間に見られたくない」
老人は肩をすくめ、やれやれと呟いた。
※
ティオスは、積んである食糧とリドリーの剣や持ち物を全て渡した。
「え? 貰っていいのか?」
「当たり前だ。生き抜くんだろう。それと、この島は、人はいないが魔物はいるからな」
「そうなのか……」
「そうだ、小屋を見てみよう。修理が必要かもしれん。真冬が迫っている」
執行人は、ついて来いと、小屋に入ると説明を始めた。生活の術を。そして一泊していった。
「ああ。ありがとう、世話になった」リドリーは久しぶりに礼を言った。
「じゃあ、また来週来る、欲しいものがあれば教えてくれ」
「何だって? それではあんた、王国に帰れないじゃないか」
「ここらが俺の生まれ故郷でな。死ぬ時は、故郷に帰りたいものさ」
老人が去ると、一人残された。
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