街中のダンジョンクリエイターやってるっす(前編)

丁度昼時の冒険者ギルド…


「ねぇ、クラリスちゃーん。もうちょっと初心冒険者用に作り直してくれない?」

「駄目っすよ。あれ以上優しくしたら”ヌルゲー”とか言って図に乗る奴が出るから駄目っす」


あたしはそう言いながら、オリハル鉄で出来た弓を磨きながらマスター(オカマ)の話を聞いていた。


あっ、どうも。

エミーさんこと、エミーリア・シルフィさんの御付きしている冒険者その一のクラリスっす。


正式には、元バーロー国所属のブラウン子爵の娘、クラリス・アンネッタ・ブラウン子爵令嬢っす。

と言っても、今はエミーさんと同じただのクラリスっすがね。


んで、先程からマスターが言っているのは…このリーベルタール共和国の中心都市における街中ダンジョンの運営に、マスターが私に声をかけて調整してくれと頼んできてるすよねぇ…


実を言うとあたし、エミーさんと同じ転生者で、生まれた時に貰ったチートが、エミーさんが通常のチートに加えて”狩人ゲーム”系のチートを持っているならば、あたしの持っているチートは”ダンジョン作成ゲーム”系のチート、所謂大手のネット小説投稿所で見かけるダンジョンマスター系のチートを持っているんすよね。


ほら、よく「ダンジョンコアを守るため~」とか、「冒険者を倒したポイントで魔物を~」とかあるじゃないっすか。

あれですよ、あれ。


しかし、あたしのそのチートはというと、ちょっと変わっていて…ダンジョンコアなしにダンジョンを一からの作成及び既存ダンジョン編集などの製作が出来るんすよね。

ぶっちゃけると、ちょっと前から流行っているブロック上の3D世界クリエイターゲームや、ドット絵の世界で家やダンジョン、敵を好き勝手自由に作れるクリエイターゲームと言った方が良いっすかね。

そんなスキルを持っているっす。


勿論、こちらの世界の家族(子爵一家)に知られたっすけど…


「大した能力じゃないな。むしろ人間がダンジョンなんて作ってどうするんだ?」


と、呆れられていたっすからねぇ…あの頭でっかち一家が。

おおっと、いけないいけない…あの生意気兄貴を思い出すところだったっす。

ちなみに、あたしは糞チート様アマンダにあの生意気兄貴と婚約者の宰相の子息を奪われたっすからねぇ。

マジでやってられないっすよ、かーぺっ。


と、話を戻して…先程からマスターが言っている初心冒険者用ダンジョンと言うのが、あたしがギルドの建物の地下に作った街中ダンジョンなんすよね。

元々はエミーさんを含めた微妙なチートを持った転生者や”元”貴族令嬢(令息)の訓練用に作ったんすよね。あたしが酒の席で「あっ、自分ダンジョン作れるっすよ」といって酔っ払いの勢いで作った奴なんすけど、コレが意外にも高評だったらしく、ダンジョン探索する冒険者達の訓練としての便利施設化しちゃったんすよね。


なので、難易度はエミーさん達よりも凄くやさしめに作り直してはいるんすけど…


「あのね、マスター…あたしの作ったダンジョンは倒れたら直後に帰還できるという物凄く易しめにしてるんすよね。本来のダンジョンだったら、ダンジョン内で倒れたら最後、生きては戻れずにダンジョンに取り込まれて永遠の闇に彷徨う事になるんすよ?だから、他のダンジョンよりも少し難しくしたり、敵も強くしたりしてるんすよ。そこを理解して欲しいんすよねぇ…」

「でもねぇ…流石に二階目が野良オークナイト出現は厳しいと思うよぉ?」

「あれなら、通常の野良オークが簡単に攻略できるようになるっす」

「ゴブリンソードマスターも?」

「同じくっす。むしろ、ただの野良ゴブリンに負ける冒険者は生きていけないっす。最悪女の子はオークゴブリンの繁殖奴隷にされちゃうっすよ?マスターはそんな女の子冒険者を出したくは無いっすよね?」

「うっ…そう言われちゃうと、心が痛いわぁ」


うん、自分自身もこういうのもなんすがね…女の子冒険者がオークやゴブリンに負けて攫われた後が悲惨なんすよね。

実際に、目の正気を失って頭壊れちゃった子を何人も回収した事があるから、結構きつめに言いたくなるんすよね。

ちなみに、あたしら転生令嬢達は、オークゴブリンに攫われても割りとその辺図太いんすよねぇ。

むしろ、ある男爵令嬢だった子(前世が男の子)がわざと連れ攫われてから、そのオークとゴブリンの雄全員を種無しになるまで搾っちゃったすからね。

何を搾ったかは…これでも一応女だから言わせないで欲しいっす。


まっ、あたしも現場見るのは嫌だけど、クリエイター系チートを持ってる身としては、初心者にあまり甘やかしたくはないっす。


そんなわけで、先程からのマスターの申し出に断っているんすよね。



「仕方ないわねぇ…ギルドマスターの集会では進展無かったと伝えるしかないわね」

「むしろ、もう少し一般冒険者や兵士の登録基準を上げて欲しいっす。見る限り、最近の冒険者のレベルは酷いっすよ」

「うーん…最近、冒険者家業をレジャー感覚でなろうとする子達が多いのよね。一時期の転生勇者や集団トリップ勇者みたいに」

「あれ、結構迷惑っすよね…」


あたしはそう言いながら、磨き終えた弓に弦を張り直して、席の横に立てかけてから、スライスされたポークファゴのモモ肉ローストをフォークで刺して食べ始めた。


「ヘェイ!マスター!!クエストを終らせてきましたネー!!」


…食べ始めたそんな時に、あまり関わりたくない令嬢やつが返ってきたっす。

このエセメリケン子女がぁ…


「あーらぁ、ブリンダちゃーん。依頼終らせてきたの?」

「イェス!!もうね、クエストに出てきたヴィランはとってもイージーで楽勝デース!!」


と、今メリケンノリで一部言葉が片言になっているこの元令嬢…ブリンダさんも転生者です。

しかも、ちゃんとしたクオーターの日本人で、重度のアメコミオタ。

何時もはタイトスカートの紳士服を着て、悪役怪人ヴィランが出たらヒロインスーツで戦う某超人女子系チート勇者です。

しかも、現在はその例の青と赤の基調したマントとレオタードみたいなヒロインスーツを着てるっす。

見てる方が恥ずかしいから、あまり関わりたくないけど…


「オゥ、そういえばマスター。思い出しましたですけどー、他のギルドマスターからのお願いで街中ダンジョン改良してくれと言われてマース」

「そうなのよー。今、それをクラリスちゃんに話して『わかったっすよ。ちょこっとだけ改良するっす。それでいいっすね?』…あら?引き受けちゃうの?」

「どの道、一回はメンテナンスは必要っすからね」

「サンキュー!クラリース!!街中のギルドマスターの懇願を見ていたら、ワタクシちょーっと」

「分かったからそれ以上暑苦しい話を止めて頂戴っす…はぁ」


ああ、その場の空気で安請け合いをしてしまったっす。

うん、ブリンダさんは悪い人じゃないのは知ってるっすけど、性格が本当に合わないんすよねぇ…

早く帰ってきて欲しいっすよ、エミーさーん!!





一方、その頃のエミーリアは…


「よっしゃ!アークデーモン、150匹目ぇ!!」

「まだまだ私達は行けるよー!!」

「…呪文封じは任せて」

「早く仲間呼びしなさい。ほら、早く♪」


とある地下迷宮で、中堅冒険者達のレベル上げの手伝いで、仲間(他の令嬢)と共にアークデーモン養殖で経験値を稼いでいた…






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