令嬢でしたが、今は冒険者です(後編)
依頼開始日から三日ぐらい過ぎて…
火竜が現れたとされる森丘のキャンプ地点で、私とクラリスは採取と道具作りをしていた。
空の大タル10個にカヤクタケとモヤスソウを混ぜた爆薬を各個に詰め込んで、小型のタル数個に余ったカヤクタケの粉で作った火薬で詰め込んだ。
クラリスはギルド特製のトラップツールを使いながら、アラクネの巣の糸とアルラウネの蔦で編んだネットと組み合わせた落とし穴型自動設置罠を作っていた。
うん、これらの冒険者便利グッズの大半は、ギルドに所属していた魔王軍から抜けた亜人冒険者達によって編み出された道具なのよね。
特に、落とし穴のネットに関しては、ヘルシスターズと呼ばれるアラクネとアルラウネのコンビ冒険者の考案レシピで広く普及されたのよねぇ。
おかげで、アラクネとアルラウネ達の収入源として潤い、独自の商業ギルドを作るほどの財を得たのよね。
本当、転生者商売様々である。
その一方で…例の”バカ”王子達はというと…
「チャールズぅ~…虫に咬まれたぁ~…」
「ああぁ…アマンダぁ…君の白魚の様な肌に虫が咬むなんて…おい!衛兵!!早く虫除け煙を焚くんだ!!」
ああ、
こりゃあ財政悪化するのは間違いないわ。
早く廃嫡して欲しいものです、陛下。
と、そんな馬鹿夫婦と取り巻き二人(騎士オーギュストと魔術師アーロン)+騎士10人のパーティーはほっといて、私達は道具作りも終えた所で昼飯を
「んー…リーベルタールの遺跡平原も悪くは無いけど、こっちの森丘の光景は絶景だねぇ」
「そうっすねぇ~。野性のガーガーも沢山居て困らないっす」
そう言いながら、私達は集団で固まって虫を啄ばんでいた野生の丸駝鳥ガーガーを数羽狩り取って、生肉を採取していた。
一応、食べる分だけ取っておくけど、余った分はちゃんと火竜討伐用に残しておくのね。
自然界の生き物全て、無駄になる物はないから。
そう言うわけだから、早速肉焼き機セットを道具袋から取り出して、ガーガーの肉を焼き始める事にした。
うん、小型のポシェットに入るぐらいの大きさとはいえ、ちゃんとしっかり焼けるこの肉焼き機は非常に便利である。
しかも、お手軽の200Gで買えるからお徳なのよね。
ちなみに、よくガーガーの肉は不味いという声があるけど、あれは魔法の炎で焼くから駄目なのよ。
ガーガー自体、魔法耐性が凄くあるから魔法の火では中々炙る事が出来ないし、生焼けで外側黒焦げになる事が多いのよ。
何事も自然が大事、コレ本当に大事なのよ。
そんなわけで、パリパリに焼けたガーガー肉を頬張り始める事に…
と、思っていたら…空から黒い影が近付いてくるのをはっきりと見た。
「早かったわね」
「火竜も丁度昼時っすからね」
二人でそういった瞬間、少し離れた所に群れていたガーガー達が悲鳴を上げながら逃げ始めていき、そのうちの一羽が群から離れて逃げ出してしまった。
それを見逃さなかった火竜は、急降下して一羽のガーガーを目掛けて強襲してきた。
無論、ガーガーは抵抗する事もなく火竜の足に鷲掴みされて攫われてしまった。
まさに、自然の摂理だねぇ…
「んー…やっぱり若くて小さいっすね」
「でしょ?どうやら、最小金冠サイズの個体だね」
普通、火竜ならば頭から尻尾の先端まで合わせると大体14mが妥当であるが…今通り過ぎた火竜の大きさは少なく見積もっても10mをちょっと超えた程度の大きさ…足から背中までの全高でも1.5m程度に過ぎなかった。
どうやら、成体になったばかりの個体だね。
コレに負ける王子達って…どれだけ
そう考えただけで、頭が痛くなるなぁ…
まっ、とりあえず肉食いましょう。
帰ってきて早々に、王子達から驚きの言葉を聞いた。
「エミーリア、聞け。食料が尽きた」
「はっ?」
「だから、持ち運んでいた食料が尽きた。一度王都に戻る」
…What?
だから、なんで三日ぐらいで食料が尽きるんですかね?
しかも、あんだけ用意した携帯食料も全部食い尽くすとか、どんだけ浪費生活してるんだ?この馬鹿どもは。
私は溜息しながら、呆れて言い返した。
「あー、そうですか。なら、お帰りになりますか?」
「当然だ。一度帰還してから父上に食糧支援を送って貰う」
「どうぞどうぞ。勝手にお帰りください、無駄飯食い。ペース配分も考えずに、狩りなどの食糧確保も出来ないお貴族様は要りませんですし、火竜は私等二人で十分ですわ」
そういって、シッシッと追い払う仕草をしてやったら、王子はおろか御供二人と騎士達は顔真っ赤になって剣を抜こうとしていた。
同時に見計らって、私とクラリスは大量に解体したガーガーの肉を目の前にどさっと置いてやった。
「それに、食料尽きたといっても、私達にはこれぐらいの食料は簡単に採取出来ますので」
「が、ガーガーの肉を焼けだと!?魔物の肉を!?」
「あら?ガーガーは立派な動物ですが、何か問題でも?」
アーロンの魔物という言葉に、私は動物と答えてからドヤッと返してやると…アーロンの顔がぐぬぬ表情で私を睨みつけていた。
その一方で、後ろでクラリスがガーガーの太股肉を一本抜いて、焚き火の炎でじっくりと焼き始めていった。
んー、やっぱりさっき食べたばかりだけど、何度食べても飽きないのよね。ガーガー肉。
「もう一度言いますが、帰るなら勝手にお帰りください。私達はちゃんと食糧確保した上で、火竜に挑みますので」
「クソッ…!お前達!狩りに出るぞ!!」
「お、王子!?何をですか!?」
「決まっている!ガーガーだ!僕達も狩りに行くぞ!!アマンダ…ちょっと待っててくれ。今から食料を手に入れてくる」
「ふぇぇ…魔物の肉なんか食べたくないですよぉ…」
ああ、甘ったるい馬鹿女発言…飯が不味くなるわぁ。
本当、こんなんが主人公だと考えた”乙女ゲーム”の開発者の顔が見たいわ。むしろ、顔面を陥没するぐらいに殴りつけたい。
本当、リーベルタールが”狩猟ゲーム”の世界で良かったぜ。フーハハッハーハー!!…はぁ。
そんなわけで、幾つかのガーガーの生肉を保存収納箱(氷の結晶入り)の中に放り込んで、私達は早速火竜の巣を特定しに偵察しに行った。
それの繰り返しの更に三日過ぎた…
インナー以外は同じ防具を装備し続けた私達であるが、夜は何時も手入れしている為にそこまでキツイ匂いはせず、体もキャンプ地点の沢で洗い続けている為何も問題なかった。
一方で、王子達はというと…
「もーやだー!!お風呂に入りたいー!!」
「僕も帰りたいー!!」
そう言って我侭言い続ける馬鹿を余所に、御供二人と騎士達は黙々と私達の真似事しながら採取しては備品を作っていた。
どうやら、今回ので私達の冒険者暮らしに納得したらしく、自分達の持っている知識の範囲で自力でなんとかし始めてきた。
うん、分かって貰うだけで私とクラリスは満足だった。
ついでに、お古であるが薬草などの冒険者向けの調合書一式を貸してやると、見る見る内に中身の知識を噛み砕いて吸収して覚えていってくれた。
これなら大丈夫でしょうね。
さて、後は…火竜討伐だね。
というわけで…朝一番にガーガーを襲っていた火竜を発見した際に、一番臭いとされるペイント実で作ったボールでマーキングした臭いを辿って、向かう事にした。
現在は、火竜が降りれるほどの広さがある森の中にて、大きな池に顔を突っ込んで水を飲んでいた。
草むらに隠れた私とクラリスは火竜に気付かれないように白い煙幕の煙玉を投げてから視界を封じた後、その後にガーガーの肉にドクテングダケの粉をかけた毒肉を数個置いて、もう一度草むらに隠れてから奴が食べるのを待った。
奴は警戒すると絶対に食べないが…匂いを消し、視界も煙幕で遮断して、敵もいない状況で目の前にご馳走があるなら食べないわけがない。
況してや、負担口にした事の無い物の匂いがしても、普段食べているガーガーの匂いなら溜まらないだろうね。
そういうわけで、私とクラリスは奴が毒肉を口にするのをひたすら待ち続けた。
そして、奴が毒肉を口にして噛もうとした瞬間、奴は突然口にするのを止めた。
気付かれたか?
いや、奴の視界は別の方へと向けていた…
「エミーリア!何処に行ったんだ!!エミーリア!!」
「出て来なさいよ!全く、なんでこんなに視界が悪いのよ!!」
あんの…馬鹿二人がぁぁぁぁぁぁぁ!!
折角の私達の討伐計画を邪魔してくれてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
勿論、そんな叫びをする前に…火竜が自分の縄張りに人間が入った事に激昂し、威嚇の咆哮を上げてきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!かりゅうだぁぁぁぁぁぁぁあぁあ!?」
「きゃああああああああああああああああああああ!?」
魔物退治用とはいえ、王族の礼服とドレスしか着ていなく、
「クラリス、プランBよ」
「ラジャーっす」
私とクラリスは互いに返事し、私は背負っていた剣斧を斧モードに変形させてから火竜に突撃し、クラリスは折り畳みの弓を組み立て、矢を射り始めていった。
と、勢い良く飛び出したのは良いが、幾ら開けている場所でも討伐するには狭すぎるエリアだから、火竜の殺気をあの馬鹿達からこちらに引くために、火竜の顔面に斧の刃を思いっきり叩きつけた後に、クラリスの弓矢を当てさせれて尻尾付近に命中させた後に、魔物の糞を混ぜた肥やしボールをぶつけて追い払った。
ついでに、マーキング用ボールも追加で投げつけておいた。
コレで何処に逃げたかわかるからね。
「た、助かった…エミーリア!何処に隠れてい…」
「こんのバカタレがぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁあ!!」
馬鹿王子が声を出す前に、私は思いっきり胸倉掴んだ後に投げ飛ばした。
さて、気を取り直して…あの火竜はどうやら巣穴前の開けた丘の草原で、のんびりと生きたガーガーを食っていた。
全く、手間取らせてくれちゃって…
「ところで、エミーさん。プランBってなんすか?」
「あ゛っ?んなもんはないわよ」
「ですよねー。んじゃ、何時ものアレでいきますか?」
「行くしかないっしょ…んじゃ、高台に上って頂戴ね」
「ラジャーっす」
そう言って、クラリスは高台に上って身を隠し、私は暢気に肉をモグモグしている火竜に向かって突撃していった。
「ヒャッハー!!その命寄越せやぁぁぁぁぁ!!」
後から駆けつけた王子とアマンダ、御供達が全員到着したみたいだけど…既に火竜は虫の息に等しい状態になっていた。
「な、なんなんだ…これは…」
「こ、こんなの…私の知っている”乙女ゲーム”じゃないわ!!」
はいー、言質頂きましたー。
ここは”乙女ゲーム”じゃなくて”狩猟ゲーム”でぇぇぇぇえす!!
といっても、どっちにしても現実異世界なんですけどねぇ。
と、ヨレヨレに歩く火竜の足下で、私は剣斧の剣モードでざくざくとぶん回しながら足やお腹を切りまくって、高台からクラリスの矢が沢山飛んで翼に命中し、穴だらけにして飛行阻害させていた。
けれども、やはり飛べる分には頑丈である翼膜だから、やはり飛び立とうとするんだよねぇ…
「クラリース、もういっぱーつ」
「ほいっちょ。コレで最後っすね」
そう言って、クラリスは懐から最後の閃光玉(ウィルオウィスプの光とバクレツ虫を混ぜた玉)を空高く投げて、飛び立とうとした火竜の目を潰して墜落させた。
その隙に、私は自動設置罠の地面にさしての地中内を爆破させて、落とし穴を作って更に動きを封じた。
「んじゃ、仕上げにやっちいましょう」
「りょうかーいっす」
私とクラリスは、まだ蠢いている火竜を余所に、巣穴前に仕掛けておいた爆薬たっぷりの大タルを固定していた縄を千切って、火竜に目掛けて転がしてやった。
そして、片手には小型のタルにある導火線に火をつけた後、落とし穴の周りに転がった大タルに目掛けて投げてやった。
一個の大タルの爆弾が爆発すると、後に残っていた大タルが連座して爆発していき、爆薬の爆炎が火竜の全身に包み込んでいった。
流石の火竜も、これには耐え切れずに悲鳴の鳴き声を上げてから、力尽きた…
「…ふぃー。討伐完了ー」
「やったっすね!!ああ、でも…下位個体だから当然っすよね」
「下位でも油断は禁物。基本は忘れてはいけないよ、クラリス」
「うぃーす。数ヶ月前の試験の時にも散々苦虫噛まされましたからーっす」
「んじゃ、ギルドに連絡入れてから剥ぎ取りしましょう」
「ラジャーす!」
そう言って、私とクラリスは後ろで茫然と見ている王子達をそっちのけで、火竜の素材を頂戴し始めた。
「あー…♪やっぱり竜種のお肉は美味い♪」
「早速食べちゃいましたか…」
あの後、リーベルタールの冒険者ギルドに連絡入れて、火竜の死体を運んで貰うように手配してから私達は王子達と共に王城へと戻り、討伐の証である甲殻を民衆に見せながら凱旋する王子達より先に、陛下に謁見してから早々にリーベルタールに戻る馬車に乗っていた。
そのついでに、火竜の肉をちょこっと剥いで頂き、それを燻製状にした奴をモグモグと齧りながら馬車に揺られていた。
うん、帰ったらうちのギルド全員でドラゴンステーキ祭りをしたいなぁ。
特に火竜の肉は美味しいからねぇ。デュフフフ♪
「それにしても…チャールズ王子達の顔、見たっすか?あれは笑いものでしたっすね」
「うん、あれは絶品よ。しかも、陛下の廃嫡及び臣下に落とされた王子の顔で飯が美味くなるわぁ」
そう…あの後、謁見中に入ってきた王子…チャールズとアマンダの二人を見た陛下は、私達に申し訳なさそうな顔をした後、実の息子とその妃の二人にはっきり宣言されましたからねぇ。
”チャールズ、お主は本日を持って王位剥奪と廃嫡、妻のアマンダと共に第二王子ヘンリーの臣下となって、働いて貰おう。お前達が散財した分はきっちりと働いて貰う”
と、言われた時のあの二人は顔芸レベルで変形したからねぇ。
本当に笑いものだったわ。
そして、オーギュストとアーロンだけど…あの二人も見限って爵位返上して、バーロー王国に冒険者ギルドを作ると言っていたなぁ。
国を出ないだけ、マシかな。
というわけで…報酬は帰ってから頂く事にして、今はのんびりぶらりと揺られる馬車の旅に楽しみましょう…
そう思いながら、私とクラリスは馬車に詰まれた干草の上で転がって寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます