令嬢でしたが、今は冒険者です(中編)
その日の晩。
住まいとなってるギルドの自室を半月ほど空ける為、幾つかのインナーと今回の依頼用の防具一式。
そして、最近完成した剣斧を用意し、動作確認をしていた。
うん、引き金一つ引くだけで剣から斧、斧から剣へ変形する浪漫武器がやっと完成したわ。
というより、これ作る為にどれだけの試行錯誤があったのか思い出したくなるわぁ…むしろ、武器工房の親方とドワーフの皆さん。ごめんなさい。
「ちぃーす、エミーさん入るっすよ」
「どうぞー」
そんな干渉を浸っている時に、クラリスが部屋に訪れてきたので招き入れた。
おっ、今回は砂漠蜥蜴竜ガレオン一式の防具かぁ、セーラー服っぽいデザインが羨ましいのよね。
私は筋肉質の余りに似合わなかったから、作るのをやめちゃったけど。
「ん?エミーさんの防具は火炎蛙オニカワズ一式っすか?」
「うん。どうせ若い固体の火竜なら、これで良いかなと思って」
「ああ、うん。そうっすよね。溶岩の中を泳ぐ蛙の甲殻なら、ばっちこいっすよね」
そう、火竜よりもオニカワズが恐れられているのは、あの溶岩…つまりはマグマの海の中を平然と泳ぐ耐熱性を持つ、甲殻に呼ぶに等しい厚い皮と体力なんだよね。
その上で、主食が火山地帯に住む溶岩竜の幼体と火薬性の成分含む岩だったりするのよね。
おかげで、体内には大量の火薬成分がたっぷりと生成しているから、それを胃液と共に吐き出して爆発させてくるから恐ろしい。
ていうか、気性も激しいから空を飛ぶ火竜ですら喧嘩売って、倒しちゃう個体も居るから困る。
ただ、意外と素材の有用性が大きい魔物でもあり、しかもゴム質であるため耐電手袋などで使われるほどの人気ぶりである。
その上、防具のデザインはライダースーツに肩パットに如何にも悪魔っぽいデザインのベルト、そしてフルフェイスのヘルメットみたいな兜である。
どう見ても「ヒャッハー系世紀末」装備です。本当にありがとうございます。
でも、意外とイカす防具として常に上位に入ってるんだよね。これ。しかも、男女問わずに。
なお、女性のイカす防具一位二位は皆大好き麒麟さん防具です。
しかも、例のビキニアーマーで一番防御力もあって大人気ですよ。
私も作りたかったけど、麒麟討伐依頼が国中ギルド全体で一つに付き予約半年以上待ちとあるから、中々お目にかかれないのよね。
その上、素材剥ぎ取りは二回までと決まっているから、中々集らない。
と、脱線したけど…それなりに人気の防具であり、肉も美味いとされる蛙さんの防具は優秀であると言いたかった。
「んー…しかし、なんでこんな依頼を出したっすかねぇ…私には理解できないっす」
「大方、王太子もとい”噂の王子様”の前で格好つけようとして失敗したチート聖女様の仕業じゃないかしらね」
「あー…あいつっすか。私、あいつのチートは苦手なんすよね」
「良いじゃない。私等は火竜の素材と依頼金が欲しい。王国は馬鹿二人で潰された面子を回復したい。それだけよ。さて、明日から王国に向かうわよ」
「はーい。では、お休みなさいっす」
そう言って、
さて、私も寝ますか。
翌日…
私達二人はコブリンが手綱を握るガーガー車に乗りながら王国国境付近までやってきた。
「ダンナさん、もうすぐ到着ゴブ」
「ええ。何時も送迎ありがとね」
「いやいや、コレも商売ゴブよ。ダンナさん達リーベルタールの人間が俺達ゴブリンに色々教えてくれたから、助かってるゴブ」
実際には、あのマスター含めたリーベルタール中の冒険者ギルド長全員が、野生のゴブリンやオーク達に安定に稼げる職業の一環で教えただけなんだけどね。
おかげで、ゴブリン達やオーク達による集団窃盗や性犯罪が一気に減ったのよねぇ。
一応、暗黙の了解での合法化した遊郭街を作ったことで性犯罪が減ったのも入ってるけど、生活収入が無いから人を襲うのよね。亜人達は。
「それじゃあ、御代よ」
「ひぃ、ふぅ、みぃ…丁度ゴブなり。毎度、ありがとゴブ~」
ゴブリンは渡した貨幣袋の中身を数えてから、ガーガー車を町の方へと引き返していった。
さて…目の前の国境検問の前まで来たのだけど…今回は正式に通れるから大丈夫。
まずは衛兵に…
「止まれ。ここから先には通行料を…」
そう言ってきた衛兵を言い終える前に通行料を払い、陛下の捺印された依頼書を目の前で広げて見せた。
「…ほぅほぅ。陛下がリーベルタールの冒険者ギルドへの依頼書か。通行料も支払った事だから良いだろう。良くぞバーロー国へ来た冒険者達。さぁ、通るが良い」
衛兵は満足した顔をして、私達をすんなりと通してくれた…
むしろ、私達の顔見ても気付かなかったのかしらねぇ…あの人達は。
「エミーさん、今衛兵の顔見たっすけど…どうやら新人っぽいすよ」
「通りでね。お叱り喰らわなきゃあ良いけど…」
そう思いながらも、私達は関係ないことだから気にしないで検問を通り過ぎていった…
その後は、王都までの定期便の馬車に揺られながら、昼食の干し肉を食べていた。
今回の干し肉はショウグンキザミトリのモモ肉を胡椒とスパイスで作った奴だけど、中々いけるね。
本当は火で炙ると美味いんだけど、移動中だから仕方ないのよね。
あと、検問前で販売していたライ麦パンを買ったけど…正直、こっちはあんまり美味しくない。
むしろ、今齧ってる干し肉の塩分がなければ食べれないほど塩気が無い。
「エミーさん…これ、塩入ってないすよ」
「今気付いたわぁ…どうやら、塩が高騰しているみたいね」
パンに使う塩の量で大体理解したが…どうやら、王国の物価が上がっているみたい。
バーロー王国自体は岩塩が取れるほど安価で売られているはずなのに、塩が余り使われないとなると…経済状況が著しいぐらい悪いとしか言えない。
もしくは、誰かが締め上げで意図的に上げているか…
まっ、既に王国の人間じゃない私達からすれば、どうでもいい話でもあるが…不味い飯を食わされると成るとちょっと…ねぇ。
と、思っていたら、空から
「ま、魔物だぁぁぁぁ!?」
馬車の運転手は動乱して馬を走らせようとしたが、私は運転手に走るなと警告した後に馬車の積荷あった麻痺キノコを搾って汁を出して、投げナイフに麻痺キノコ汁をぶっ掛けた後に、魔物に目掛けて投げた。
”ピギョエエエエエエエエ!?”
魔物は胸に投げナイフが刺された上に、キノコの毒が体内に回って痺れ、動けなくなった。
その隙に、私は運転手に止めるように指示し、クラリスに見張って貰ってから下りて、魔物の頭を剣斧を振り下ろして真ッ二つに切り落とした。
「結局、馬車から降ろされちゃったじゃないすか」
「しょうがないじゃない。ご馳走となる魔物だったんだし」
その後、私が鳥魔物を血抜きし始めたら、馬車の運転手がクラリスごと私達の荷物を降ろして半狂乱になって逃げてしまった。
本当、この国の人間は時代遅れになりつつあるわね…まっ、魔物を食べようなんて考える人間は早々にいないのよね。
ただの動物などと認識すれば、普通の生き物なのに。
そんなわけで、1mほどの鳥魔物…スモールコッコの羽毛を全部剥いだ後に、近くの沢で綺麗に水洗いした後は即席手製串に刺して焚き火で焼き始めた。
勿論、内臓は全部容器に取って置いて、内臓の変わりにニンニクとバジルを磨り潰した物を詰めて糸で縛ってから焼いているので、匂い消しは万全。
その上、焼いてる最中に塩と胡椒を少々振りかけながら焼いてるから、味付けもばっちり。
我ながらに絶品の一品になるなぁ。
ちなみに、さっき血抜きしてから水洗いしたのは、投げナイフに使った麻痺キノコの毒を出したからなのよね。
あれ、水溶性だから血を抜いて洗えば大抵落ちるし、微量程度だったら人間が食っても大丈夫なキノコだし。
むしろ、冒険者の中ではあの麻痺キノコによる麻痺毒薬を付けた弓矢の誤射に当たって痺れると言う、初心者同士での事故が何度もあったりするけど、割りかしらと皆青筋立てながら笑って元気に生きてるのよね。
さて、コッコの肉もパリパリに焼けた事だし、クラリスと分けて食べちゃおう。
早速、私は焼けたコッコの肉を適当に伐採して作った板の上に乗せて、剥ぎ取り用のナイフで丁度半分に分けた。
うん、ニンニクとバジルの香りが素晴らしく広がっていて、食欲がそそる。
それじゃあ、頂きます。
…うん、すごーくうんまいうんまい。
やっぱ、見た目グロくても魔物の肉はいける奴はいける。
これがアルコール度数の強い酒があればツマミとして最高なんだけどねぇ…
依頼中はアルコールの強いお酒を飲む事が禁じられているから困るのよね。
酔っ払って依頼遂行中に支障を来たして失敗とかなったら、ギルドの面子にも関わる事だし。
何よりも、依頼中の敵は魔物だけじゃないからねぇ…
「クラリス」
「分かってるっす」
私が声をかけた瞬間、クラリスは使っていたフォークを藪の中に目掛けて投げ、隠れていた奴らに当ててやった。
「ギャアアアア!?」
「フォ、フォークで目を貫通しただと!?」
藪からは瑞穂らしい人間の盗賊男達がワラワラと出てきて、刺された奴を庇いながら私達の前に現れた。
ひぃー、ふぅー、みぃー…合わせて五人か。
「おい、糞尼!!よくも弟分を…」
と、言わせる前に、私は剣斧を斧状態のまま横に薙ぎ払い、五人纏めて胴体ごとぶった切ってやった。
…あっ、一人だけ生き残らせるのを忘れていた。
まっ、どうせ物取りか強姦目的なんだろう。
そんな事を考えながら、私は盗賊達の持っていた者を物色しながら、クラリスは盗賊の目に差したフォークを引っこ抜いて血を拭ってから、水で洗い終えたフォークで焼いた肉を食べ始めた。
これだから、冒険者は辞められないのよね。
善悪関係なしに、やる時は鋼の豆腐精神でやらないと。
勧善懲悪お涙頂戴なんてしていたら、明日の命なんて無いんだし。
というわけで、あらかた物色終えた私は盗賊達の死体を集めて燃やして、ご飯食べた後はそのまま寝た。
そして、次の日の朝から起きてから、昼まで休まず歩いた所で、やっと王城の城門まで辿り着いた。
その後は、門番の衛兵に陛下の依頼書を見せた後に謁見の間まで案内され、やっと国王陛下と謁見が出来た…
「よくぞ参った、エミーリア。三年ぶりだな」
「お久しゅう御座います、陛下。ご健在で何よりであります」
「よいよい。儂もそろそろ歳じゃし、隠居をしたいものであるが…」
そう言いながら、陛下は隣に居る息子夫妻に睨みつけており、睨まれている息子達は目を逸らしてから私の方へ睨んでいた。
そう、その息子達とは…かつての婚約者であり私(とクラリス達)を振り回してくれた王太子ことチャールズ・アルフェント第一王子様と婚約者のアマンダ・サーリア・カーマイン妃様である。
どうやら、正式に結婚したらしいっぽいね。あの二人。
「なんで、貴様がここに居るんだ…」
「リーベルタールの冒険者ギルドの所属代表として依頼を引き受けに参上致しましたが、なにか問題でも御座いますでしょうか?王太子殿下」
「よりによって、貴様等二人が受けるとは…父上!この二人に依頼させるぐらいならば、破棄を…」
「黙れ、愚息。今、我らに女神様の加護がない現状で、火竜を倒せる者は国中にはおるまい。聖女であるアマンダですら満足に戦えない。ならば、外部の人間によって火竜を倒し、国民に聖女が火竜を討伐したというプロパガンダを作らなければならないほど、弱体化した不始末の後処理を考えてみよ!!…コホン、失礼したな。エミーリア。知っての通り、この愚息どもの火竜討伐失敗の尻拭いをさせる事になるが、やっては貰えぬか?」
「勿論で御座います。その代わり、証拠品以外の火竜の死体諸々は素材として全部ギルドとして頂戴致します」
「むっ?火竜の素材は貴重なのか?」
「はい。実は乱獲者によって火竜がこちらの国に流出している様子で御座いますので」
「うむむ…今回の素材の件は了承した上に、近い将来は他国の冒険者達を国に自由行き来が出来る様に善処しよう」
「感謝致します、陛下」
そう言って、私と終止無言であったクラリスは陛下(のみ)に深く頭を下げて礼をし、謁見の間を後にした。
予め、ギルドが先に回って手配してくれた宿屋に泊まり、念の為結界石数個を部屋の隅に置いて寛ぐ事にした。
「やっぱ疲れるっす~…馬鹿兄貴も居てめっちゃ気分悪かったすよ~…」
「ごめんねぇ。相変わらず、あの逆ハーの阿呆の餌食になったアイツと合わせて」
「こんな乙女ゲーなんかの国よりも、早く魔物狩りたいっすよ」
「はいはい。それなら、地図を見て狩場での予定組まなきゃね」
そう言ってから、私は火竜が住み着いたとされる森丘の地図を開いて、クラリスと共に計画を練っていった…
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